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ロディに着いて行くと、侵略者の襲撃かと思っていた俺は、トンと目を丸くした。
「お前たちは……!」
そこには、二人の男女が立っていた。
しかも、一人は、
「雅……!!」
雅・L・刹那。L型世代、訓練を共にした友人だった。
「なんだ? βの司教を追って来たが、雅、お前の知り合いなのか? あの男は」
「えぇ……まぁ……」
「でも、βに関わってる以上、捕らえさせてもらう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!! 俺はβの使徒とは関係ない!! コイツに付き纏われてるだけ!! 捕らえるなら好きにしていいから!!」
「問答無用!!」
全身が焦げた褐色の男は、鷹のような羽をブワッと広げては、俺に向かって思い切り飛び蹴りを仕向ける。
「宇宙武装……!! ちょ、ちょっと待てぇ!!」
ズゴゴゴゴゴ!!
「!?」
「上空へ逃げろ!! 奴の名はヴ・G・グ。地底人で六番隊隊長を務める強者だ!! その身は黒く焦げ、我々地上人よりも強固な肉体を持つ!!」
「クソッ……! 完全な巻き添えだ……! テメェも、解説してる暇あんなら弁明してくれ!!」
俺は叫びながら、言われた通りに跳躍する。
「ふっ、部隊長もナメられたモンだぜ。地底人だからって “下” だけが俺のテリトリーじゃねぇぜ……」
すると、ヴ・G・グは再び羽を広げ、空を舞いながら腕を俺に向けて伸ばす。
「地の底で鍛えられたこの剛腕から放たれる衝撃波! くらいなァ!!」
「地上も空中もどっちもアリかよ!! チートじゃねぇか隊長クラス……!!」
万事休す。
空へ跳躍してしまった俺には、もう移動する手段も、攻撃を避ける手段も残されてはいない。
ゴォッ!!
その内、轟音と共に、ヴ・G・グの腕から見えない衝撃波が風を切って音を鳴らし、空気を歪ませる。
「クソッ……!!」
「鯨井さん!!」
攻撃の当たる瞬間、俺の目の前に現れたのは、半球体のような構造の鋼鉄の防壁だった。
それを銃口から照射したのは、佐藤学だった。
「佐藤……! なんだこれ……!?」
「へへっ、見ててください!」
すると、ヴ・G・グの放った衝撃波は、ガン!! と強い音を立てたが、そのまま消え去った。
「俺の衝撃波が掻き消されただと……!?」
「へへん! その鉄壁には、鯨井さんの血液成分が含まれているんですよ! ちょっとやそっとの攻撃では、その鉄壁を破壊することはできません!」
「お前……俺の血液を勝手に使うな……!! 助かったけども……!!」
そんな、少し安堵した瞬間。
スッ……
「油断しないで、優……」
パッと瞬時に俺の死角から背後に現れたのは、雅・L・刹那。コイツの能力は……
「テレポート……!! まずい……完全に意識がアイツで精一杯になってた……!」
「UT技術で私が得た能力……テレポート。それは優も知ってる力。でもここからは、宇宙武装を得てから新たに習得した……優の知らない力……」
音もなく、俺の腕と足はギュッと見えない何かに締め付けられる。
「なんだこれ……! 動けねぇ……!!」
「ま、まずいです……! 見える攻撃なら僕の開発した鯨井さん装備でなんとかなりますが……見えない何かなら、どうしようもありません……!!」
「クソッ……雅……!!」
――
その男は、いつもやる気のなさそうにしていた。
「貴様、さっきの戦闘訓練、わざと負けただろう」
「あ……? なんだ、お前……。別にいいだろ……」
「適当な戦いをして、あの者だってきっと気付いているはずだ!! 恥ずかしくないのか!!」
私は、つい頭に血が上り、男の胸ぐらを掴む。
「だって、無意味に人が傷付くなんて、おかしいだろ?」
私は、その真っ直ぐな瞳に、真の強さを感じた。
「不躾にすまなかった。だが、訓練だ。適当にやるのならハナから参加しなければ良い」
「んん……そこは……まあ、メンツがあるからな。ほら、俺がサボると、緑さんに迷惑だろ?」
ヘラっと諦めたように笑っていたが、私は思うのだ。
その者は、他の訓練生の誰よりも、今から、いや、それよりもずっと前から、守る為に戦っているのだと。
「貴様、名は?」
「鯨井・L・優。L型01号。優でいいよ、金髪くん」
「金髪くんではない。ロドリゲス・B・フォードマン。貴様にはロディと呼ぶことを許してやろう」
「ハハッ、面白いな、お前。俺のこの話、笑わずに聞いた奴はお前が初めてだよ」
――
雅の見えない拘束に縛られ、そのまま落下。
下では、既にヴ・G・グが、俺の身を捕獲する為にスタンバイを整えていた。
今度こそ終わりだと目を瞑ったその時……
「相変わらず、貴様は直ぐに諦め、勝ちを譲るのだな」
俺とヴ・G・グの間に、割って入るようにロディが移動していた。
「おい、UT特殊部隊六番隊隊長。奴はβの使徒ではない。何度も勧誘しているのだがな、振り向いてはくれんのだ。だから、奴を捕らえたとて、私を逃がせば何の意味もない」
そう言うと、フッと俺の手足は自由となった。
「なっ……! 私の能力が……!」
「ふっ、私はBからLまで、高い金を払い、能力を吸収し続けたんだぞ? 貴様らUT特殊部隊からすれば、最悪で厄介な敵であろう」
「なら……大人しく捕まりやがれ!! ロドリゲス!!」
「そう言って捕まる馬鹿がいるわけなかろう。お前たち二人とも、私の盟友を傷付けたその罪、この私自ら裁いてやろう……!!」
そう言うと、ロディは二人に向かって腕を伸ばす。
「まずい……! ロディは十一世代もUT技術にいたから、使える能力は数多く秘めてる……! 逃げろ……!!」
しかし、ロディのその手は止まらない。
「もう遅い……! この世界は変わらねばならぬ!!」
辺りは、他の景色が見えなくなるくらい眩しく輝く。
「クソッ……! ロディ……やめろ……!!」
ゴッ……ドォン!!!
次の瞬間、ビルは大きな音を立てて崩落を始めた。
「やめろって……言ってんだろ……!!」
崩落させたのは、俺の拳だ。
「この男……宇宙装備もないのにこの怪力……! 地底人でも有り得ないぞ……!」
「それでも証明されましたね、隊長。優は、私たちをロドリゲスから守る為に行動した。彼はβとは無関係」
光が晴れると、そこにロディの姿はなく、残った俺、佐藤、UT特殊部隊のヴ・G・グ、雅が崩落に巻き込まれる。
「あれ……ロディは……!? 攻撃したんじゃ……?」
「ハッハッハッハ!! ここだ、優!!」
声のする方を振り向くと、ロディは既に、遠くの空で悠々と手を振っていた。
「その女は優の友人なのだろう! ならば、敵対する組織だとしても、私が傷付けることはない! さっきのは単なる目眩しだ! ハッハッハッハ!!」
「あの野郎……ふざけやがって!! つーか、自分で起こしといて……どうすりゃいいんだ!! だから佐藤、逃げとけっつっただろーが!!」
「いやいや、鯨井さんが地面殴らなければ、ビルの崩落はしていませんし、僕はUT変異体ではないので、ビルの崩落から身を守る為の防護フィルターが作動します!!」
「え……じゃあ助からないのは俺だけ……?」
そのまま、崩れ落ちる瓦礫と共に、浮遊感に足をすくわれる。
「ちょ、ちょっと待ってえええ!! 俺、宇宙装備も何もないから、空飛べないんだってえええ!! 流石にこの高度からの落下はまずい!! 死ぬってえええ!!」
ヒュンッ
「うわあああああ!! って……あれ……?」
気が付くと、そこは地面の上、崩落するビルの目の前の地面に着地していた。
「優、助けてくれて……ありがとう」
「雅……。そうか……お前のテレポートか……。いや、助けられたのは俺の方っつーか……」
「ハッハッハ! ロドリゲスは取り逃したが、お前、面白い奴だな! 拳一つで、我ら地底人の力を上回るほどの怪力を出せるとは!」
あの崩落も、何ともない顔で交わして、六番隊隊長ヴ・G・グは、高笑いを上げていた。
まあ、流石は隊長クラスと言ったところか……。
「今回は迷惑を掛けてしまったな! 今度会う時には、今回の詫びをさせてくれ! あと……俺と戦ってくれ!」
「ハァ!? 戦う!?」
すると、雅は俺の耳元でそっと囁く。
「ごめん、優。隊長は強い人を見ると戦いたくなるの。だから今回も、ロドリゲスが相手なのに単身で行こうとして……」
「あははっ……お前も、UT特殊部隊に入ってから、苦労してるんだな。でも、元気な顔が見られて良かったよ」
「えぇ、私も……」
「では、そろそろ行くぞ、雅隊員」
「はい、隊長。じゃあ、またね、優……」
そう言うと、二人は静かに去って行った。
「まるで嵐のようでしたね!」
「なんでお前は残ってんだ、佐藤!!」
――
ヴ・G・グ(UT特殊部隊)
地底人/能力:地震
UT特殊部隊 六番隊隊長
雅・L・刹那(UT特殊部隊)
能力:テレポート
UT特殊部隊 六番隊所属