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中也version
「……あ? てめェ、今なんて言った? 青鯖(あおさば)を『抱いてる』だと?」
先に声を荒らげたのは、太中の中也だった。重力使いの誇り高い外套を揺らし、信じられないものを見る目で目の前の男を睨みつける。
「ああ。それがどうかしたか?」 中太の中也は、どこか余裕のある、男の色気を漂わせた笑みで煙草をくゆらした。 「あの野郎、口では死にたいだの何だの抜かすが、俺が本気で組み敷きゃあ、面白いほど可愛い声で鳴くぜ? 抵抗できねェように押さえつけて、俺の重力でベッドに沈めてやる時の……あの、屈辱に濡れた眼。たまんねェよ」
「……反吐が出る。てめェ、あんな自殺嗜好の包帯無駄遣い装置に、自分から跨らせてるのかよ」 太中の中也が、苛立ちを隠さずに手袋を噛み締める。 「俺は、あいつに好き勝手されるのは死ぬほど嫌だが……あいつが俺を蹂躙しようとしてくる時の、あの底冷えするような支配欲には、抗えねェ。無理矢理身体を暴かれて、心の中まで土足で踏み荒らされる。悔しいが、あいつの毒が回ってる間だけは、自分が『人間』だって実感しちまうんだよ」
「はっ、MMの自覚があるだけマシだな」 中太の中也が鼻で笑う。 「俺はあいつを『俺の所有物』にしておきたい。あの空っぽな男を俺の熱で満たして、俺なしじゃ息もできねェように仕込んでやるのが、俺のやり方だ。手首の包帯を解いて、そこに俺の痕を刻んでやる時の……あの、救われたような顔。あれを見れるのは、世界で俺一人だけでいい」
「独占欲が強すぎて笑えねェな。俺は……」 太中の中也は、少し視線を落とし、首元のチョーカーを指でなぞった。 「あいつに首輪を握られて、文字通り『犬』として扱われるのも……まあ、悪かねェ。あいつの冷たい指が肌を這い回る時、あいつの孤独が俺に流れ込んでくる気がするんだ。壊れそうなほど抱き締められて、そのまま心中しちまうんじゃねェかっていう、あの危うい快楽。……てめェには分からねェだろうな」
「……分からねェよ。俺はあいつに膝を折らせるのが趣味だ」 「俺はあいつに、魂ごと食い破られたいんだよ」
二人の最高幹部は、同時に酒を煽った。 片や、太宰を「支配し、その空虚を埋めてやりたい」と願う雄々しい中也。 片や、太宰に「支配され、その闇に溺れたい」と願う献身的な中也。
「ま、どっちにしろだ……」 中太の中也が、空になったグラスを置く。
「あの青鯖以外に、俺の隣を許す奴はいねェ。……だろ?」
太中の中也は、不敵に笑ってそれに応えた。 「当たり前だ。あんなクソ野郎、俺以外に扱える奴が居るわけねェだろうが」