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5 - 004 赤城門からの依頼

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2024年11月14日

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 おかしい。 今は昼の十二時過ぎ、普段であれば、朝の八時にはババアに叩き起こされ、未だアルバイト先の決まっていない俺は、「仕事を探しに行け」と、叩き起こされる。

 だが……こんなに気持ち良く、昼過ぎまで眠れたのはいつ振りだろうか。

 しかし、そんな安堵な心とは裏腹に、ババアからいつもの荒々しい声が聞こえないことに、一抹の不安を感じていた。


「おはようございます……」


 俺は、恐る恐る一階にある、一番広い部屋のリビングへと向かうと、同じく寝ぼけ眼を浮かべ、あれから怠惰な生活を自適に過ごしているリル・R・スコートと、隣に家を作ったくせに、何故かずっと居座り、家事炊事洗濯を進んでやることで、ババアに気に入られてしまった、佐藤学の二人は、真剣に一枚の紙を眺めていた。


「あ! おはようございます! 優さん!」


「優、これを見ろ。私たちへの依頼書だ」


「私…… “たち” ……?」


 すると、奥の方より、いつもより少し気怠げな表情を浮かべたババアの姿が現れた。


「起こさないとこんな時間まで寝腐りやがって、いいご身分だなァ、居候の分際で」


「サーセン……。で……何、この紙……。依頼? しかも俺たち三人に対して……?」


「ま、アンタは書き連なった文章見てても、頭が痛くなるだけだろ? 奥に行きな。アンタに “客” だよ」


「ハァ……? 俺に……客……?」


 ババアがクイクイと親指で示す奥の部屋は、普段、来客用に、ソファと机だけが並んである客間だった。

 今でも、ババアはUT技術に関わりを持っており、稀にこのように、訪ねてくる奴がいるが……。


 俺に……用事……?

 起きた時に感じた不安感が現実味を帯び始め、扉に手を掛けると、不安を助長させる言葉をババアは呟く。


「おい、優。その依頼、こなせたなら半年は家賃を払わなくていいぞ」


「は、はぁ……」


 そう、俺が常日頃、ババアに「働け!」と口うるさく言われているのは、「大人なんだから家賃を払え!」というところに付随する。

 もちろん、失敗作の俺を引き取り、雨風凌げる家を用意してくれたババアに感謝こそしているが、俺が『緑さん』から『ババア』呼びに変わるまで、そう時間は掛からなかった。


 だって……勝手に俺のこと引き取っておいて、口うるさいにも程がある……。あと言い方……。


 そんなことを考えながら、また厄介事を代わりに受けて来いなんて内容だろうと、溜息混じりに扉を開けると、そこには金のネックレスに銀の腕時計、見るからに金持ちそうな男と、そのボディガードらしき黒服の男たち、三人が俺を出迎えた。


「君がL型世代で、緑さんに引き取られた鯨井くんだね。話は少しだけ聞いたよ。なんでも、怪力なんだとか」


 俺が部屋に入るや否や、男はニコッと話し始める。


「まあ、腰でも据えて話そう。依頼に来たんだ」


「は、はぁ……。どうも……」


 あれ……居候だけど、俺の家なんだけどな……。


「俺は、D型世代の頃からUT技術に関わっていてね、緑さんとも少しだけ付き合いが長いんだ。ああ、自己紹介を忘れていた」


 そう言うと、一枚の名刺を差し出す。


山田幸二やまだ こうじ天界人交易商会てんかいじんこうえきしょうかいの会長をしている」


「天界人交易商会……!?」


 ババア……なんてとこと繋がりがあるんだ……。


 天界人とは、端的に言えば宇宙人のこと。

 しかし、宇宙人と言っても数多く地球とは交易がある。

 天界人と値する種族は、そんな宇宙人たちの中で特出した技術を持ち、発展した科学力を有した、まさに、様々な宇宙を束ねている特別な種族を指す。


 この男は、その天界人との交易をまとめる数ある商会のまとめ役であり、今の地球の重鎮に値する。


「そ、そんな人が……なんで俺に依頼を……? UT特殊部隊だって、手足のように動かせるんじゃ……?」


「ハハッ、実は公には出来ない案件でね。UT特殊部隊にも漏らすわけにはいかない。ただ、”普通の人間” に対応できる内容でもない。そんな時、緑さんが一人だけ、今も尚、匿っているUT変異体のことを思い出してね……」


「事情は分かったけど……その依頼内容は……?」


 すると、山田幸二はニタリと笑みを浮かべ、タバコをジュッと灰皿に突き付けた。


 ――


 俺たちは今、三人揃って山田さんの車に乗っている。


「まさか依頼内容が、天界人さんの脱走したペット探しとは思いませんでしたね!」


 内容が内容なだけに、無駄に緊張していたのが馬鹿らしくなるくらい、俺とリルのやる気は地に落ちていた。

 元気なのは、ペット探しとは言え、三人で依頼を受けられると嬉しそうにしている学くらいだ。


「報酬が報酬なだけに来たけど……皇子様のペット探しが重要機密のご依頼とはね。重鎮さんも大変っスね」


「そ、そう言わないでくれよ〜。天界人の第三皇子はまだ子供であらせられる。生命体に強い関心があり、数多の惑星の動物をペットにしている。中には、装置やシェルターに入れておかないと危険な生命体もいる。それらを野に離したなんて知られれば、俺の首が飛ぶんだ」


「それで報酬が……三十万円ね。ババアが半年も家賃要らねえって言った意味が分かった。危険な生物っつっても、ガキのペットだろ……」


 こんな楽に稼げるのなら、モチベーションも上がり、暫くババアからのうるさい恐喝もなくなると、普段ならばやる気に満ちているところだ。

 しかし、その生命体というのが……。


「スライム。私のいた異世界では、最弱モンスターとして認定されている。端的に言えば、私たち三人が懸命にならずとも、ヒノキの棒で倒せるモンスターだ」


 この通り、リルの妄想世界でも最弱モンスターであり、俺たち二人のUT変異体が出動するまでもないのだ。

 そんな、空を見上げ車に揺られること数時間、辿り着いたのは、半径数メートルにも及ぶ湖だった。


「お、おい……こりゃあマジか……」


 湖に着いた途端、そこには、最弱モンスター……。


「え、これ……!! 最弱モンスター!? なんだこのどデカい化け物ォ!!」


 俺たちの目の前に現れたのは、スライムには違いない色味に、ぬるぬるとした身体をした、四階建てのマンションにも及ぶ巨大な化け物だった。


「こ、こんなもん……UT変異体でもどうにかなるもんじゃねぇだろ!! それに、ペット探しっつって、場所分かってんじゃねぇか!!」


「いやぁ、俺の部下たちで捜索は既に済んでいたんだが、このスライムは水を吸収して巨大化する生命体なんだ。俺たちが見つけた頃には、既にこの有り様……。なんとか湖の防壁で引っ掛かり、これ以上の巨大化、他の場所への移動は防げてはいるが……捕獲ができないんだ……」


「コイツを捕獲……!? 無理無理無理!! リル、お前の魔法ってやつでなんとかならないか!?」


「私の世界の最弱モンスターのスライムとは随分容態は違うけど、たぶん殺すことならできる。炎魔法なら燃やし続ければ溶けると思うけど、捕獲は無理。氷も同じ。エネルギーの中身が凍れば、生命体の命も止まる」


「炎や氷でも無理……。UT特殊部隊を動かせない理由も分かった……。山田さん、これ、隊長クラスを何人も呼ばねぇと捕獲なんて無理だもんな……。それで俺たちに……」


 そんな会話の束の間、山田さんのネックレスがキラリと光った瞬間、俺の身体はスライムに捕えられた。


「うわあああああっ!! これ、マジか!! ちょっ……助けてくれ……!!」


「ヤバいですよ……!! この大きさ、数分で優さん溶かされちゃいますよ……!! リルさん……!!」


「うん……殺すしかないだろう……!!」


 チャキ……


 二人が俺を助けようと構えた瞬間、山田さんは、どこに仕舞っていたのか、拳銃を二丁、二人の頭に突き付けた。

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