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放課後の木の匂いに包まれた旧校舎
帰路に足を急がせる大衆のざわつきを背に
2つ繋げられた、机の上に体を横たわらせ、
ゆっくりと目をつぶる。
人一人いない、静寂に染まった教室は、ほのかに夕暮れに色づいている。
何も考えなくていい。頭を空っぽにしてゆっくりと肩の力を抜く。
周りの目線も、めんどくさい親のことも、進路のことも、
全てから解放される、この時間が好きだ。
蘭「はぁ、ー」
少しだけ開いた、古びた窓からは
程よい強さの風が吹き込んでくる。
蘭「…桜、そろそろ咲くかな」
まるで、
もう霜の声の響く冬は終わりで、麗らかな春がやってくるのだと告げるように。
蘭「あーあ、」
蘭「…おもしろくねー…、」
新学期、新生活、新しいクラスメイトに、新しい出会い
春は”新しい”がいっぱいだ。
みな、その新しさに、胸を高鳴らし、まだかまだかと待ちわびている。
多くの人にとって、春は楽しいもの、煌びやかなものだ。
けれど俺にとっては、面倒くさい、以外のなんでもない。
新学期、新しいクラスメイトの女子から飛び交う質問の数々。
それをみた、男どもからの嫉妬、焦り、憧れの目線。
普通の奴からすれば、喉から手が出るほど欲しいもの。
羨ましい、と何度言われたことか。
カリスマだの、王子様だの、そんなもの…
蘭「どーでもいい、」
毎年毎年、変わらないこの景色に苛立ちすら覚える。
俺が欲しいのは 刺激 だ。
俺の放った発言に一喜一憂しないクラスメイトとか、
俺より目立つようなやつとか、
そんなやつと出会ってみたい。
蘭「⋯⋯、」
窓の外には、いつもと同じ風景が広がる。
なんだか、
『そんなこと叶うわけないだろ』と言われたようで
はぁ、と
また深いため息をついた。
4月某日
クラス替え当日。
校内には、多くの生徒の落胆と喜々の声が入り交じっていた。
そのざわつきを、旧校舎の窓から眺める。
キーンコーンカーンコーン
チャイムがなり、皆が急ぎ足で自分自身のクラスへ向かっている。
よし、行くか。
腰を上げ、ギィーっと音の鳴る階段を降りる。
クラス替えの日は、いつもこうだ。
ほとんどの人が移動した後に、俺は自身の名前を確認しに行く。
これはもちろん、「蘭くんは何組だった?」と
何度も聞かれるのを避けるため。
こんなことで、あの質問攻めを回避できるならやすいものだ。
色とりどりの多くの名前が綴られた紙を見つめる。
その中から自分自身の名前を見つけ出し
重い足でその教室へ向かう。
あった、3年2組。
まだ、ざわつきの聞こえる教室のドアを
ガラガラという音を立てて開ける。
しん⋯、刹那の静寂が教室中を包み込んだ。
多くの人の目線が俺に刺さる。
はぁ、と小さなため息をこぼし
自分の席であろう机の椅子に腰を下ろす。
数秒して、また、ざわつきが戻ってくる。
先程と違うのは、かっこいいだの、やばいだの、
俺への反応が混じっていることくらいだろうか。
あぁ、やはりそうだ。
クラスメイトからの目線は、今まで俺が出会ってきた奴らと同じでなんの面白みもない。
変化なし。結局このクラスでもまたつまらない1年を過ごすのか。
そんなことを考えていると担任が教室に入ってきた。
例年通りの自己紹介を終え、いつもと変わらない1日を過ごす。
放課後、女どもに親睦会をしようだの、連絡先を交換しようだの、何度もそんなことを言われたが
それを全て無視して、早足で旧校舎へ向かう。
誰も着いてきていないことを確認し
階段を駆け上がる。
どさっ
蘭「はぁ、」
2階の空き教室
ぽつんと置かれた机に腰をかける。
急いできたせいか、少し体が火照っている。
蘭「暑い⋯」
ギィ、
重い窓を開け、外を見つめる。
まだ時刻は4時を回っていないせいか、
いつもより少し、陽の光が眩しい。
目を細めながら、辺りを見渡すと、
旧校舎の真ん前にある桜の木に目が止まった。
蘭「⋯あ、蕾のまま。」
薄い桃色の咲きほこる花々の中で、
唯一、花をつけれていない、ほんのり赤く輝くそれを見つける。
蘭「⋯⋯かわいそ、」
なんて言葉を口にして、もう一度視線を教室の中に戻した。
もう1つの机を少し引っ張って体を倒す。
あー、このまま外に出たら、なんか知らない世界とかに飛ばされて、面白いこと起きてたりとかしないかな。
なんてことを考えてながら、少し眠るか、と目をつぶる。
ガラガラガラ
蘭「は、」
教室の扉の開く音。思わず飛び起きる。
扉を開けた張本人であろう奴の肩がびくっと動く。
「うわっ、びっくりした⋯」
蘭「⋯こっちのセリフ⋯。」
眠い目を擦りながら答える。
「あ、すみません、先客がいるって思わなくて」
「いつも来てた時は、誰もいなかったから⋯」
なんて言うそいつをやっと起きた目で見る。
蘭「⋯」
桃色に輝く髪色。まるでさっきまで見ていた桜の蕾みたいで思わず息を飲んだ。
「あ、あの、?」
「大丈夫、ですか?」
蘭「あ、」
危ない、あまりにもそっくりで見つめてしまっていた。
蘭「大丈夫、」
蘭「あー、それさ、その髪、って地毛?」
「え、あー、その、、まぁ⋯」
蘭「ふーん、」
こんなに目立つ髪色のやつ、いたか?
桃色の髪って、
そんな話聞いたこともねーけど。
ジロジロと見つめる俺の考えてる事がわかったのか、
そいつは少し気まずそうに答える。
「あぁ⋯ー、い、つもは、カツラ被ってるんで」
蘭「ぁー、そーゆこと」
「はい、⋯」
蘭「⋯」
俺の長年のセンサーが告げている。
なんだか面白そうだ、と
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