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出久推し
262
ひま
47
さくち
139
朝。
「……デク、起きろ。朝だぞ」
かっちゃんは、腕の中で眠っている出久の髪を撫でた。
いつもなら、何度か呼べば「んん……かっちゃん、あと五分……」なんて甘えた声が返ってくる。
けれど、今日は違った。
「……」
出久は目を開けていた。
ただ、ぼんやりと天井を見つめている。
「……出久?」
「……おはよう、かっちゃん」
笑った。
いつもと同じように、口元だけ。
かっちゃんの手が止まった。
「……お前、昨日ちゃんと寝れたか」
「うん。大丈夫だよ」
「嘘つけ。目ぇ腫れてんぞ」
「……ごめんね」
「なんで謝んだよ」
「……わかんない。ごめん」
出久は困ったように笑った。
その笑顔を見た瞬間、かっちゃんは嫌な予感がした。
昨日、あれだけ泣いた出久が、今朝になって急に平気になるはずがない。
「デク。こっち見ろ」
「……うん?」
「何かあったら言えよ」
「何もないよ」
「……出久」
「ほんとだよ。僕、もう大丈夫だから」
その言い方が、あまりにも静かだった。
まるで、自分の気持ちを話すことそのものを諦めてしまったみたいに。
かっちゃんは出久を抱き寄せようとした。
すると、出久の肩がびくっと揺れた。
ほんの一瞬。
けれど、確かに怯えた。
「……っ、悪ィ」
かっちゃんが腕を緩めると、出久は慌てて首を横に振った。
「ち、違うの! かっちゃんが嫌とかじゃなくて……っ」
「……わかってる。無理に抱きしめたりしねえよ」
「……ごめんなさい」
「だから、謝んなって」
出久は俯いた。
「……僕、変だよね」
「何がだよ」
「かっちゃんは、こんなに優しいのに。僕、昨日みたいに泣いちゃうし……今日だって、なんか、変で……」
言葉が途切れる。
出久は自分の指先を見つめた。
「……かっちゃんに、嫌われたくないのに」
「……あ?」
「嫌われたくないから、ちゃんと笑わなきゃって思うんだ。でも、笑おうとすると、昨日のこと思い出して……」
声が震え始めた。
「かっちゃんに心配かけたくない。迷惑かけたくない。僕のせいで、かっちゃんまで苦しくなったら嫌だから……」
「……デク」
「でもね、何も考えないようにしても、ずっと頭の中で同じことばっかり考えちゃうんだ」
出久はぎゅっと目を閉じた。
「僕、どうしてこんななんだろう……」
ぽたり、と涙が落ちた。
「……何もされてないのに、急に怖くなるの。かっちゃんがいなくなったらどうしようって。僕に飽きちゃったらどうしようって……」
「……っ」
「かっちゃんが『好き』って言ってくれても、嬉しいのに……またいつか、なくなっちゃうんじゃないかって……」
出久は口元を押さえた。
「……信じたいのに、怖いんだよぉ……」
とうとう、涙が止まらなくなった。
「ごめんね……っ。僕、かっちゃんのこと大好きなのに……こんなことばっかり考えて……っ」
「……出久」
「僕、かっちゃんに嫌われたら、どうしたらいいの……?」
かっちゃんはすぐには答えなかった。
出久が自分をどれだけ好きなのか、知っていたつもりだった。
けれど今、目の前で泣いている出久は、ただ甘えたいだけじゃない。
自分が大切にされていることを、心の底から信じるのが怖くなっている。
優しくされても、安心していいのかわからない。
幸せな時間の最中でさえ、いつか失うことを考えてしまう。
そんなところまで、傷ついていた。
「……デク。こっち来い、とは言わねえ」
かっちゃんは出久の目を見つめた。
「抱きしめてほしかったら、俺から抱きしめる。今は触られたくねえなら、隣にいる。それでいい」
「……っ、かっちゃん……」
「笑わなくていい。俺に気ぃ遣って、大丈夫なふりすんな」
出久の顔がくしゃりと歪んだ。
「……でも、僕……」
「お前が苦しい時まで、俺のためにいい子でいようとすんなよ」
「……っ、うぅ……」
「俺は、お前の笑顔だけが好きなわけじゃねえ。泣いてるお前も、何も話せねえお前も、どうしたらいいかわかんなくなってるお前も、ちゃんと大事なんだよ」
出久は両手で顔を覆った。
「……やだぁ……っ」
「……ああ」
「僕、もう、やだぁ……っ。苦しいの、やだよぉ……っ」
「……ああ。苦しいな」
かっちゃんは、出久が自分から服を掴むまで待った。
やがて、震える手がそっと伸びてくる。
「……かっちゃん……だっこ、して……」
「……おう」
かっちゃんは出久を胸に抱き寄せた。
出久はその胸に顔を埋め、また泣いた。
「……っ、僕、どうしたらいいのぉ……」
「今は何もしなくていい」
「……治る……?」
かっちゃんは、その問いに軽々しく「すぐ治る」とは言わなかった。
「……時間はかかるかもしれねえ」
出久の背中を、ゆっくり撫でる。
「でも、一人でどうにかしろなんて言わねえよ。俺にも話せ。俺だけじゃ足りねえ時は、ほかの誰かの力だって借りりゃいい」
「……かっちゃん、ずっと……好きでいてくれる……?」
「……ああ。お前が不安になったら、また答えてやる」
「何回でも……?」
「何回でもだ」
出久は、かっちゃんの服を握りしめた。
まだ怖い。
今すぐ全部を信じられるわけじゃない。
昨日の傷が消えたわけでもない。
それでも今は、腕の中にいるかっちゃんの温もりを、ほんの少しだけ信じてみたかった。
「……かっちゃん、僕……今日、ずっとそばにいてほしい……」
「わかった」
「……途中で、いなくならないでね……」
「出かける時はちゃんと言う。黙って消えたりしねえよ」
「……うん……」
かっちゃんは出久の頭を撫で続けた。
出久が笑えるようになるまで、無理に笑わせたりしない。
元気になるよう急かしたりもしない。
ただ、出久の「苦しい」を、もう「大丈夫」の一言で片づけない。
「……デク」
「……なぁに……?」
「今日は、何も頑張んなくていいからな」
出久は返事の代わりに、かっちゃんの胸へぎゅっと顔を押しつけた。
「……っ、かっちゃん……」
「んだよ」
「……だいすき……」
「……ああ。俺も大好きだ」
その言葉を聞いても、出久の不安は完全には消えなかった。
それでも、泣いている自分を隠さなくていい朝が、ここにはあっ
コメント
1件
いやあ……もう、今回も泣いたわ。 出久の「信じたいのに怖い」って気持ち、すごく伝わってきた。 無理に笑わなくていいって言えるかっちゃん、マジでかっこよすぎるでしょ。 「何回でも答えてやる」ってセリフにこっちまで安心した。 苦しみを一人で抱えさせない距離感、すごく大事だと思う。 この2人の関係、尊すぎて胸が苦しい……! 続きが気になるけど、この温かさに浸ってたい気持ちもある。出久推しさん、素敵な話をありがとうございます🔥