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ひとせるな
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転校してきた殺し屋君第2章:崩壊する日常
第11話:死なない兵士
「……ちっ、屋上まで揺れてやがる。派手にやりすぎだ、玲奈」
向かいのビルでスコープを覗く黒岩(黒鷹勇)が、忌々しげに指をトリガーにかけた。崩落を始めたセーフハウス。瓦礫の隙間から這い出そうとする「影」が見える。 「……見えたぞ、黒蜜。お前から先に、楽にしてやる」
パァンッ!!
マズルフラッシュが闇を切り裂く。だが、その弾丸は標的を貫く直前、夜空で火花を散らして弾かれた。 「なっ……!?」 黒岩のバイザーが、あり得ない光景を捉える。黒蜜が、手に持った軍用ナイフの腹で、時速数百キロの弾丸を正確に叩き落としたのだ。 「悪いな、黒岩。お前の弾道計算は、もう頭に入ってる」
黒蜜はそのまま、ビルの屋上から地上へと「落下」した。いや、それは落下ではなく、壁面を蹴り、看板を足場にする、重力を手懐けた高速の機動だった。 一瞬でセーフハウスの崩壊現場に到達した黒蜜は、背中に背負っていた特殊手榴弾――「閃光音響弾(スタングレネード)」を瓦礫の隙間へ投げ込んだ。
――――ッバァァァァァァァン!!
凄まじい光と轟音が、崩落寸前の室内を包む。 三半規管をかき乱され、玲奈の人格が苦痛に顔を歪める。その隙に、黒蜜は煙の中に突っ込み、瓦礫に埋もれかけていた黒咲と、意識を失った佐江宮を両脇に抱え上げた。
「黒咲、しっかりしろ! 死ぬにはまだ早いぞ!」 「……黒蜜、か。助かった……」 「礼は後だ。ここはもう持たない。出るぞ!」
黒蜜が二人の巨体を抱えたまま外へ飛び出した直後、セーフハウスが轟音を立てて完全に崩壊した。土煙が舞い上がり、辺りは静寂に包まれる。 だが、安堵する間もなかった。
「……逃がさないわよ」
瓦礫の山から、一人の人影がゆっくりと立ち上がる。 土埃を払い、月光に照らされた海沼――いや、その人格はすでに『玲奈』でも『れいたろう』でもなかった。 眼鏡を直し、冷静な、だが狂気を孕んだ眼差し。 五つの人格の中で最も知略に長けた、殴撃の策士**『れいの』**だ。
「建物を壊して逃げるなんて、非効率な逃走ルートね。……黒蜜さん、あなたの速度。私の計算式で、すでに『詰み』よ」
れいのの背後では、狙撃に失敗した黒岩が、今度はアサルトライフルを手に、地上へと降り立っていた。 絶体絶命。負傷した黒咲と佐江宮、そして二人を抱えた黒蜜の前に、知略と狙撃のコンビが立ち塞がる。
「……黒咲、俺を下ろせ」 黒蜜が、血の混じった唾を吐き捨て、ナイフを逆手に持ち替えた。 「三人まとめて相手にしてやる。お前らは先に、予備の隠れ家へ行け」 「……馬鹿言うな。一人で行かせるわけないだろ」
黒咲は痛む脇腹を抑え、瓦礫の中から一本の鉄筋を引き抜いた。 夏の夜風が、血の匂いを運んでいく。
(つづく)
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