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私のスマホに、初めてイェンからのメッセージが届いたのは、昼間のオフィスだった。
通知だけ確認し、後で見ようと思ったまま。結局夜になるまで忘れていた。メッセージの内容はお茶会への招待だった。
『アン、ご無沙汰しています。お変わりないですか?今度、お菓子を作るので、一緒にお茶でもいかがでしょうか?来ていただけたらすごく嬉しいです。日時はアンの都合の良い時に合わせます。でも、無理にとは言いません。断っていただいても大丈夫です。でも、よかったら、ぜひ。』
―ジェンにも会えるかしら…
『イェン、お誘いありがとう。お伺いさせていただくわ。今度の日曜日はいかがかしら?』
夜も遅い時間だったが、イェンからすぐに返信があった。
『嬉しいです!日曜日に、ぜひ!美味しいお菓子を作るから、楽しみにしていてくださいね!』
メッセージを見て、スマホを閉じた。
―ジェンに会えるかしら。
日曜日、私はイェンを訪ねた。
イェンは、いつものように眩しいくらいの笑顔で私を迎えてくれた。
「アン!来てくれて嬉しいわ!」
リビングのテーブルは、きれいに飾られ、チューリップの花が飾られていた。
テーブルの上には、アップルパイ、アイシングクッキー、フィナンシェやマドレーヌ、たくさんのお菓子も並んでいた。
「座って!」
イェンは嬉しそうに、私の背中を優しく押した。
私は、あたりを見回した。
「私たちだけ?」
一瞬、イェンの表情が硬くなったが、イェンはすぐに申し訳なさそうに笑った。
「2人だと寂しいわよね。ごめんなさい。ジェンを呼んでくるわ」
イェンはそう言うと部屋を出ていった。
―ジェンに会える。
イェンは戻ってくると、ジェンはもうすぐ来るわ、と笑った。
ジェンが席に着くと、お茶会が始まった。
「イェンは相変わらず上手ね」
ジェンがクッキーをつまみながら笑う。
イェンはにっこりと笑った。
「ありがとう」
ジェンとイェンが目を見合わせて、微笑んだ。
鏡を横から見ているように、寸分違わず二人は一致していた。
花柄のワンピースがイェン。白いTシャツがジェン。
二人が同時に私を見た。
「「アンも食べて」」
二人の声がシンクロする。
私が驚いていると、二人が同時に笑った。
ジェンは、口を開けて楽しそうに。イェンは、口元に手を当てて。
「二人は、本当にそっくりね」
そう言うと、二人はまた笑った。
「「双子だから」」
また、シンクロする。
今度は三人で笑った。
イェンの作ったお菓子はどれも美味しくて、最後の一つまで、きれいになくなった。
帰り際に、イェンが私に小さな箱を差し出した。
「お菓子よ。持って帰って」
礼を言って受け取ると、イェンは心から嬉しそうな笑顔を見せてくれた。
「よかったわね、アン。オレンジのマドレーヌ気に入っていたものね」
ジェンの言葉に、私は真剣に深く頷いた。
「あれは、本当に美味しくてびっくりしたわ」
イェンが頬をバラ色に染めて、嬉しそうに笑った。
それを見て、ジェンが微笑んだ。
「…そうね。」
二人に見送られ、私は嬉しい気持ちで家路についた。バックミラーには、また、いつまでもイェンの姿だけが映っていた。
ふと、ジェンの顔を思い出した。
―ジェンはお菓子作りが得意ではないのかしら。あまりイェンを褒めるべきではなかったかもしれない…。
少しの反省が、私の高揚感を鎮めてくれた。