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「雄大が結婚を決めたのは……、実家同士のしがらみで自由を奪われる心配がないからかしら」


実家同士のしがらみ……?


とことん失礼な物言いに腹が立つ反面、雄大さんの実家について気になった。もちろん、春日野さんに聞く気はない。


そういえば、雄大さんのご両親について聞いたことがないな。


「春日野さんが私たちの結婚を快く思っていないことはわかりますけど、さすがに失礼じゃありません?」

「そうね、ごめんなさい。何が雄大の気持ちを変えたのか……気になったの」

とても申し訳ないと思っているようではない。

「ご両親の跡を継ぎたくなかっただけで、結婚したくなかったわけじゃないのかもしれないわね」


雄大さんのご両親は会社の社長とかだろうか?

春日野さんとの結婚で両家の繋がりを持ってしまうと、自分が跡を継がなければならない状況に陥ってしまうから、結婚したくなかった……とか?

じゃあ、私との結婚は……?


「結婚しても自由でいられるあなたとだから、結婚する気になったのね」


自由……。


その言葉が、やけに重く感じた。


立波リゾートの社長なんて……自由とは程遠い——。


私と結婚することで、雄大さんの自由が奪われると知ったら、春日野さんはどう思うのだろう。

きっと、同じ自由を奪われるのなら、なぜ自分ではダメだったのかと怒るだろう。

「ネクタイは婚約指輪のお返し?」

食後のコーヒーを飲みながら、聞かれた。

「いえ……。不注意で雄大さんのネクタイをダメにしてしまったので……」

まさか、酔っ払ってちょん切ったネクタイのお詫びとは言えない。

「それって、金曜に着けていたネクタイ?」

「え……?」

「あれ、私が別れるときにプレゼントしたものなの」

今日、一番のダメージ。

「本人は忘れてるでしょうけど」

雄大さんと春日野さんの過去がダメージ二十で、雄大さんの両親のことがダメージ三十なら、今のはダメージ四十九。

「でなきゃ、婚約者がいるのに元カノから貰ったネクタイをするはずないものね」

かろうじて残っていたHP一も、作り笑顔で消費してしまった。

だから、私は相当ひどい顔をしていたと思う。

「馨ちゃん?」

食事を終えて店を出た私は、呼ばれて振り返った。

雄大さんのお姉さん。

「ランチ?」

「あ……、はい。お姉さんもですか?」

「私は隣のイタリアンだけど——」

「もしかして、雄大のお姉さんですか?」

会計を済ませて出てきた春日野さんが、お姉さんに声を掛けた。

春日野玲かすがの れいと申します。雄大からお話、伺っていました」

どうやら私の計算は間違っていたらしい。

お姉さんがマンションに来るまで、私はお姉さんの存在も知らなかった。なのに、春日野さんは知っていて、それも雄大さんから聞いた。

HPは残りゼロだと思っていたのに、更にダメージを食らった。


私はあと、どれだけのダメージに耐えられるだろう。


槇田澪まきた みおです。弟がお世話になっています」と、お姉さんが挨拶をする。

義妹いもうとの馨もお世話になっているようですね」

この一瞬で、お姉さんは察したらしい。


当然か。

春日野さん、『雄大』って言ったし。


「馨ちゃん、体調悪そうだけど大丈夫?」

「はい」

「……この女に何か言われたの?」

お姉さんは私の耳元で囁いた。


お姉さん、鋭い……。


「週末、ちょっとバタバタしてたので、疲れが抜けなくて。でも、大丈夫です」

「週末? ああ!」

お姉さんが急に顔を上げた。

「雄大のマンションに引っ越したのよね? 雄大、喜んでたでしょう?」

今度は春日野さんがダメージを受けたらしい。婚約指輪を見た時と同じくらい、表情が険しくなった。

「結婚しても遊びに行っていい? 馨ちゃんの手料理、また食べたいから」

「いつでも来てください」

「あ、雄大には内緒よ。馨ちゃんとの時間を邪魔するなって言われてるから、絶対いい顔しないもの」

お姉さんの春日野さんへの攻撃は止まない。

「あいつ、涼しい顔してかなり粘着質だから、うざい時はうざいって言わなきゃダメよ? 一緒に暮らしてるからって、四六時中相手することないんだから」

お姉さんの言う通り、昨日の雄大さんは朝のセックスから始まって、暇さえあれば私に触れていた。荷物が片付かないからと、何度拒んでも。

「いい年して、馨ちゃん相手には盛りのついた雄猫みたいなんだから」


お姉さん、言い過ぎ……。


「あ、そろそろ戻らなきゃ。馨ちゃんは? 車で来てるから、送るわよ?」

「いえ、私は——」

「春日野さん、お会いできて良かったです」

私の返事を待たずに、お姉さんは春日野さんに言った。

「こちらこそ」

怖くて春日野さんの顔を直視できなかったけれど、声は落ち着いていた。

「那須川さん、これで失礼します」

「ご馳走様でした」

「いえ。では」

春日野さんは会釈して、歩き去った。

「ザマーミロ」

「お姉さん、言い過ぎです……」と、私は遠慮がちに言った。

「そお? 馨ちゃんの前で雄大を呼び捨てにするなんて、喧嘩売ってるとしか思えないじゃない! 私に対しては媚び売ってるのが見え見えでいやらしい」


思えない、じゃなくて、実際に喧嘩を売られたんです……。


「あ、駐車場こっち」

「え? あ、いえ——」

私に拒否権はなかった。


さすが姉弟。


私はお姉さんに言われるがままに、メタリックシルバーのハイブリットカーに乗り込んだ。

「で? あの女は何? 雄大の元カノ?」

駐車場を出てすぐに、お姉さんが聞いた。

「はい。一緒に仕事をすることになりまして……」

「雄大は知ってるの?」

「雄大さんも一緒なんです」

「最悪ね。ま、あの女ほどじゃないでしょうけど」


私もそう思います。


「で、何で雄大の元カノに奢ってもらってるの?」

私はネクタイの入った紙袋を、ギュッと握りしめた。

「ほら! 会社に着いちゃうから、ちゃっちゃと話す!」


ですよね……。


私は雄大さんのネクタイを買ったところで春日野さんに声を掛けられたところから話し始めた。かいつまんで。雄大さんとお姉さんのご両親のことには触れずに。

「何やってんのよ、雄大《あいつ》」

お姉さんは腹立たしそうに、舌打ちした。

「元カノにつけ入らせるなんて」

「私がもう少し上手くやり過ごせたら良かったんですけど、経験値足りなくて……」

「それもそうね。馨ちゃんはもっと自信を持つべきよ」

「はい……」と、私は肩を落とした。

「それも、結局はあいつの甲斐性がないからなんだけどね」

「そんな……」

「雄大に愛されてるって自信が持てないから、あの女に強く言えないんでしょう?」


愛されてる……わけじゃないからなぁ。


「馨ちゃん、姉の私が言うのもなんだけど、雄大はいい男よ? 高学歴、高収入、出世街道まっしぐら、その上家事も完璧」

「はい」

「その雄大が、全く興味を持てずにいた結婚を望んだのよ? 相手は他でもない、馨ちゃん」

まさか、身体の相性がいいから、なんて言えない。

「どんな事情があるにせよ、好きでもない相手と結婚なんてしないでしょう?」

『どんな事情があるにせよ』というフレーズが気にかかった。


お姉さん、契約のことを知っている……?


「雄大はあの女とは結婚したいと思わなかったけど、馨ちゃんとはしたいと思った。それが全てじゃない? 雄大は結婚したいと思えるほど、馨ちゃんが好きなんだから」

好きか嫌いかで言えば、好かれているとは思う。けれど、『愛』なのかはわからない。

「私だって、そうよ?」

「え?」

「あんな女が義妹なんて嫌よ」

「ははは……」

「いや、本気で。同類嫌悪って言うの? 自信満々で人を見下したような目つき、大っ嫌い!」

会社のすぐ手前で、信号が赤に変わった。

「お姉さんとは同類じゃないですよ。それに、春日野さんも私と雄大さんの関係を知るまではいい人でしたし」

「もう! そんなこと言ってるから、あの女に見下されるのよ!」

「送っていただいて、ありがとうございました」と言いながら、私はシートベルトを外す。

「話を聞いてもらえてすっきりしました」

「馨ちゃん、もっと雄大に頼って甘えなさい。一人で抱えちゃダメよ」

「はい!」

車を降りると、ちょうど信号が変わった。私は、走り去るお姉さんの車を見送って、会社に戻った。

共犯者〜報酬はお前〜

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