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いつも通りの日常、帰り道、空、それが当たり前だとオレらは思い込んでそれがいつ失われるものか分からないということを忘れていた。それだからオレは、いや、オレ達はこんなことになるなんて想像もできなかったのだ。
あの日常は特別なものだと自覚することも出来ぬままいつも通りの日常は壊された。
オレの目の前にはナイフと恵美と健三、それと大きく『 誰か1人が死なないと出ることが出来ない部屋 』と書かれている看板があり、ドアはかなり頑丈で体当たりをしても破れなかった、もし2人が今起きているのならばどうするかと相談することが出来たのかもしれないが生憎2人は恐らくここに連れてこられる前に嗅がされた睡眠薬の効きがオレよりもいいのかぐっすりと眠っている。起きろと言ってやりたい気もするが今ここでオレが先に死んでしまえば2人は出られるということに気づき迷っていた、オレが2人に何も言わずに死んでしまったら恵美は復讐に走ってしまうだろうし健三はそれを止めようとしないことが前のオウムの事件で分かったので2人が起きる前にその対策を考えているという訳だ。
そうして長いこと考えていると健三が起きてきたらしく、相変わらずの頭の良さで辺りを見回し瞬時に状況を把握した様で
「 …なんですかこの悪趣味な部屋は……… 」
と呟いた。
「 まどかさんの為に犠牲になるのはいいですけど誠一くんのためには…… 」
なんてことを言っている健三のことを殴りたくもなったが今そんなことをしたら刺されてもおかしくない気がしたので怒りを抑え、とりあえずオレは再び思考の海に入ることにした。
オレはここにいる2人より頭がいい訳でもないが体力や家事なんかじゃどうにもならないこの部屋で、脱出する為にはそれしかないのだから。
いろいろと考えているうちに、オレはふとひとつの作戦を思いついた、あの『 なんでも言うことをひとつだけ聞く券 』を使えばいいじゃないかと、そうしたら復讐もやめて貰えるし自立もしてくれるだろう、なによりオレはこんな券を使ってまで伝えた遺言を恵美が守らないやつだとは思っていなかったから。
そう思いついてから、オレの行動は早かった、恵美のことを起こし寝ぼけている恵美に状況を説明した。
恵美は状況を聞いているうちに目が覚めたようで冷静に色々考えた後
「 …3人で出られる方法を探そう、ヒントは必ずあるはずだ。 」
と言った、だがこんなナイフと看板以外に何も無い部屋にヒントなどある訳がないのだ。
オレが恵美の先程の言葉を否定するかのように黙っていると恵美は
「 誠一? 」
とオレのことを呼んだがオレは返事をすることなく覚悟を決めるために深呼吸をし恵美になんでも言うことをひとつ聞く券を渡した。
「 恵美、健三。今からオレが言うことは必ず守れよ、オレは今ここで死ぬ。せやから……復讐なんてせずきちんと朝起きて夜に寝て家事もきちんとして、きちんと生きるんやで⁇80歳まで生きんと地獄で説教するからな⁇ 」
今自分がどんな顔をしているのかオレには分からない、だが頬に伝う涙だけがオレに今の感情を教えた、オレだって別れが嫌なのだ。だがオレが犠牲になった方が世の中からみていい選択なのだろうと思ったからこの道を選んでいるだけで。
2人のことを見ると恵美は何か言いたげにしており健三もオレのことを止めようとしていた、だがここでいろいろ言われて結局動けなくなってしまっては結局出ることは出来ないだろうから2人を無視してオレは震える手で自らの首を切った。
「 全然お願いひとつじゃないじゃん、欲張りすぎだよ…誠一…… 」
僕はそう誠一に対して嫌味を言う、だが返事は帰ってくることなく僕の涙と誠一の血液がどんどん混ざっていくだけだった。
蘇生なんて出来やしないと一目見ればわかる状態、この仕事をし始めてから嗅ぎなれてしまった鉄の匂いに嘔吐きそうになりながらも僕はなんとか正気を保っていた、ここで残った僕と健三でなんとかやって行かないと誠一のあの長い説教を食らうことになると思ったから。
僕たちは小さい頃からずっと一緒にいたから誠一が1度怒ると機嫌を直すのに時間がかかることももちろん知っていたし地獄という時間が嫌なほどにありそうな環境ではその時間がいつもよりも長くなりそうだし。
なにより幼馴染の最期の言葉に応えないほど僕は落ちぶれた人間でもない。
僕は色々頭を整理した後に誠一と別れる覚悟を決め、健三の手を握り部屋からあの悪趣味な部屋を後にした。
もう僕たちのようにこんな部屋に閉じ込められる人がいないことを願いながら。