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「いい天気っすね」
後ろを振り返らないまま、彼は紫煙と共に言葉を紡いだ。
目線の先には青い空。お日様を中心に、トンビがゆっくり円を描く。
彼の後方2mの位置に立つ赤い影は、一瞬動きを止めると、低く口笛を吹いた。
「…気付いてた?気配消してたつもりやってんけど」
「そら気付くでしょ」
そう言ってやっと振り向いたショッピは、ニッと口角をあげ、足元に広がる戦場を指差す。
「下、いないんすもん。さっきから」
「さすがショッピ君やなぁ」
微笑んで手を叩きながら好青年然として近付いてくる男。
大方の人間は、品よく伸びた背筋と誠実そうな笑顔に、つい警戒を解いてしまうだろう。
その軍服のそこここに、マフラーと同じ真っ赤な返り血が付いていなければ。
トントンは、ショッピの隣に並んだ 。
「何の用です?」 と、再び戦場に目を落とす。
「いいんですか?指示系統、乱れてますよ。グルッペンさんがテンションぶちあげてます」
「なぬぅ?!」
先程まで、優勢ではあるものの何故かいまいち攻めきらなかった軍が、前線の部隊を中心に押し始めていた。鶴翼から始まった陣形は、横陣に変わりかねない勢いだ。
小一時間前に総統のいる最後尾の師団から、一台の戦車が前線に向かった。慌てて追うように、残りの師団も前進した。先見である騎馬兵も慌て、歩兵に至っては走って追いかけていた。気の毒すぎる。
あんな無謀な命令違反をするのは、ーー信じられないがーー恐らく命令を出している人だろう。
おいおい俺が帰るまで大人しくしてるって言ったよなぁ、と額に青筋を浮かべて双眼鏡を覗くトントンを見上げ、ショッピはもう一度、煙草を深く吸った。
「…もう、」
ぽつり。口をついた言葉が自分でも驚くほど寂しそうで、慌ててひとつ咳払いをする。
「…もう、俺、お払い箱ですか?」
何でもないように、明日の天気でも聞くかのように。 自分はあくまで利用されているにすぎない。
『バレてるんでしょ?』
という言葉は飲み込んだ。
「俺の始末に、総統の副官様が来るとは、正直思ってもなかったっす。来るならゾムさん辺りかと」
ショッピが伝えた情報通りに進んだ先に、敵の大将などいるはずがないのだ。
彼は、この軍を裏切ったのだから。
敵国のスパイとして潜り込み、捕まった。
まさかこの軍の要人が、かつて共に孤児としてつるんでいた金髪の兄貴分だったとは露知らず。 「アンタに足元掬われるとかチョー屈辱的なんですけど」数ヵ月前、捕らえられた牢でため息と共にじろりと睨むと、相変わらず粗野で声の大きいかつての盟友は、腹を抱えて笑った。 「スマンスマン、懐かしくて嬉しすぎて拿捕してもうたー」
「俺は船か」 ひとしきり笑ったあと、コネシマは、いやーしかし、と笑いすぎて出た涙を拭う。 「…おおきゅうなったなあ」急に穏やかに、懐かしむように声をかけられ、一瞬言葉に詰まる。
ーーーアンタが、 アンタが俺らを庇って大人なんぞに捕まるから。 俺も一緒に捕まろうと思ったのに。
笑って手を、離すから。
大人になるしか、なかったんや。
言いたいことは山とあったが、どれも八つ当たりの中に、認めたくない思慕の情が滲み出てしまう。
こんな粗野でデリカシーのない下品な男に、それだけは悟られたくない。
きっとまだ『う◯○○』の一言で爆笑するんだろう。そういう方面は大人になっていない気がする。
いや、確信に近い。 「背は越しましたね」ちび、と小さく罵ると、「ホンマやなあ、抜かされてしもうたなあ」と、好好爺のように頷く。 「…もうギブです。それ。気持ち悪いしやりにくい。何の用です?アンタのことや、それだけやないんやろ?」 一瞬、コネシマの動きが止まる。次に、ニヤリ、と笑ったのが、顔を見なくてもわかった。
「さすがショッピ君。話が早いなァ」アンタがブレないだけですよ。と、言おうと思ったが誉めてるっぽいので飲み込んだ。(アンタはいつでも一歩踏み出す話しかしないじゃないか。)カシャン、と檻が軋む音がして、コネシマが頭上から名前を呼ぶ。
見上げれば、貧民窟のガキ大将ではなく、一国の将校が、そこにいた。吸い込まれそうな空色の瞳と日の髪。
「商談や、ショッピ。俺らの祖国をカネで売れ」そんで、こっちに寝返り。
拐われたときと同じまっすぐな瞳が、こちらを見ていた。
突き抜けるような空色が、毒の色をした自分には眩しすぎて。ーーー俺の視界は、どんどん、濁ってくみたいや。
「…いいですよ」
肯定の言葉とは裏腹に、視線は暗い地面へと落ちていった。
「ショッピ君はさ、悪い知らせといい知らせ、どっちから聞く派?」トントンが、戦場とは思えないほど朗らかな声でそう問うた。
赤いマフラーが風にはためき、敵に見つかったら格好の標的になるんじゃないか、と心配になる。
まあ、銃弾も届かないほどの高台ではあるが。「いい知らせなんて、…コネシマさんが拐われて以来聞いたことないからなあ」悪い知らせからで。
そう答えると、うぬぅ、と言い淀む。「トントンさん」
「なぁに」
「アンタは、こういう役向いてないんすよ」
ぽり、と頬をかく書記長に、苦笑する。
ホンマにいいひとやなあ。と、言った言葉は穏やかに風に乗った。
この数ヵ月、ショッピは表向きにはこちらの軍に寝返ったように振る舞っていた。
幹部の面々も、コネシマの知己だということで、ずいぶんよくしてくれた。
総統も、向こうの国では『暴君』『人を人とも思わない』『金の髪の悪魔』『血を見ないと発狂する』とまことしやかに囁かれているが、…いや、それはそれで間違いなかったのだが。ショッピの部屋に武器も持たずに突如訪れ、緊張で固まったショッピにずいっと高級な酒を差し出し、ちょっと付き合え、と宣った。
『あんまり飲むとあれに怒られるんでな』と廊下を見遣れば、赤いマフラーが揺れているのが見え、護衛つきで酔わせて情報を聞き出す気かと構えたが、構えるまでもなく総統様のほうが先に酔いつぶれて呂律が回らなくなり、いつの間にか伸びてきた手に酒を奪われ怒りながら難しいことをわめきちらし一回窓から外に吐いてそのまま送還された。帰り際、トントンが眉尻を下げて「すまんなあ、どうしてもショッピ君にいい酒を持ってくってきかんくて。こうなるの、わかってたから見張っててんけど」と、心底すまなそうに頭を下げた。
あまりのことに拍子抜けしたショッピが、久しぶりに笑い出したのは、扉がしまって優に30秒後のこと。その後も、幹部の面々が代わる代わる遊びに来てくれた。いいところだ、と。
コネシマが拾われたのがここで良かったと、本気で思った。
眼下を見れば、コネシマの師団がじりじりと敵を押している。
時おり動きがガバるのは、これもまあいつものこと。
「成長せんなあ」
と呟き、最後の煙を深く吸って、吐いた。
視界の端で、赤がはためく。こんな終わりも、悪くない。
「あのーーー」
「さっきからごちゃごちゃ言うとるけど、ちょっと僕のお話も聞いていただける?」
ゴホン、と咳払いして、トントンはショッピを見た。
軍人としての甘さは、自覚するところだ。しかし、元敵国のスパイに、しかも年下に心配されるとは。
少し傷ついたが、また指摘されそうで背筋を伸ばす。「確かに俺はこういう役、苦手やしかなり心の準備が要るねん。でもな、最初に言っとくけど、君をどうこうしようとは思ってないよ」手をあげ、敵意のないポーズを取る。さらに首をかしげたショッピに、ううん、と唸って少し黙った後、トントンは重い口を開いた。「君が嘘ついてるのはなあ、最初からバレとんねん」え、と、彼らしからぬすっとんきょうな声をあげたショッピは、慌てて口を押さえた。
口を押さえても目が真ん丸で、年相応の、いやそれより幼い表情につられてフッと目元がゆるむ。「シッマがな、絶対嘘ついてるって。おかしいって言い張るから、向こうにスパイも送って何度も君の回りを探らせたんやけど。」一向に出てこない。
叩いても逆さにしても。「こいつはおかしいって話になってな。」「え、何を探らせたんですか?」訝しげに首をかしげる。無理もないわなとトントンは思う。スパイが嘘をついてるのなら、拷問なりなんなりをしたほうが早い。
そもそも信じなければいいはずだ。今までの戦況は、押しきらないとはいえどうみてもショッピのもたらした情報を元に攻めている。
攻めてみて敵の大将が居なかったからバレた、なら納得がいくが、最初から、というのはあり得るわけがないのだ。調べたのは今日の作戦やないよ、と告げると、ショッピはさらに眉を顰める。「君が、何で大人しく向こうに飼われてるのか」ハッと息を飲む音。
やっぱりか、と言う言葉を、トントンは飲み込んだ。シッマ、カン大当たりやで。ショッピは目を逸らし、不機嫌そうに呟いた。「…生まれた国っすよ。祖国のために働くの、そこまでおかしくないでしょ」「そーやねんけどなあーシッマがちゃうってきかんねん」
『だってそれアイツがこっちより向こうを面白いと思ってるってことやろ?ないない、絶対こっちであそんどった方がおもろいもん!俺いるし』
「…だから、絶対弱味を握られてるはずだと?」
言った紫の瞳は不快そうに細められていて。
コネシマに見抜かれていたことと、最後の要らん一言のせいだろう。
知己だという割りには彼のコネシマへのライバル心は異様に強いのだ。
「まーまー、結果正解やったやろ」
「…まあそうですけど」
眉間にシワを寄せ、呟く彼に、自分がもたらす情報は、彼をどれだけ苦しめるだろうか。
「ホンマ、気の重い話やなぁ…」
小さく呟くと、ふう、とため息を一つはいて、息を吸い込む。
「大先生ーこっちあらかた終わったで。戦況はどうなってる?どうぞ」
「はーいこちら鬱こちら鬱。んー、グルちゃんが最前線に向かっとぉよーどーぞー」無線から聞こえる雑音と間延びした声に一瞬思考が止まる。「はっ!?な、何で!?たた、大将が本陣におらん言うこと!?」
つい、声が大きくなってしまう。
まずトントンがそんなことを許すはずがない。
が、彼には今日、大事な任務がある。いや、だからって。「そういうことーやから、ゾムそのままそっちから切り崩して後ろ回って向こうの右翼に向かってー。大将そこやってー多分不利になったら川向こうにトンズラする気ぃやでー。こっちの左翼には手こずってる風にしてもらってるから挟んじゃってー」「え、ちょおまって!何でなん!?大先生仕切ってるとか勝てるもんも勝たれへんやろ!」ついうっかり本音が出たが、鬱は怒りもせず無線の向こうで少し自虐的に笑った。「そう思うでショー?俺もそう言うてんで、でもグルちゃん聞かんからぁ」俺がとんちに怒られるんかなあ!?大丈夫よねぇああなったグルちゃん止められるわけないもんねえ!?と、半泣きの早口で鬱がわめきだす。取り急ぎ自分の師団に方向を指示し、一方的に無線を切った。
息を吸って、大きく吐く。落ち着け、落ち着け。そうか、前線には。
コネシマがいる。
「総統さんがこんなとこまでお出ましですか?」自軍に指示を出しつつ、振り返りもせずにコネシマが言う。「ああ、せっかくトン氏がいないんだ、好きにやらせてもらおうと思ってな」
半分は本音やな、と笑いながら言うコネシマに、グルッペンは一呼吸置くと、用件を伝えた。
「予想の、悪い方だった。やっぱりショッピ君以外の子たちは、早々に…売られている。恐らく…いや、ほぼ確実に臓器売買のために」
ピクッと、肩が跳ねる。
それでも、止まったのは一瞬で、その後も指示を出し続ける。グルッペンも、構わず続けた。
「向こうの将校を取っ捕まえてオスマンが吐かせたから間違いないと見ていいだろう。ショッピ君には、まだ彼らが生きていると信じこませてあるそうだ。だがー…」「ショッピ君は信じてないやろな」
掠れた声が、総統の言葉を遮る。
でも、と紡いで、今度こそコネシマの肩が怒りに震えているのがわかった。「でも、逆らうわけにはいかんかったんやろうなァ。ほんのちょっとでもーーー希望があったなら」
普段の彼は、議論好きで熱いやりとりを好む。理屈を捏ね、ともかく論理的であろうとし、大声でわめき散らす。
だが、意外と『怒る』ということは少ないのだ。むしろ怒りすら楽しむフシがある。
グルッペンは、黙ってそんな彼の怒りを受け止めた。
恐らく、彼も少しーーー期待したはずなのだ。
全く、あちらさんは揃いも揃って無能ばかりだ、とグルッペンはため息をつく。こんなに優秀な人材を、二人も手放すとは。
「…今、上にはトン氏を向かわせた。いいな?」「あたりまえや。…グルッペン」「ん?」
「ありがとうな」最後まで振り返らないコネシマは、前だけを向いている。
出会ったときからそうだった。いつでも、前だけを。
「…友人としては当たり前だな。気にするな、らしくないゾ。…さて、そろそろトン氏が帰ってくる頃か。俺は帰る」後半は心なしか声が頼りなかったが、満足したらしい総統はくるっときびすを返した。
あ、そうだと振り返り、「そろそろ右翼のゾムが回り込む頃合いや。合図で一気に左翼に集中。真ん中の部隊はシャオロン、ひとらんに任せてお前らも左翼方面に向かってくれ」
ーー今度は置いてってやるなよ?
ニヤリと笑ってそう言い捨てた総統は、今度こそ上機嫌で自軍の最後尾まで下がっていった。
「言われんでも」
そう呟いたコネシマは、恐らく顔を見なくても、笑っていた。
「イヤや言うても連れてくわ」
「コネシマがこの国に来たのは、15年前。君らと別になって、すぐのことや」金の髪、透き通るような青い瞳。恐らく、スラム街でも噂になっていたのだろう。彼は、その容姿から貴族の奴隷として、高値で競売にかけられていた。
端正な顔立ちからは想像できないほどのやんちゃぶりだったが、だからこそ落としたがる物好きも多いのだ。豪邸が数軒建つほどの値段をつけて競り落としたのは、コネシマと年の頃を同じくした、色素の薄い金髪の、
ーー血の色の瞳をした少年だった。
「アイツは昔からちょっと頭がおかしくてな。普通、貴族は貴族同士、つるむもんなんやろうけど」
『血統だけで立場を与えるなど非合理的であることこの上ないッ。軍事に、国の行く末に携わるのは、身分の貴賤など関係なく、優秀な人材であるべきだッ!』
幼い頃、なぜ自分を拾ったのか聞いてみた時に、軍事系を束ねる貴族の嫡男である彼はこう言い放った。
「俺らは、あの人に見付からんかったら、多分死んでた。物理的であれ、心理的であれ、な。」逆に言えば、貴族であろうと面白ければ付き合う。
分かりやすいのだ。「マンちゃんや大先生は、貴族の出や。大先生は末っ子やから燻ってたけどな。ひとらんは士族やし。でもそれ以外はみんなコネシマと似たようなもん。ほんまに、身分の貴賤関係ないってことやね」
そんな彼が、最後に拾ってきた飢えた獣のような少年。
この国ではあまり多くない、彼と同じ金髪の。初めは食事も摂らず、近付くと唸り声をあげていたが、それでも構わずグルッペンが構い続け、数日後とうとう折れた。
飯を喰らいながらグルッペンの話を聞き、共感するところもあったのか、うんうんと頷いたと思ったら飯粒を飛ばしながら反論してみたり、『そらそうやな!』と叫んだりしていた。
折れたら慣れるのは光速だった。
『国にいる仲間たちを、呼び寄せてほしい』
腹を満たし身なりを整え、人らしくなった彼が、一番先に言ったのは、はぐれた家族のことだった。それが、お前についていく第一条件だ、と。
「やからな、君らのことは、だいぶん前にグルッペンが調べててん。何度も、何度も」
そして。「君を含めた仲間全員が、コネシマが売られた後にーー売られたと。突き止めてた」
ショッピの顔から表情がスッと消える。
ドォン、と、砲弾の音が遠くでこだました。
「…でも、君は生きていた。あの時のシッマの顔は忘れられん。俺らも、ずっと聞かされてたからな、『ポーカーフェイスのショッピ君』。自分達の昔からの友人に会えたような気がしてたよ」
コネシマの昔話の中でも、ショッピの活躍する話は多かった。相棒として、二人で他の子達を庇い、助けて生きてきたのだろう。コネシマを失った穴は、誰より、彼に大きくのし掛かったに違いない。そして、彼は今でもそれを埋めようとー…
「…もう、俺しか、おらんのでしょ?」
震えた声に、トントンは少し黙って、小さく頷く。「…ああ。さっき向こうのちょっと偉いやつ捕まえて、吐かせた。君らを捕まえて、すぐー…」容姿に優れたコネシマは、貴族に売った。身体能力の高いショッピはスパイや暗殺者として育てるために残された。後の子どもたちはー…
「わかっては、いたんやね」
「頭では、わかってましたよ。嘘やろなって。この任務が終わったら、この任務が終わったらー…。何度完璧に遂行しても、誰にも会わせてもらえなかった。でも、もしかしたらって…」
分かってはいたけれど。
「キッツイなぁ…」
声を出さずに泣く彼に、トントンはしばし、黙って気配を消した。
「…ふふ。本当に、トントンさん優しいっすね」
どっかのチワワとは大違いや。
寸刻のあと、明るく相棒を罵りながら振り返ったショッピは笑っていた。
強い子や、とトントンは思う。否、強くならなければいけなかったのだろう。
「で、ようやくワイがここに来た理由に戻るんやけど。…ショッピ君。」そう言うと、トントンは懐から一枚の紙を取り出し、読み上げる。トントンの、今日一番の任務はこれだった。
『本日、この通達を書記長トントンが読み上げた時刻をもって、ショッピ殿を我が軍の軍曹に任命する。総統、グルッペン・フューラー』穏やかだが通る声で高らかに文書を読む。「ちなみに、実際に総統が言ってた言葉で伝えると、『さあ一緒に遊ぶゾ!』だったことを伝えておくゥ!」
正式な文書やから、一番正式な使いをやるそうや。
そう言ってトントンは、ショッピに手を差し伸べる。「乗るか?反るか?どうする、ショッピ君?」
ショッピは、恐らくこれが彼本来のものであろう明るい声色で嬉しそうに笑うと、まっすぐトントンの目を見て言った。
「いや、乗らんわけないでしょ!」
ガタン、と、扉が開けられる。
コネシマは、ゆっくり、振り返った。
「似合うやん」自軍の軍服に身を包んだショッピを見て、感慨深げに言う。
「今日付けでコネシマ大佐付きに任命されました。極力早く出世してアンタの部下なんて位から一秒でも早く抜け出しますので宜しくお願いします」そう言い、敬礼するショッピに、コネシマはうんうん宜しくな、と嬉しそうに頷く。
「さあて、そろそろ合図やな、ショッピ君、合図がきたら左翼に進軍…」「コネシマさん」
いつになく真面目に名を呼ばれ、立ち止まる。
今度こそ、目を逸らさずに。
「生きててくれて、ありがとう。それと」
ずっと、言いたかった言葉。
外はもう日が傾いて、青かった空は、夕暮れまでの一時、一面のーーー濃紫。トンビも、巣に帰ったようだ。
ショッピは、ひひ、と笑って大声で言った。
「おかえり!」