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♢ side Watanabe Shota
その日は目を真っ赤に腫らして帰った。俺の赤い糸は涼太に向かって伸びていたから。だけど、涼太の好きな人が俺じゃないって事を知って、失恋をしてしまった。
次の日はダンスの練習があったけど、とても行く気にはなれなかった。ダンス練習をするという事は当然メンバーの涼太には会う訳だし、涼太は俺が涼太の事が好きとは知らないと思うが、俺側としては気持ちが溢れかえってしまうから会いたくない。
だけど、そんな私情を挟んでまで練習を休むなんてただの職務放棄みたいな物だ。流石にそれで休む事は許されない。
「(やだな、)」
そう思いながら、重い体と足を外へ進めた。
♢
楽屋前まで何とか来れた。中からはメンバーの話し声やら笑い声やらが聞こえてくる、いつもの事だ。だが、気が重くて中々入る気にはなれなかった。
「……はぁ、」
その時だった。
「あれ、翔太何してるの?」
「!?、」
中に入るか否かで迷っていたから周りの事さえ何も見ていなかった為、突然声を掛けられた事にびくりと肩を揺らした。
俺に声を掛けた主は、何とも運が悪い。
「涼太……、」
Date「楽屋入らないの?」
「あ、えーっ、と……、」
気分が沈んでて、とか言えない。失恋したからなんて言えない。
「は、腹痛かったから、!トイレ行こうか迷ってて、」
Date「そうなの?大丈夫?」
「もう治ったから平気、大丈夫。」
Date「なら良いけど……。」
涼太の指に絡まる赤い糸は楽屋の先へ繋がっている。それを横目に見ながら、俺は楽屋の扉に手を掛けた。
「おはよ……、」
Koji「しょったー!」
「おわっ、康二ちょ待って……荷物下ろすから、」
Koji「荷物持つで!」
「あ、ありがと……。」
Ren「しょっぴー、舘さんおはよ。」
Date「目黒おはよう。」
Ren「しょっぴー元気ある?」
「っえ?あ、あるけど……、」
Ren「何か元気無いように見えたけど……体調とか悪かったら言ってね?」
「う、ん……ありがと……。」
Hika「じゃー20分くらい経ったらダンススタジオ行くよー。」
♢
Hika「はい1、2、3…………。」
「(あ、ズレた……。)」
こんな気持ちのままダンスが上手くいくハズも無く……。
Hika「んー……翔太、大丈夫?」
「っ、!」
鏡越しに照と目が合う。
「っごめん、次はちゃんと合わせれるように頑張るから……。」
Hika「体調とか悪くない?疲れてるとか?」
「……大丈夫。」
Saku「顔色悪い気がするんだけど本当に大丈夫?」
Rau「しょっぴー、一旦休んだ方が……。」
「ほんとに大丈夫だからっ、!!!」
メンバーに内情を知られたくなくて怒鳴ってしまった。空気がシンとして重くなる。
「(”これ”の、所為で……、)」
この「糸」さえ見えなければ、こんな気持ちにはならなかったのに。
Fuka「……じゃあ1回休憩しない?俺疲れちゃったわ笑」
Koji「いつもの事やんか!笑」
この重い空気はふっかが笑いに変えてくれたお陰で何とかなったものの、休憩が終わった後、ダンス練習を再開したら俺はちゃんと踊れるのだろうか。
「……、」
Ren「しょっぴー……本当に大丈夫……?」
「……だいじょうぶ、」
Abe「とりあえず水分補給して休もうよ。」
「……うん、」
と、机の上に置いてあったペットボトルを取りに行こうとした時。
Date「翔太。」
「っ、!」
__________あんまり、話したくない。
Date「もしかして何か悩んでる?」
「……涼太には関係無いから。」
Date「またそうやって翔太は強がるんだから。」
「……強がってなんかねぇし。」
Date「……、」
「ほっとけよ。」
Date「あ、翔太、!」
俺は涼太を避けるようにその場を後にした。
「(俺はお前の事、ずっと前から好きなのに、何で振り向いてくんねぇんだよ。)」
視界が揺らぐ、油断すれば零れてきそうだ。
Hika「翔太。」
「!、」
……今、話しかけられたら。
Hika「大丈夫か?」
「ひか、る……、」
……あぁ、もう。
Hika「しょ、翔太……?」
照は俺を見て、驚いた表情をした。そりゃそうだ、急に目の前のメンバーが泣き出すんだから。
Hika「……空き部屋行こう。」
俺は照にそう言われた。何を言っているのかを理解する前に、照に腕を掴まれてダンススタジオを出た。そして出た瞬間に照が一言、皆にこう告げた。
Hika「俺が帰ってくるまで自由時間ね!練習してても何しても良いから!」
Date「……、」
♢
連れてこられたのはダンススタジオから少し離れた空き部屋。照に座って、と促され俺は素直に座る。
Hika「ここなら良い?」
「……ん、」
Hika「我慢せずに、泣いていいよ。」
「……それは、やだ、」
Hika「でも翔太は今しんどいんでしょ?泣いて、少しはスッキリしよ。泣くのってストレス発散にもなるからさ。」
「……そんな、すぐ泣けないし、」
Hika「……うーん……まぁ、バレたらふっかに説明すれば許してくれるかな……。」
「……?、」
Hika「おいで。」
照は腕を広げた。
「……いいの、?」
Hika「うん、ふっかには今の所内緒だけどね。」
「……っ、」
俺はそう言われた瞬間、糸が切れるかのように目頭が熱くなってポロポロと零れ落ちた。そして、照に抱き着いた。照に愛する彼女が居るのはもちろん知ってるし、これをふっかが知ったらどうなるかなんて、ふっかの事を思ったら申し訳無いけど、今だけは許して欲しい。
「ぅあ”……ひぐ、っ、う”〜……っ、」
Hika「頑張ってるよ、翔太は。」
照はそれだけ言って、後は何も言わずに俺を静かに優しく抱き締めてくれた。照の大きい手の平が頭に乗っかっている。
それから何分か、俺は泣き続けた。
♢
「ん、……ひぐ、っ……う、……ん、ごめん、もう……だいじょうぶ、」
Hika「ん、良かった良かった。」
「……、」
Hika「……何があったのか、聞いていい?」
「っ、」
……もう、言ってしまった方が楽だろうか。
「……、」
Hika「……言いたくないなら、無理して言わなくても良いよ。」
……照は、そう言ってくれてはいるが。
「………………お、れ……すきな、ひと……いる、んだけど、」
Hika「……うん。」
俺からこんな恋愛的な話なんて持ちかけた事があまり無かったからビックリされると思ったが、照は真剣に聞いてくれていた。
「……でも、そのひと……ちがうひとがすきだっ、て……、だから、おれ……、」
Hika「……そっか……そんな事が……。」
「……、」
Hika「……因みにさ、その好きな人って言うのは俺に教えてくれるの?」
「……聞きたい……?」
Hika「気になるね、翔太の好きな人。まぁ、大体予想はつくけどさ。」
「……多分合ってる……。」
Hika「……舘さんでしょ。」
「……うん。」
Hika「やっぱりね、2人幼馴染だしお似合いだと思うんだけどなぁ……そっか、舘さん違う人が好きなのか。」
「……、」
Hika「失恋かぁ……。」
「……うん、」
Hika「……舘さんは、誰の事が好きなの?」
「……誰にも教えないでって言われてる。」
Hika「……ちょっと待ってて。」
と、照が急に立ち上がって扉を開け、辺りの様子を伺っていた。
Hika「……よし。」
そして再び扉を閉め、俺の近くに座った。
Hika「……教えて欲しいなー。」
「……誰も居ない事確認しに行ったの?」
Hika「そう、聞かれてたら困るじゃん?」
「……良いのかな、広げて……。」
Hika「聞いたとしても、俺は絶対に広めないから。」
「…………なら、」
内心、涼太に「ごめん」と思いつつも打ち明ける事にした。
「……めめ。」
Hika「……え?」
「……?、」
Hika「……舘さん、めめの事が好きなの?」
「……うん、でも……、」
Hika「いや……めめ、最近になって康二と付き合ったよ?」
「……え?」
Hika「まぁ、俺にしか言ってないらしいけどね。」
まさか、2人の糸が繋がっていたのか。悩み事に夢中になって全く周りを見ていなかったのかも知れない。
「……。」
Hika「……ねぇ、翔太。」
「?、」
Hika「舘さんには申し訳無いけどさ、翔太にとっては振り向かせれるチャンスなんじゃない?」
「!、」
Hika「アピールしたら、舘さんは思いを受け取ってくれると思うよ。」
「……そう、かな……。」
Hika「……頑張れ、翔太。」
「……うん、ありがと照。」