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幼稚園の発表会。発表の内容は、将来の夢だった。
「わたしのゆめはおとなになることです」
そう一人の少女が口にした途端、周囲の子供たちから笑いが巻き起こる。
「___ちゃん、はたちになったらおとなになれるんだよ!」
「ゆめじゃないよ。」
その言葉を聞いて少女は言った。
「そうだね、」
と。
「、、、ん。夢か。懐かしいなあ、幼稚園の時なんて。それにしても変な将来の夢だよね。大人になりたいなんて。」
琴寧は目をこすりながら昔の出来事を思い出して微笑した。
「今日は学校行こうかな。」
琴寧はあと1ヶ月で卒業する中学生3年生だった。
数年前までは家族と同居していたものの、現在は学校近くのアパートで1人暮らしをしていた。
「ちょうどあと30日かあ、私、あと1ヶ月しか生きられないって思いはするけど実感ないな、」
琴寧は4歳のときにもってあと12年と余命宣告を受けていた。どうせすぐ死んでしまうなら残りの余生を自由に生きようと琴寧は学校に行かずにいることが多かった。だが、人生最後の式、、卒業式には参加しなくてはと学校へ行くことにしたのだ。
「面倒だけど、仕方ないか。」
白くて新品のようなワイシャツに手を通し、型崩れのない紺のスカートを履く。
そして踵がほとんど擦り減っていないローファーを履いて、狭い玄関を出る。久しぶりの太陽が琴寧を照らした。
「うわ、まぶしい。」
2月。まだまだ冷たい風が琴寧に吹き付ける。
たくさんの木々にさあ、と案内されるように並木道を通り、たまに当たる木漏れ日に微妙な暖かさを感じて、琴寧は学校に着いた。
下駄箱のにおい、歴史ある校舎の床の軋む音、楽しそうに話す生徒の声。1週間ぶりの学校の景色に、不思議な感覚を抱いていた。
「琴寧ちゃんおはよう。」
見覚えのある女子生徒に挨拶をされた琴寧は、無難に挨拶を返した。
「おはよう、」
すると女子生徒は頬を膨らませて言った。
「私のこと、覚えてないでしょう。」
琴寧は図星で言い返すことができなかった。
「ごめん、人の顔とか名前とか、覚えられなくて。」
「もういいよ、前回もその前もそうだったものね」
女子生徒はまわれ右して渡り廊下を歩いて行った。
「、、、」
その後授業を受ける気にならなかった琴寧は授業で使用されていない旧校舎の体育館に足を運んだ。黴と埃っぽい匂いがした。
「なんだろう、あれ。」
体育館のステージの上に小説が置いてあった。といっても、置いてあるというよりは落ちていると言ったほうが合っているであろう見た目だった。かつては真っすぐだったであろう小説の表紙は角以外も折れ曲がってぼろぼろになっていて、小説のページが直ぐ側に落ちていた。このような状態であれば通常、汚いと持つことも直視し続けることも拒むような見た目だったのだが、持ち主は誰なんだろう、この小説が置かれたとき、どんな状況だったのだろうと妙に小説に興味を持ってしまった琴寧は、その後しばらく小説から目を話すことができなかった。それどころか、その小説を美しいと思ってしまった。
そのまま琴寧は動かずに、しばらくその小説を眺めていた。
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