雨の夜を越えて、二人の絆は前よりも強くなった。互いに支え合うことの大切さを知り、再び夢に向かって走り出す。
そんな矢先……。
『フェスの出演者募集してるんやって』
良規がスマホを見せながら言った。
小さな地域の音楽フェス。
観客は数百人規模だが、二人にとっては大きな舞台だった。
応募にはデモ音源が必要で、二人は必死に練習と録音に励んだ。
数週間後。
『決まったで……!俺ら、出れる!』
良規が弾ける笑顔で報告してくる。
佳奈は驚きで目を丸くし、それから込み上げる喜びに胸をいっぱいにした。
そして当日。
ステージ袖から見た光景は、公園ライブとは比べ物にならなかった。
照明が眩しく、客席にはたくさんの人が集まっている。
マイクを前にした佳奈の手は震え、心臓が今にも飛び出しそうだった。
『大丈夫や』
隣でギターを構える良規が、静かに囁く。
『俺が居るやろ』
その言葉に、小さく頷いた。
曲が始まる。
青いギターの音色が、広い空間に広がっていく。
佳奈は深呼吸をして、声を重ねた。
最初の一音が響いた瞬間、観客のざわめきが静まる。
それは確かに届いていた。
サビへと向かうたびに、観客の手拍子が増えていく。
熱が伝わり、歌声も力を増していく。
良規のギターと、佳奈の声。
その調和が、会場全体を包み込んでいった。
曲が終わった瞬間。
大きな拍手と歓声が響いた。
佳奈は呆然としながらも、胸が熱くて涙がこぼれそうになる。
『やったな』
良規が笑いかける。
佳奈も、涙混じりに笑顔を返した。
小さな始まりから、ここまで来た。
この瞬間が、夢の第一歩だった。