この作品はいかがでしたか?
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僕は、ハッとして目を覚ました。寝落ちしてしまった。資料を見ることも練習も何もしていない。気が付くと午後八時を時計の針は指していた。とうに夕日は消えているそれだけでなく月でさえ出ていない。窓に雫が垂れている。もしかしたら僕は雨音に誘われて起きたのかも知れない。僕と雨は何らかの縁で繋がっている。僕が産まれた時に雨が降っていたのだ。父親は傘を持って待合室で待機していたらしい。母親が出産した時に僕は傘に触れたらしい。父親が持ちながら僕に触れたらしい。そのお陰で、僕は傘が大好きになった。僕の本当の趣味は様々な傘を集めることだ。お洒落なデザインがお気に入りだ。
僕は近くの川辺に行こうと思い準備し始めた。僕は密かに雨に期待を寄せている。雨は僕を正解へ導いてくれる架け橋だった。だが、僕は何も成長していない私の方向を向いている壊れかけのナイフになりかけている。僕は外に出て雨音を確認していた。土砂降りとまでは行かないが傘に雨粒が落ちる音を想像したら僕は正気では居られなかった。僕は家を直ぐに飛び出して並木道を越えて人が川を渡る用の”渡瀬橋”に向かった。傘を持って、僕は今日も、独り言を川に向かって言いに行く。
「僕なんかが全う出来るのだろうか?ポーレットは初めての…役で、僕を見つけてくれた星螺さんへの最期の恩返しの機会かもしれないのに…誰か僕のこと”解ってくれる人”とか、居ないのかな。いっその事、星螺さんが僕を心配してくれないかな。あはは…」
僕はそんな御託を川に向かって吐き出した。だが、どんな御託を並べてもどれだけ叫んでも僕の想いは誰にも届くことは無い。声にならない聲でさえ川によって海まで届いたとしても泡となって消えていく。風となって届いても空の彼方へ消えてしまう。どんな結末でも僕の想いは誰にも言えないんだ。ありのままで居ていいのなら僕は喜んでそうするさ。素の状態でもっと関わっていきたいし、周りの目を気にしないで過ごしたいと思うことなんて毎日ある。だが、今なら言える気がする。こんなこと、川にしか吐き出せない。ぐちゃぐちゃした感情が溢れ出した。
「五月蝿いなぁ…クラスメイト、僕に指図すんなよ。」
自分で解いた糸がまた心臓を絡め、巻きついた。”私”は届けるんだ。造られた演者を観客にそして僕はまた、ここに傘を持って言い表せないぐちゃぐちゃな感情を吐き出しに行こう。
──ね、成瀬!
僕は口角を上げて、清々しい気分で家に帰った。その後にしたことは言うまでもない。紅茶を嗜んだ後に入浴して肌の手入れをしてまた紅茶を嗜んで登校準備して紅茶を嗜んだ。僕は計三回紅茶を嗜んだ。飲み過ぎな気がしたのだが、こうでもしないと胸騒ぎが止まらないのだ。結局、雨で浄化されたとて自分勝手で何も変わってくれないんだ。部活動の仲間に何か言われても自我が強すぎて上辺の言葉だけの返答で中身は何も変わってくれないんだ。全部、他人任せの僕の言動に気づき頭が真っ白になった。そんな大事を見過ごして今まで平常心を保ってきた過去の自分に嫌気が指してベッドに向かうことが出来ず、その場で立ち尽くしていた。正直、もう睡魔が襲ってくるのと同時に深夜テンションと呼ばれる症状も直ぐそこまで迫っている。僕は急いでソファーに顔を埋め、クッションを枕にしてうつ伏せにスマホを弄って、雨の音を耳に届けた。すかさず、ソファーの物を置くスペースにあるイヤフォンを挿した。簡単な話だ。自然系ASMRを聴くことが出来れば要らない情報を頭から追い出すことが出来る。聴いているうちに段々と瞬きの回数が増えてきた。意識が途切れる寸前のところで何故か涙が流れてスマホの画面に落ちた。腕で拭っても拭っても落ちてくる涙を飲んで完全に意識が飛んだ。
続く。.:*・゜
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