TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

ジェンから、一緒に行ったカフェに行こうと誘われた。


嬉しくて、約束の日が待ちきれなかった。




ジェンと向かい合わせに座る。




初めてジェンとここに座った時。ジェンは、髪が今より短くて、肩より少し長いくらいだった。


あの時は、頬を少し染めて、躊躇いがちに微笑んでいた。


『連絡が遅くなってごめんなさい。レポートとか色々忙しかったの』


『気にしないで。会えて嬉しい』


二人で笑い合った。あの日は、昼間だった。


『教授ったら、本当にひどいのよ!』


『どこの先生もそんなものよ』


『いいえ!あの教授は特別!明日もゼミがあるのに、レポート提出が義務なのよ!ほんと、いやになる』


ジェンはすぐに打ち解けて、たくさん話をしてくれた。




今では、もっと多くのジェンを知っているけれど、あの日のジェンを忘れることはできない。




帰る頃には、三日月が空に浮かんでいて、二人で慌てたわね。




―ジェン、覚えてる?








「あの日も、この席だったわね」


ジェンが微笑んだ。


「えぇ。そうね」


ジェンが真っ直ぐに私を見つめた。


真剣に。


1秒、2秒…やけに長く感じた。


―胸騒ぎがした。


ジェンは、ふっと表情を和らげた。


「あたし、結婚するの」


何を言われたのか、理解できなかった。




―ケッコン?ケッコンってなに?




ジェンは、私を見つめていた。


真っ直ぐに。


私の言葉を待ってる。


「……そう…なんだ。おめでとう」


必死で振り絞った声はぎこちなかった。


唇が歪な笑みを作るのが自分でもわかった。




―ケッコンって、何?




ジェンが微笑んだ。


あの日とは違う、大人びた顔で。


あの日とは違う喜びに、嬉しそうに微笑んだ。


「あなたも幸せになってね」


呆然とする私を残して、ジェンは席を立った。




ジェンの後ろ姿が遠ざかっていく。


コツ…コツ…コツ………




――カラン


溶けた氷がグラスに当たる音で、私は目を覚ました。


―夢だよね?


前を見ると、ジェンはいなかった。


飲みかけのコーヒーカップがあるだけ。


カップに、ジェンと同じ口紅がついているだけ…。




窓の外を見ると、空には三日月が浮かんでいた。


慌てて外に出たけれど、そこにもジェンはいなかった。


スマホがメッセージの着信のあったことを告げる。


『タクシーで帰るから、心配しないで。次の日曜日、Gloriaに行くの忘れないでね』


急いで返信する。


『送って行けなくてごめんね。Gloria、楽しみにしているわ。前にジェンが言ってたフレンチのコース、予約しておくわね』




―ジェンとの日曜日があるわ!


口元に笑みが浮かぶのがわかった。




『結婚するの』




ジェンの声が耳にこだまする。




どうやって帰ったのか、覚えていない。


目の前が真っ暗になって、すべての色がなくなってしまった。


―ジェンが、結婚する…






店で一時間かけて整えた爪を噛んでボロボロにしてしまった。


それでも、爪を噛むことを止められない。


「ジェンが結婚する…ジェンが結婚する…」


自分の声が耳に響いた。


部屋を歩き周りながら、ジェンの結婚について考えていた。


考えることをやめられなくなっていた。


―ジェンが奪われる


―ジェンがいなくなる


「いいえ、いなくなったりしない。ほら、次の約束があるじゃない」


―結婚したら?


―私と会うと思う?


「………会うわよ」


その声は弱々しく消えた。




―家庭が忙しくなるわ。


―家庭が楽しくなる。


―ジェンと会えなくなる。


「いいえ!ジェンは会ってくれる」


―私が旦那様より大切だと?


「……………」


―ジェンは離れていく。


「……………」


―ジェンは、いなくなる




鏡の中の自分と目が合った。


―ジェンはいなくなる。


「だめよ!!」


叫び声が家中に響いた。


手に痛みを感じた。


見ると、右手が血で染まり、鏡が割れていた。


ひび割れた鏡の中の自分を見つめた。


―檻の中に閉じ込められたみたい…。


―…檻?




「そうだわ!」


―そうよ!


「ジェンには、ここにいてもらえばいいじゃない」


―私がお世話するの!


「いままでもそうしてきたように!!」

この作品はいかがでしたか?

28

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚