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あめ猫
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数年後。
街は変わっていない。
けど、セブンの生活は別物になっていた。
小さかったクールキッドは、もう歩く。
走る。
そして、短い言葉を持っている。
「……パパ」
ぎこちない発音。
でも、はっきりしている。
セブンは一瞬だけ止まる。
「……何だ」
返事は相変わらず素っ気ない。
でも、否定はしない。
クールキッドは満足そうに頷く。
意味は全部分かっていない。
けど、“呼べた”ことが嬉しい。
——その日。
エリオットに半ば押される形で、外に出た。
「たまには外行け」
「……出てる」
「ピザ屋と家の往復は外じゃない」
セブンは黙る。
結果。
三人で遊園地。
入口。
色と音の洪水。
クールキッドの目が大きくなる。
「……おい、離れるな」
「うん」
短い返事。
でも、手はちゃんと繋いでいる。
エリオットがチケットを受け取りながら言う。
「迷子になるなよ」
「なるか」
「お前じゃなくてそっち」
セブンは軽く舌打ちする。
でも、手を少しだけ強く握る。
——園内。
クールキッドは完全に圧倒されている。
光。
音。
動くもの。
全部が刺激的。
「あれ」
指差す。
回る乗り物。
「メリーゴーランドか」
「乗るか?」とエリオット。
クールキッドは強く頷く。
セブンは少しだけ眉を寄せる。
「……遅い」
「子ども用だからな」
結局、乗る。
クールキッドは馬に乗る。
セブンは横に立つ。
動き出す。
ゆっくり。
音楽。
クールキッドが笑う。
はっきりと。
「……」
セブンはそれを見る。
画面じゃない。
データでもない。
ただの表情。
「楽しそうだな」
エリオットが横で言う。
「……ああ」
短く答える。
それで十分だった。
——次。
少し大きめのアトラクション。
動きが速い。
音も大きい。
クールキッドは少しだけ緊張している。
「……無理ならやめる」
「やる」
即答。
セブンは少しだけ目を細める。
「……そうか」
乗り込む。
安全バー。
動き出す——
その瞬間。
セブンの視線がわずかに動く。
違和感。
「……」
ほんの一瞬。
制御のタイミングがズレる。
普通の人間なら気づかないレベル。
でも。
セブンは気づく。
そして。
隣。
クールキッドが、じっと機械を見ている。
笑っている。
「……おい」
低く呼ぶ。
クールキッドは視線を外さない。
アトラクションが加速する。
本来より、少しだけ速い。
「エリオット」
「ん?」
「これ、仕様か」
「いや、こんなもんだろ」
でも違う。
セブンには分かる。
“誰かが触ってる動き”。
そして。
クールキッドの小さな手。
空中で、何かをなぞるように動く。
画面はない。
デバイスもない。
それでも。
「……やめろ」
低く、はっきり言う。
クールキッドが一瞬止まる。
そして、こっちを見る。
「パパ?」
無邪気な声。
その瞬間。
アトラクションの動きが元に戻る。
正常。
何事もなかったみたいに。
エリオットは気づいていない。
「どうした?」
「……何でもない」
セブンは短く答える。
でも視線は外さない。
クールキッドを見る。
さっきと同じ顔。
ただ楽しんでいるだけの子ども。
——終わる。
降りる。
クールキッドは満足そう。
「もう一回」
「……後でだ」
セブンはしゃがむ。
目線を合わせる。
「今、何した」
「……?」
首を傾げる。
分かっていない顔。
嘘ではない。
少なくとも、意識的ではない。
セブンは少しだけ息を吐く。
「……触るな」
短く言う。
クールキッドは頷く。
「うん」
理解しているかは分からない。
でも、約束はした。
——その後。
普通に遊ぶ。
食べる。
笑う。
エリオットが少し呆れた顔で言う。
「お前、顔柔らかくなったな」
「……気のせいだ」
「ふーん」
軽く流される。
それでいい。
けど。
帰り道。
クールキッドはセブンの手を握る。
そして、小さく言う。
「パパ」
「……何だ」
「たのしかった」
セブンは一瞬だけ止まる。
それから。
「……ああ」
短く返す。
その声は、少しだけ低くて。
少しだけ、柔らかかった。
——でも。
その夜。
セブンはPCを開く。
久しぶりに。
検索じゃない。
ログ解析。
アトラクションの制御ログ。
アクセス痕。
外部干渉の痕跡。
そして——
検出される。
極めて微細な、侵入の跡。
「……やっぱりか」
低く呟く。
そして、画面を見る。
そこにあるのは。
かつて自分が使っていたものに、よく似た“癖”。
「……クールキッド」
名前を呼ぶ。
誰もいない部屋で。
答えはない。
でも。
確実に。
“継がれている”。
壊す側の技術が。
守るために捨てたはずのものが。
一番、守りたい相手に。