ヘアアイロンで髪を整えて、前よりも控えめなナチュラルメイクをして、自分の顔を鏡でチェックする。
「…よし」
「オーカルン!おはよ!」
「あ、綾瀬さん…おはようございます」
いつからだろう、こんな気持ちが芽生えたのは。
最初は「たまたま推しと同姓同名で陰気臭いオカルト好きなヤツ」そうとしか思っていなかった。
けど、一緒に過ごしていくうちに
陰気臭いオカルト好きなヤツから、友達へ。友達から、大切な友達へ。
そして、気づくとオカルンは、ウチにとって大好きな人になっていた。
それ以降、現在進行形で片思い中。いつか振り向いてもらえるように、って頑張ってんの。偉くね?ウチ。
でも、生憎この学校には可愛い子ばっかり。オカルンがいつ目移りしちゃうか不安で仕方ない。
それに、オカルンはウチのことを友達としか思っていないように見える。…今のところは。
まったく、この恋はいつ実るんだか─
「う〜…」
「出た、悶絶タイム」
「またあのオタクくん?お熱うことで」
机に突っ伏し項垂れていると、ミーコとムーコが笑いながら冷やかしてくる。
「ちげぇよ…そんなんじゃないから…」
「「ほんとにぃ〜?」」
「本当だわい!変なこと考えんな!」
「モモー、顔真っ赤だよ?」
「照れてるんだ〜可愛い〜 」
「はぁーー…」
あーもう、マジ調子狂う…。全部オカルンのせいだ。
放課後。オカルンもそろそろ帰るところだろうか と隣のクラスをちらりと覗いてみる。
「あれ〜、オカルン居ない…」
もう帰っちゃったのかな?そんなはずは…
「ねえ、高倉ってさー…」
ふと、廊下から声が聞こえた。
高倉?オカルンのこと?気になり声の方へ行ってみることに。
すると、そこにはオカルンの友達らしき男子とオカルンの姿を目にする。
「オカル…」
…いや、急に割り込んだら迷惑か。それに、なんか話してるっぽいし。
今日は諦めて帰ろう。また明日でも…
「高倉ってさ、…さんのこと好きなの?」
一瞬、体が固まった。肝心な名前の部分は聞こえなかったけど。
『…さんのこと好きなの? 』
どういうこと?オカルン、好きな人いるの?
ウチは壁に身を隠し、こっそり二人の会話を盗み聞きする。
「えっ……い、いや、そんな… 」
「ほらほら、いいから言っちゃいなよ」
「……まあ、はい…」
ズキッ。心の奥が痛んだような気がした。
何してんだよバカオカルン。そこは否定しろよ。
「へえー、具体的にどこが好きなの?」
「え、えっと…優しくて…強くて…あと可愛いくて…」
「…っ」
気づくと、ウチはその場から逃げ出していた。もうこれ以上聞きたくない。
優しくて強くて可愛いとか、何それ。もう勝ち目ないじゃん。ふざけんな。
校舎裏に座り込み、不意に堪えていた涙がポロポロと零れ落ちてくる。
なんだか、たまらなく惨めで恥ずかしくて。そして何よりショックだった。勝手に好きになって変な期待して頑張っちゃったりしてさ。
全部無意味だったんだ。よくある恋愛漫画みたいに現実は上手くいかないもんなんだ。
そう痛いくらいに痛感させられて、抑えようとしても、ぐちゃぐちゃになった気持ちが溢れて止まらない。
最悪だ。こんな思いするなら、最初から好きになるんじゃなかった。
こうして、ウチの恋は儚く散った。
「綾瀬さん!!」
やばい、誰か来た?なんでこんなタイミングで…。
無視する訳にもいかず、涙まみれの顔をゴシゴシと拭いてゆっくり立ち上がる。
「…誰?」
「…!綾瀬さん…良かった!ここに居たんですね…」
「は!?なんでオカルンが…!」
「こっちのセリフですよ!なんでこんな所に…居たと思ったら急にどっか行っちゃう、し、……綾瀬さん?泣きましたか?」
頬に触れられ、思わずその手を振り払ってしまう。
もう良いから。これ以上ウチを惨めにしないで。期待させないで。
「別に…泣いてねーし」
「…嘘。目赤くなってる」
「…っるせぇーなぁ!オカルンには関係ねぇだろうがよ!」
「関係なくないです。大事な人が泣いてるんだから。理由ぐらい聞かせてください」
『大事な人』
そんなことを言われると、嫌でも心が揺らいでしまう。
まだアンタはウチを乱れさせる気か。
「……ごめん。さっきの話、こっそり聞いちゃってて」
途端にオカルンの顔が赤く染まる。
やめて 。他のヤツ考えてそんな顔しないでよ。
「…っ、それで…オカルン、好きな人がいる、って……。なんで黙ってたわけ?」
「……」
「…なんか言えよ」
「おい、オカ…」
「目の前に張本人がいるんだから言えるわけないでしょうが!」
「…は?」
「さっきの話も、ジブンの好きな人も、綾瀬さん、あなたですよ!ジブンの好きな人は綾瀬さんだけ!それなのに綾瀬さん、全然気づいてくれなくて…」
頭の中はハテナだらけ。理解するのに数秒かかった。
…つまり、片思いっていうのはウチの勘違いで。オカルンとウチは、ずっと両思いだったってこと?
「は、はぁ…?何それ…」
一気に顔が熱くなり、バクバクと心臓の鼓動音がうるさいくらいに鳴る。
「だ、だってウチ、今までずっと…てっきり…」
「綾瀬さん」
ウチの手をそっと優しく包み込み、いつもよりずっとまっすぐな瞳で見つめられる。
「綾瀬さん、好きです」
かぁぁっ、と顔が赤くなっていくのが自分でもわかった。
「…綾瀬さんは、どうですか?聞かせてください」
そんなの、聞かなくてもわかるでしょ。オカルンの手を握り返し、じっと見つめ合う。
「…ウチも。オカルンのこと、好き」
それから数年後。当時のことは、今となっては二人の思い出話になっている。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!