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永い貴方と儚い貴女
第4話 残酷な終焉 Ⅱ
シュッ カキンッ ザシュッ
もうどのくらい経っただろうか。
両者共に疲れが見える。
「…みんな…っ。」
「かなり息が上がっていますね…。」
改めて辺りを見渡し、セラフィムに対抗する1階-別邸2階の執事達が目に止まった。
白と黒の燕尾服が赤く染っている。
きっとベリアンは怪我をしているのだろう。
彼の動きには無駄がなく、とても怪我人とは思えない美しい戦いを見せてくれる。
しかし、このままでは先に彼が壊れてしまう。
「ねぇ、ナック! 」
「主様?どうなさいましたか?」
「ベリアン…怪我してるよね…っ?」
「…っ!」
ナックに続き、アモン-フルーレ-ムーの視線もベリアンに集まる。
そしてその直後、アモンだけがまた別の方向に向き直った。
「…フェネスさんもっす。」
「フェネス…? 」
フェネスの方に目をやると、ベリアンと同じように燕尾服が赤く染っていた。
少しの沈黙の後、ナックが口を開いた。
「そろそろ交代した方が良さそうですね。」
「アモンくんはフェネスさんと、」
「フルーレくんはベリアンさんと、」
「…お願い出来ますか?」
「了解っす。」
「もちろんです。」
彼らは自分の武器を手に取ると、私に一礼してから走って行ってしまった。
そして気が付けば、入れ違いにベリアンとフェネスがこちらに向かっていた。
「2人とも!大丈夫…っ?」
「主様…申し訳ございません。」
「こんなお見苦しい姿を…っ。」
「そんなこと…っ。」
「でも、俺達は大丈夫です。」
「どんなに深い傷を負ったとしても…、」
「主様だけは、必ず守りますから。」
「…フェネス…っ。」
「えぇ、そうですね。」
「例えこの命に代えようとも…。」
「ベリアン…でも…っ。」
私の心配を払うように、2人は優しく微笑んでくれた。
温かく包み込まれるような、そんな声に少しだけ肩の力が抜ける。
しかし、彼らにも彼らの命があって。
私の為なんかじゃなく、もっと大事にして欲しいと願うばかりだった。
・・・
「…っ!」
「悪魔執事…っ!」
彼らの羽は既に切り落としてあった。
弓矢班とそれぞれ知能天使と対峙する執事達の連携により、割と初めの方に切り落としに成功したのだ。
矢には、ルカスが調合した”再生を遅らせる”効果を持つ薬を塗っておいた。
未だ羽は再生していないし、まだもうしばらくは大丈夫だろう。
羽がない天使なんて、飛べない鳥と同じ。
同じ地に足をつけている以上、完全実力戦となる。
・・・
ベリアン-フェネスが欠けた知能天使戦に、
フルーレ-アモンが加わった。
「はぁ…はぁ…っ。」
「くっ…。」
「ボスキさんっ…しっかり…っ!」
「フッ…悪魔執事…っ。」
「もう諦めたらどうだ?」
体力に底が見え始めている。
特にボスキは、元から体力に自信がある方ではなかった。
ハウレスやアモンのサポート付きだとしても、そろそろ限界なのではないか…。
どうしても彼ばかりが気になってしまい、 私は目が離せなかった。
・・・
終わりが見えないようにも思えたこの戦いも、いよいよ終盤に差し掛かる。
手にするのは・・・喜びか-絶望か。
どちらに転がってもおかしくはなかった。
しかし、悲劇は突然訪れる。
シュッ カキンッ
「く”っ…。」
「よし…っ!」
「これで…終わ…り…?」
「…じゃな…っ!」
あと一歩というところまで追い詰めた・・・
その時だった。
「あれは…っ!」
「天使の…大群…だと…っ。」
別邸1階の執事で処理していた郡とは別に、 まるで王の危機を嗅ぎ付けてやって来た従者の如く、大量の天使が舞い降りてきた。
知能天使に身を引く様子はなく、ただただ絶望する執事達を愉快そうに眺めていた。
「ベリ…アン…っ。」
「…っ。」
「あれ程の量が…まだ残っていたとは…。」
「俺、加勢してきます。」
「フェネスさん…。」
「いいえ、ここは私が。」
「ナックさん…?」
「ベリアンさん。フェネスさん。」
「引き続き、主様の護衛をお願いします。」
「分かりました。」
「…ナックくん。」
「無理はなさらないでくださいね。」
「…ふふっ。」
彼はYESともNOとも言わず、私達に一礼してから走って行ってしまった。
それから・・・
執事達は突如現れた天使の数を着実に減らす。
弓矢班として、ある程度距離のある場所に身を置いていた私達も襲われることがあった。
しかし、ベリアンとフェネスにより呆気なく消されてしまうのだった。
・・・
そしてその時は、突然訪れた。
「…?」
「…2人とも!天使が…っ!」
「主様、お下がりください。」
「さっきより数が多いですね…っ。」
数は多かったが、彼らならまたすぐにでも片付いてしまいそうだ。
そう思って、ふと先程まで気に掛けていた、 ある1人の執事へ目を向けた。
すると、思っていたものとは全く違う光景が広がっていた。
「…貴様…っ!」
「くっ…!」
他の執事が通常天使と対峙している中で、彼だけがスローンと戦っていたのだ。
「…ボスキ?」
驚きの余り言葉が出ない。
しかし、そんな私もすぐに我に返った。
何故なら・・・
「…く”っ…はぁ…はぁ…っ。」
「フッ…これで終わりだな。」
「悪魔執事…っ!」
遂に体力の限界が来たのだろうか。
彼はその場に蹲り、刀を手放していた。
スローンが剣を力一杯振り上げた時、それと同時に私の体も反射的に動いていた。
「ボスキ…っ!」
全てがスローモーションに見えた。
間に合わないかもしれないのに。
それでも私は、考えるよりも先に足を動かしていた。
「主様…っ!」
「俺たちから離れないでください…っ!」
必死な2人の声すらも、私の耳には届いていなかった。
視界には、たった1人彼しか移っていない。
彼の名前を叫ぶ自分の声と、その後に続き小刻みに聞こえる足音。
今この瞬間、私は彼の為に呼吸をしていて、残酷な運命を辿っている。
そんな気がした。
ザシュッ
「…く”っ…。」
バタンッ
「…なっ…悪魔執事の…主…っ?」
「…は?」
「…主…様…?」
剣が振り下ろされるその瞬間、私は彼を背に目を瞑った。
視界が真っ赤に染った頃、意識が朦朧とする中で私を必死に呼ぶ声が聞こえる。
眠たくて、痛くて、今すぐにでも閉じてしまいそうな重い瞼を必死に開けた。
「主様…っ!」
「どうして…ここまで…っ。」
「…ボス…キ…。」
あぁ、駄目だよ。
私に構ってばかりで周りが全然見えてない。
再び振り下ろされようとしている重たい剣。
今度こそ、確実に彼を仕留める。
せっかく守った命が再び失われようとしているのに、私はそれをただ見ているだけしか出来なかった。
そもそも・・・
私が今ここで目を瞑ってしまったら、彼はどうなるのだろうか。
あの日、悪魔と契約を交わした私達の命日は同じはず。
結局どうすれば彼を失わずに済んだのか。
ある意味落ち着きを取り戻した冷静な頭で、問いに対する答えを求めていた。
振り上げられた剣が、彼との距離を詰める。
「ボ…スキ…っ!」
弱々しく彼の名前を呼ぶ自分の声を遮るように、振り下ろされたはずの剣は彼ではない何かとぶつかる音を響かせた。
カキンッ
「ボスキ…っ!」
「なっ…ハウレス…っ!」
ゆっくりと目線を上げれば、その逞しい背中に驚かされる。
間一髪の所で助けに入ってくれたハウレスの息は上がっていた。
「主様…っ。」
「ボスキ…今すぐにでも手当てを…っ!」
ハウレスはスローンと対峙しながら、ボスキに私の治療を求める。
しかし、彼は私の頬を優しく撫で、傷口に手を当てたきり動こうとはしなかった。
恐らく”もう助からない”と悟ったのだろう。
「主様…。」
「…ボス…キ…。」
「すまない…っ。」
「絶対に守るって…誓ったのにな…。」
「…ふふっ。」
苦しそうな顔をする彼に、 最後の力を振り絞って小さく笑って見せた。
決して自分を責めては欲しくなかった。
「今まで守ってくれてありがとう」
この気持ちを何よりも伝えたかった。
「…あり…がと…。」
「愛…し…。」
最後の言葉を伝え切る前に、私は重かった瞼をゆっくりと下ろした。
「…主様。」
「俺達…いや…っ。」
「何でもない。」
「…ゆっくり休めよ。」
・・・
こうして天使 対 悪魔の戦いは、
無事悪魔側が勝利を収め、 長年に渡り続いた争いに幕を下ろしたのだった。