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薄暗い地下牢は、天使の聖域とは思えないほど冷え切っていた。鉄格子の向こう、鎖に繋がれた悪魔が壁にもたれて座っている。
少年は剣を握ったまま立ち尽くしていた。
「…どうして、抵抗しなかったんだ。」
自分でも意外なほど、声は低く静かだった。
悪魔は顔を上げない。
ボロボロで、なんとも痛々しい姿だ。きっと、ロクな扱いを受けなかったのだろう。
「抵抗しても、結果は同じだった。」
掠れた声だった。
「僕たちは負ける。いつもそうだ。」
少年は眉をひそめた。
「なら、なぜ戦うんだ。悪魔は争いを好むのではないのか。」
悪魔は小さく笑った。
それは嘲笑ではなく、どこか疲れ切った笑みだった。
「あなたは、なぜ剣を振るうの?」
「正義のためだ。天界を守るために――」
「誰から?」
言葉が詰まる。
少年は答えを知っているはずだった。
だが、目の前の悪魔は、今にも消えてしまいそうなほど弱っている。
「…悪魔から。」
「俺は今、この鎖で繋がれている。」
悪魔はゆっくりと鎖を鳴らした。
「それでも、まだ僕は“脅威”?」
沈黙が落ちる。
少年の胸の奥で、何かが軋んだ。
そして、初めて少年の方を見る。
赤い瞳は静かに、炎のように揺れていた。その瞳は、まるで宝石のように美しかった。 少年は息を呑んだ。
「僕たちも、生きたいだけだ。」
剣を握る手が、わずかに震えた。
それは、教えられてきたどの悪魔とも違っていた。
「…それは、正義じゃない。」
少年は絞り出すように言う。
「そうかもね。」
悪魔は目を閉じた。
「だけど、僕たちが生きてることが“罪”なら――この世界は、最初から間違っている。」
少年は何も言えなかった。
地下牢の冷たい空気の中で、 彼の信じてきた正義に、ひびが入った。