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須藤健の問題は、Dクラス全体を巻き込む大きな出来事になっていた。
本当に須藤くんが暴力を振るったのか。
それとも、何か裏があるのか。
堀北さんを中心に、
クラスメイトたちは証言を集め、真実を探ろうとしていた。
ひなもまた、桔梗ちゃんと一緒にできることを探していた。
昼休み。
「ひなちゃんって、本当に優しいよね」
櫛田桔梗――桔梗ちゃんがにこっと笑う。
「そんなことないよ。でも、須藤くんには退学になってほしくないなって……」
「うん、私もそう思う!」
桔梗ちゃんの明るさに、ひなの不安も少し和らいだ。
その日の夜。
寮の自室で勉強していたひなは、気分転換に廊下へ出た。
静まり返った廊下の先に、一人の男子生徒の姿が見える。
綾小路清隆だった。
「綾小路くん?」
「……ひなか」
彼は自動販売機の前に立っていた。
「眠れないのか」
「ううん、ちょっと気分転換したくて」
「そうか」
いつもの短いやりとり。
それなのに、彼といるだけで心が落ち着いていく。
綾小路くんは缶ジュースを一本取り出し、ひなに差し出した。
「これ、飲むか」
「えっ、いいの?」
「ああ」
受け取った缶の冷たさに、胸がじんわりと温かくなる。
「ありがとう」
二人で窓際に並び、夜の校舎を見下ろす。
静かな沈黙の中、綾小路くんがぽつりと口を開いた。
「最近、頑張っているな」
「え?」
「須藤の件でも、勉強でも」
思いがけない言葉に、ひなの胸が高鳴る。
「見ててくれたんだ……」
「まあな」
その一言だけで、嬉しさが込み上げてくる。
少しの沈黙の後、ひなは小さくつぶやいた。
「綾小路くんがいると、安心するの」
彼はしばらく黙っていた。
そして、静かな声で答える。
「……それなら、悪くない」
いつもと同じ短い言葉。
それでも、その声にはどこか柔らかさがあった。
自室へ戻る前、綾小路くんに呼ばれた
「ひな」
「うん?」
「無理はするな」
たった一言。
けれど、その優しさが胸いっぱいに広がる。
「……ありがとう」
ひなは微笑み、部屋へ戻った。
ドアを閉めたあとも、
綾小路くんの静かな声が耳の奥に残っていた。
夜の廊下で交わした短い言葉たちは、
ひなの心にそっと灯る、小さな光のようだった。