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ゼンティは実験台の上に置かれている薬品の瓶を横目で見た後に、再びリィラに目を合わせる。
「レンのやつ、毒薬の製造には成功したみたいだね」
「ねぇ、あの捕まった人たちは……どうなるの?」
「口封じならすぐに殺すはずだ。殺さずに捕らえるのは利用するためだよ」
生きた人間を利用するというレンティの思惑が読めない。獣魔じゃあるまいし、捕食する訳ではないだろう。
ゼンティは目の前のリィラの紫の瞳を見据えながらも、どこか遠い地を思い浮かべるような視線で語る。
「数十年前の魔物の大量毒殺。あれは魔物に毒を飲ませたのではない。毒を注入した人間を魔物に捕食させたんだ」
「え……?」
ゼンティの言う事が本当なら、その恐ろしい方法をレンティは親から引き継ぎ、再び実行しようとしている事になる。
つまり全ての魔物に有毒な毒薬を開発して、それを生きた人間に注入する。その人間を生きたまま魔物の餌として森に撒いた。
毒の餌として使われた人間には罪人もいるが、強制的に捕らえられた罪のない人たちも含む。
「そう……あれは魔物と人間、両方の大量虐殺だよ」
これが、センティとレンティの両親である、先代のアディール王と王妃が行った非道。領地を広げる目的のために。
ゼンティの話は、これで終わりではない。この先に、さらに真実が隠されている気がしてリィラの緊張は解けない。
「毒の人間を捕食した魔物は……全滅しちゃったの……?」
「普通の魔物はね。獣魔は毒に耐性があるから、捕食して人の体を得た後も生きたよ。短命だったけどね」
毒を持つ人間、短命……それは、まるで毒の種族のようだ。いや、これこそがゼンティが告げようとしている真実だった。
「その時の、毒入りの人間を捕食した獣魔が住む里。それがリィラちゃんの故郷、ポワゾンだよ」
「う、そ……じゃあ、私は……」
リィラはもう声を絞り出すのも苦しい。だが不思議と納得できる。自分は人間よりも魔物に近いと思っていた、その考えすらも。
毒の里・ポワゾンの住民は全員が短命だった。そして住民の全てが人間ではなく獣魔なのであれば当然、リィラの両親も。
すでに答えは出ているのに、リィラ自身が口に出せない真実をゼンティが言葉にして伝える。
「リィラちゃんは人間じゃない。僕と同じ獣魔だよ」
なぜだろうか。リィラは衝撃の真実を受け止めても、心のつっかえが取れたような解放感で満たされていく。
もう迷う必要はない。魔物に成り下がるなんて人間寄りの考えも捨てられる。自分は最初から魔物だったのだから。
リィラは獣魔でありながら、その体内には人毒が含まれている。それは人毒を捕食した獣魔の遺産であり血筋。
両親は二人とも人の姿を得た後にリィラを産んだので、リィラは生まれた時から人の姿をしていた。
だから、ずっと気付かなかった。自分が獣魔だったなんて。
残酷な事件の真実をリィラに語らずに、死を待つためだけに隠れ住んでいた里の人たちの心遣いすらも。
短い寿命を生きていくリィラの人生だけは、悲しみや復讐で狂ってほしくはなかった。何も知らないままが一番幸せだと思うから。
……そんな里の人の心遣いすらも、レンティが里を消滅させた事で全てが壊れた。
リィラの毒を含んだ紫の瞳に悲観の色はない。
「ゼンティ。私、人間が……レンティが憎い」
「うん、そうだね。だから、これは僕たちの復讐だよ」
ゼンティの瞳に映るリィラの瞳は、毒の紫から魔物の赤に変わっていた。
それは憎しみの念によって、リィラの体内に含まれる毒よりも魔物の血が色濃くなって瞳に現れた、一時的な現象。
リィラは18歳。成人となったこの時にリィラの獣魔の血が目覚めた。
「絶対に許さない……ゼンティお願い。レンティを殺して……必ず殺して」
「もちろんだよ。リィラちゃんの願いは必ず叶える」
明日に誓いのキスを交わす二人は、今もここで誓いのキスを交わす。それは愛ではなく復讐の誓い。
今、この瞬間にゼンティとリィラの願いは完全に一致した。
ゼンティの温もりから離れると、リィラは再び牢屋の方へと向かい、捕らえられた人々に語りかける。
「みんな、もう少しだけ我慢して。明日、必ず助けるから」
リィラの敵は人間そのものではない。人間と魔物を虐殺しようとする者。そこに種族は関係ない。
リィラはもう決して一人ではない。愛するゼンティ、アレン、ヒメ、ベスティア国の民。
……それに、この身に宿した命も。
愛する者を守り、共に生きる未来のために、ゼンティとリィラは復讐を果たす。
そして運命の結婚式の日を迎える。
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