テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「じゃあ今日から少しずつ慣れていこうか。まずは朝食の前に湯浴みだ。侍女たちが準備しているから──」
「い、いらない!」
思わず叫んだ私に、彼は驚いたように目を丸くした。
「自分でできるもの! 一人にして!」
長い沈黙。
フィンセントは私の顔をじっと見つめていたが、やがて肩をすくめて笑った。
「わかった。今はそれで妥協しよう」
あっさりとした返事に拍子抜けしたのも束の間
「……だけど忘れないで。君が逃げようとすればするほど、僕は君を離せなくなるからね」
ドアが閉じられると同時に、私は深く息を吐き、ベッドに倒れ込んだ。
体中にまとわりつく恐怖。
そして、なぜか胸の奥を締め付ける奇妙な切なさを、どうすることもできなかった。
◆◇◆◇
フィンセントは、一国の王として信じられないほど多忙なはずだ。
それなのに、彼は日没とともにすべての政務を強引に切り上げ、この離宮へと戻ってくる。
「セシリー、今夜のドレスはこれにしよう。君の髪色によく映える」
夜、広大な離宮のサロン。
フィンセントは私を自分の膝の上に座らせたまま
用意させた数十着もの新作ドレスを次々とあてがっていく。
逃げようとしても、腰に回された腕に力を込められ
耳元で「変なことは考えないでね」と切なげに囁かれるだけ。
「……ねえ、フィンセント。たまには、お庭以外の場所にも行きたいわ」
「ダメだよ。外には君を傷つける棘や、君を僕から奪おうとする不届き者が溢れている」
「そ、そんなわけ……!」
彼は私の反論を、柔らかな唇で封じるように髪へと口付ける。
その所作はあくまで優雅。
けれど、私の手首を掴む指には、逃走を許さない強い熱が宿っていた。
「僕の側にいれば、君は何も怖がらなくていい。……それとも、僕の愛だけでは足りないのかな?」
ふっと彼の瞳の温度が下がる。
ヤンデレ特有の疑心暗鬼のスイッチが入ったことに気づき、私は慌てて彼の首に手を回した。
これもすべて、隙を作って油断させて
いつかこの檻から抜け出すため。
そう自分に言い聞かせながら、彼に縋るような形を作る。
「……ううん。足りているわ。足りすぎて、溺れそうなくらい」
「ならいい。愛しているよ、セシリー。君の爪の先から、吐息の一つまで、すべてね」
深い口付けが降ってくる。
それは甘い蜂蜜のようでいて、呼吸を奪う真綿のように重苦しい。
「んんっ……ぅ」