「前川さん……北田さんたちはどこでしょう?遥香様がお土産を渡したいからと呼んでおられるんですけど。あと……婚約者という方がご一緒です」
「池田様ね」
この時間、前川さんはキッチンでお料理中。
今は誰も手伝っていないので、聞いてみると第一家事室の清掃と整頓だという。
「玄関ホール近くにおられるんですね、呼んできます。前川さんもお願いします……って……池田様はよくここへ来られるのでしょうか?」
サッと手を洗う前川さんに聞くと
「そう頻繫でもないと思うけど…私が帰ったあとのことは分からないから、どうかな?」
あまり接点がなさそうな返事が返ってくる。
それならいいのよ……
そう思いながら、玄関ホールに戻るようにして第一家事室に行くと、遥香はキャリーバッグを開けているようだった。
北田さんと広瀬さんも手を止めて玄関ホールに来ると
「前川さん、北田さん、広瀬さん、それから田中さんへは次に来た時に渡すように預かって欲しいんだけど、このバームクーヘンが有名らしいから。あとこのジャムもね」
みんなで食べて、ではなく、一人に一箱と大きな一瓶のお土産を遥香が彼女たちに手渡す。
「え、こんなに?」
「豪華すぎて……このジャム、見たこともないほど果肉が見えてます…」
「このくらいで豪華なんて大袈裟ね」
前川さんと北田さんに答えた遥香に
「ありがとうございます、遥香様。お預かりは田中へですか……?桑名へ……は?」
広瀬さんがとても言いづらい雰囲気を出して聞く。
その全てのやり取りを池田がじっと見聞きする様子は、この場で何が起こっているのか把握しようとしているようで、私への視線も時々感じる。
広瀬さんの言葉に、前川さんと北田さんも気まずい顔で視線を泳がせたけれど、私は
「真奈美に渡すお土産なんかないわ!」
という音声が録れたらいいな、と期待した。
だけど
「真奈美は私の担当だもの。あなた方と同じお土産だなんてことはないの。不公平さを感じて不満なんて言わないでよ?真奈美への特別なお土産は、私の部屋で渡すわ」
遥香は愛想よくそう言ったのだ。
私は想定外だと思うと同時に、何か企んでいるのかもしれないとも思う。
でも、三人はホッとした顔で
「ありがとうございます」
と遥香へ口々にお礼を言って下がった。
「真奈美、キャリーを運んで」
「かしこまりました」
開いたままのキャリーバッグをそのままに螺旋階段を上がる遥香に並んだ池田が
「あれ、ハウスキーパー?それともメイド?」
と遥香に確めている。
「どっちでもいいのよ、使えば」
「確かに」
はっ?
アンタに言われたくないわ。
「一人だけ若すぎないか?」
まだ聞く?
私のことは放っておいて。
「22だって。若いのに、人に使われることが仕事なんて惨めよね。まあ、立派に使えるように私がしつけてる最中」
「22……」
そう呟いた池田がキャリーバッグを運ぶ私を振り返った気配がしたが、私は足元に気をつけるフリで絶対に目を合わせない。
早く帰ってくれ、もしくは、遥香と二人きりになればいいでしょ?
私はお土産もいらないから、池田の近くにいるリスクを避けたいのよ。
私が池田に会った時には、桑名でなかった。
偽名が遥香にバレると、私が疑われる要因を与えてしまう。
だから、気づかないでっ!
コメント
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あれからのお土産ってなに?コワくて想像できない…物ではなく何かやること、やらされることかしら? 池田は…どこかで?って思ってる?真奈美ちゃんの年齢を聞いて気付いた?他人の空似と思ってくれるといいね。 でもこの日を境に頻繁に来るようになりそうな気がするよ。 真奈美ちゃん!落ち着いて、冷静にね📣✊🏻 ̖́-