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昼。
ピザ屋は少しだけ騒がしい。
焼ける音と、人の声。
いつも通りの空気。
セブンは扉を押す。
鈴が鳴る。
腕の中にはクールキッド。
「……来たな」
エリオットがちらっと見る。
もう驚かない。
「今日は起きてるな」
「さっきまで寝てた」
「その“さっきまで”が信用できないんだよな」
軽く言いながら、エリオットは手を動かし続ける。
慣れてる動き。
セブンはいつもの席に座る。
クールキッドが、きょろきょろしている。
店内。
光。
音。
全部が新しいみたいに。
「……落ち着け」
セブンは小さく言う。
当然、意味はない。
でも、なんとなく静かになる。
エリオットがピザを運んでくる。
「ほら」
「……ああ」
置くと同時に、クールキッドを覗き込む。
「今日は機嫌よさそうだな」
「……さっきまで暴れてた」
「だから信用できないって言ってる」
そのとき。
クールキッドが、ふっと表情を変える。
口元が、ゆるむ。
ほんの一瞬。
でも、確かに。
「……今の」
エリオットが先に気づく。
「見たか」
セブンは一拍遅れる。
「……何が」
「笑った」
その言葉で、セブンの視線が固定される。
クールキッド。
じっと見る。
無表情。
さっきのは、もうない。
「……気のせいだろ」
「いや、今のは笑った」
エリオットは断言する。
「初めてだろ、多分」
セブンは何も言わない。
ただ、見ている。
「……もう一回やれ」
ぽつりと。
エリオットが吹き出す。
「命令で笑うかよ」
「……」
セブンは少しだけ眉を寄せる。
納得していない顔。
そのとき。
クールキッドが、また小さく動く。
視線がセブンに向く。
そして——
ほんの少しだけ。
また、笑う。
今度は、ほんの少し長い。
「……」
セブンが固まる。
完全に動きが止まる。
「ほら」
エリオットが小さく言う。
「今のは見ただろ」
セブンは何も返さない。
ただ、目が離れない。
「……もう一回」
今度は少し強め。
でも、やっぱり命令みたいな言い方。
クールキッドは応えない。
普通に戻る。
「だから無理だって」
エリオットが笑う。
セブンはしばらくそのまま。
それから、ゆっくり息を吐く。
「……そうか」
短い一言。
でも、さっきまでとは違う。
ピザはほとんど手つかず。
セブンはそれに気づいていない。
あめ猫
3,650
「冷めるぞ」
「……ああ」
一口食べる。
味は同じはずなのに。
少しだけ違う気がする。
——その夜。
部屋は静か。
クールキッドは寝ている。
セブンはPCの前。
画面をつける。
光が広がる。
指が、少しだけ迷う。
でも、打ち込む。
「赤ん坊 笑う 理由」
検索。
結果が並ぶ。
「安心」
「信頼」
「心地よさ」
セブンは無言で読む。
「……信頼」
小さく繰り返す。
視線が横に動く。
ベッド。
小さな影。
「……」
少しだけ、間が空く。
また画面を見る。
スクロール。
そのとき。
違和感。
一瞬、指が止まる。
履歴欄。
見覚えのない文字。
「侵入 方法」
「破壊 効率」
セブンの目が細くなる。
「……触ってない」
低く呟く。
キーボードから手を離す。
画面を見る。
何も変わらない。
ただの履歴。
でも。
「……おい」
振り返る。
クールキッド。
寝ている。
動いていない。
当然だ。
触れるはずがない。
セブンはゆっくり立ち上がる。
ベッドに近づく。
覗き込む。
静かな寝顔。
「……」
何も異常はない。
それでも。
セブンはしばらく離れない。
さっきの笑顔。
頭に残っている。
それと、画面の文字。
結びつかない。
でも、消えない。
「……気のせいか」
小さく言う。
けど、納得はしていない。
もう一度、PCを見る。
履歴はそのまま。
消そうと思えば消せる。
簡単に。
でも。
セブンは消さない。
ただ、画面を閉じる。
それ以上は触れない。
部屋はまた静かになる。
セブンは椅子に座らない。
ベッドの横に立つ。
クールキッドを見る。
「……笑ったな」
小さく言う。
返事はない。
当然だ。
それでも、少しだけ。
口元が動く。
ほんのわずかに。
「……ならいい」
そのまま、座り込む。
壁にもたれる。
視線は外さない。
守る側の姿勢。
でも。
PCの画面はまだ、温かい光を残している。
そしてその奥には。
まだ消えていない“過去”が、確かにある。