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あれからタクシーで保育園に向かい、凜を迎えに行った私たち。
自宅に着くと、安堵感から脱力してしまい動けなくなってしまった。
そんな私を心配した竜之介くんは自分が夕飯の準備をするからと言ってくれて、私は凜と共にゆっくり過ごす事を言い渡されて夕飯が出来るまでの間、今後の事を考え直した。
今日は竜之介くんや良太くん、お店の人たちのお陰で何とかなったけれど、このまま周りに迷惑をかけ続ける訳にはいかないだろう。
けれど働くのを辞める選択も出来ない為、人に迷惑をかけずにどう切り抜けていくべきかを悩んでいると、
「亜子さん」
いつの間にか食卓に料理が並び、凜を椅子に座らせてくれた竜之介くんが私の名前を呼ぶ声を聞いて我に返る。
「あ、ご、ごめん! 考えごとしてて気付かなくて……」
「いや、それは大丈夫。ご飯出来たから、とりあえず食べよう?」
「うん、ありがとう」
竜之介くんに促されて椅子に座った私は彼が作ってくれた料理を眺めながらポツリと呟いた。
「……竜之介くん、今日は本当にごめんね」
「亜子さんが謝る事じゃないでしょ? 悪いのはあの男たちだ」
「でも、元はといえば、私が――」
「亜子さんのせいじゃない。だから、そんなに思いつめる必要は無いよ」
「でも……」
「あのさ、亜子さん」
「ん?」
「暫く仕事、休んでみたら?」
「え? で、でも……」
「暫く亜子さんの姿が見えなくなったら、アイツらも諦めるかもしれないでしょ? まあ職場には迷惑掛けちゃうかもしれないけど、今のまま危険に晒され続けるよりは良いと思うし、事情が事情だから職場の人たちも分かってくれるよ」
「でも……」
「金銭的な事を心配してる?」
「……それも、ある」
「その心配はいらないよ、それについては俺がサポートする。何もずっとって訳じゃないんだ、少しの間くらい、俺を頼ってよ。俺は亜子さんの彼氏だよ? 彼女が困ってたら助けたいって思うのは普通の事でしょ?」
「竜之介くん……」
分かってる。
こういう時は素直に頼るべきだって。
それに、意固地になって仕事に出ても、今日みたいな事が続けば、従業員だけじゃなくて、お客様の迷惑にもなるかもしれない。
すぐに休めるか分からないけど、一度話をしてみて、休めるようなら暫く休みを貰う方がお店の為にも最善策のように思えた私は、
「……とりあえず明日一度職場に行って店長に話してみるね」
竜之介くんの提案通り、休みが貰えるか掛け合って見る事に決めた。
翌日、
「――そうね、私もそれが一番良いと思うわ。亜子ちゃんにもしもの事があったら大変だもの」
心配した竜之介くんが職場まで一緒に来てくれて共に店長に話をしてみると、店長もそれが良いと言ってくれた。
「店の方は心配しないでね。実は良太くんが知り合いの子を紹介してくれてね、もう一人宅配の子を雇う事になったの。だからひとまず人手も足りるし、状況が落ち着くまで亜子ちゃんは休んでくれて大丈夫よ。その男の子たちが姿を見せなくなって問題無さそうになったら私の方から連絡するわね」
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします」
何でも良太くんの紹介でもう一人雇う事になったようで、お店の人手不足という懸念がなくなった私は店長の厚意に甘えて状況が落ち着くまで休む事になった。
「良かったね、休める事になって」
「うん」
「暫くはゆっくりするといいよ」
「……うん、ありがとう」
休める事にはなったものの、私の不注意でお店に迷惑を掛けた上に休みまで貰うなんて、申し訳無さが募っていくばかり。
それに、店長の厚意で数日間は有給休暇扱いにしてくれるとの事で、その間はお金が貰えるけれど、状況が改善されずに長引けば稼ぎが一切無くなる訳で、いくら竜之介くんが気にするなと言ってくれていても、頼り続けるなんて出来ない。
私の悩みに気付いている竜之介くんは突然、
「亜子さん、今日は二人きりでデートしようよ」
いつも通りの笑顔でそんな事を言い出した。
「え? デートって……竜之介くん、仕事は?」
半日休暇を取って付いてきてくれたので、私をマンションまで送ったら竜之介くんはそのまま職場へ向かうはずだったのだけど、
「実は、今日は半日休暇じゃなくて有給休暇にしてたんだ。元から休める時は取るように言われてたし、まあ、今回はちょっと急だったけど、今はちょうど仕事も落ち着いてるところだったから快諾して貰えたよ」
「そうなの? でも、何か申し訳無いな……」
「良いんだよ、俺がしたくてしてる事なんだから」
「竜之介くん……」
「それにさ、こうでもしないと亜子さんと二人きりではデート、出来ないでしょ? 勿論、凜も居る方が楽しいけど……たまには、二人きりってのも良いかなって」
「……うん、そう、だよね……」
こんな状況下で職場にも竜之介くんにも申し訳無さはあるものの、二人きりで出掛けるチャンスなんてそうそう無い事もあって、内心嬉しくてたまらなかった。