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ひとせるな
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転校してきた殺し屋君第2章:崩壊する日常
第10話:闇に潜む眼と、蹴り技の達人の姉貴
「……うるさいわね。ガキの遊びは終わりよ」
二丁のサブマシンガンが床に転がり、金属音が響く。 海沼の立ち姿が、一瞬で変わった。しなやかで無駄のない、獣のような重心の低さ。五つの人格が一人、蹴り技のスペシャリスト**『玲奈(れな)』**の覚醒だ。
「……っ、来るぞ!」 佐江宮の警告が飛ぶより早く、玲奈の細い足が闇を切り裂いた。
ドガァンッ!!
盾にしていた重厚なオーク材のテーブルが、紙細工のように真っ二つに叩き割られる。黒咲は間一髪で横に転がり回避したが、その風圧だけで肌がヒリついた。
「あら、避けるなんていい反応。でも、次はお掃除の時間よ」 玲奈が不敵に微笑む。彼女にとって、この場にいる全員が「片付けるべきゴミ」でしかない。 目にも止まらぬ連続蹴りが黒咲を襲う。上段、中段、そして視界から消えるような低空の足払い。黒咲は腕を交差させてガードするが、一撃ごとに骨が軋むような衝撃が全身を突き抜ける。
「凪! 下がれ、俺が抑える!」 佐江宮が体当たりで割って入るが、玲奈は空中で体を捻り、佐江宮の肩を支点に一回転。そのまま重力を乗せた踵落としを彼の脳頂に叩き込んだ。 「ぐはっ……!」 組織の幹部クラスである佐江宮が、膝を突く。
「佐江宮さん!」 「よそ見なんて、余裕ね!」 玲奈の回し蹴りが黒咲の脇腹を捉えた。黒咲の体は砲弾のように吹き飛び、セーフハウスの壁に激突する。 メキメキと壁が崩れ、建物の構造自体が悲鳴を上げ始めた。
その頃、外の屋上。 黒岩(黒鷹勇)は、スコープ越しに崩落を始めるセーフハウスを見ていた。 「……始まったか。玲奈が暴れれば、あの建物はもう持たない」 彼は冷静に次の弾丸を装填する。狙うのは、瓦礫の中から這い出してくるであろう、満身創痍の黒蜜だ。
セーフハウス内は、もはや地獄絵図だった。 玲奈の蹴りが柱をなぎ倒し、天井からコンクリートの破片が降り注ぐ。 「アハハ! 全部壊して、綺麗にしてあげるわ!」 狂ったような「掃除」が続く中、黒咲は瓦礫の中で意識を研ぎ澄ませた。 このままでは建物ごと押し潰される。だが、目の前の怪物を傷つけずに止める術が、今の黒咲には見当たらなかった。
(クソっ、海沼……! 戻ってくれ!)
崩れ落ちる天井。 玲奈の最後の一撃が、黒咲の眉間を狙って振り抜かれようとしたその時――。 再び、街に不気味なノイズ混じりの「チャイム」が響き渡った。
「……あ……熱い、頭が……熱いよぉ……」 玲奈が頭を押さえ、その場に蹲る。 人格の強制切り替えに伴う、脳への過負荷。 次に来るのは「俺様系」のれいお、か。それとも「策士」のれいの、か。黒咲は痛む体を引きずりながら、決死の覚悟で彼女の元へ駆け寄った。
(つづく)
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