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うぐいす
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「……あ、そうなんだ。へぇ」
配信が終わり、マイクの電源を切った直後。剣持刀也は、普段なら読み飛ばすはずの掲示板やSNSの反応を、吸い込まれるように見つめていた。
いつもなら、脊髄反射で皮肉を返して終わりだ。しかし、その夜は違った。連日の過密スケジュールで精神的な防壁が薄くなっていたのかもしれない。
『最近、面白くない』 『虚空とか言ってるけど、結局ただのテンプレートだよね』 『本当の自分を隠して演じてるだけで、中身なんて何もないんじゃない?』
それらは数多ある称賛の中に紛れた、ほんの数行の悪意だった。しかし、その言葉は毒矢のように、彼の最も触れられたくない部分——「エンターテイナーとしての自分」と「生身の自分」の境界線——に突き刺さった。
一度気になり始めると、全てのアンチコメントが真実を突いているように思えてくる。 リスナーを楽しませるための鋭い語り口が、自分を削るヤスリのように感じられた。 「剣持刀也」というキャラクターを完璧に演じようとすればするほど、モニターの前に座る一人の青年は、暗い泥の中に沈んでいくようだった。
数日後。彼は誰にも行き先を告げず、夜の街を彷徨っていた。 スマホには仲間からの連絡が溜まっているが、見る気力もない。
「……誰も、僕の本当のことなんて知らないくせに」
喉の奥で、苦い味がした。 画面越しの言葉が、鋭い刃物となって全身を切り刻む。 「中身なんて何もない」 その言葉が頭の中で反芻される。 気づけば、彼は見覚えのない橋の上に立っていた。黒くうねる川面を見つめ、思考が停止する。 このままこの「虚空」に身を投げれば、これ以上傷つかなくて済むのではないか。
その時、背後から荒々しい足音が近づき、彼の肩が強く引き戻された。
「——何やってんだ、テメェ!!」