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「…なるほど、ノアがそんなことを」
「…俺、無理させてまで、そういうことさせたくないんです…」
「トラゾーの意見は?」
「充分、わがまま聞いてもらってますから…付き合えただけでも、奇跡というか…」
どのくらいの時間が経ったか分からない。
だいぶ泣いた気がする。
らっだぁさんは何も言わずに隣で静かに相槌を打ってくれていた。
「片方だけが我慢するの、おかしいよ」
「でも、無理だなんて言われたら…」
思案顔するらっだぁさんがポンっと手を叩く。
「じゃあトラゾー、スマホ貸して?」
「え…何するんですか…?」
「まぁまぁ、俺に任せて」
言われるがまま、スマホの電源をつける。
「わ」
そこにはLINEの通知や着信履歴がたくさん表示されていた。
ぺいんとやしにがみさんもあった。
けど、クロノアさんの件数が圧倒的に多い。
「無理、ていう人にこんな夥しい数の履歴残さんでしょ」
とりあえず、ぺいんととしにがみさんにはらっだぁさんといることと大丈夫なことを伝えた。
「はい、……それで、俺のスマホで何するんですか?」
「んー?お兄さんが人肌脱いであげよう」
手招きされ近かった距離が更に縮まる。
肩を引かれて、目の前にらっだぁさんの端正な顔が。
カシャっと音がした。
「え?ん?写真…?」
「まぁ、後が怖いけど。ここは可愛いトラゾーの為だからね」
スススと何か操作をし、スマホを返された。
「多分、すぐ来るよ」
「え?」
「だから、もう大丈夫だよ」
「らっだぁさん…?」
ほんの数分にも満たないくらいのあと、廊下で誰か走ってくる。
そんな音がしたかと思うとバン!と乱暴に教室の引き戸が開かれた。
「ね?」
「くろのあさん…」
いつもの優しい顔は全くなく、めちゃくちゃ怒った顔をしている。
「……トラゾー」
「、!」
穏やかな声は氷でも纏っているのではないかと思うくらい冷たくて低い。
「ほら、行っておいで」
肩を叩かれてそう言われるけど、正直怖くて行きたくない。
「らっだぁさん…」
我ながら弱々しい声だったと思う。
ちっ、とクロノアさんから聞いたこともない舌打ちが聞こえたかと思うと俺のところに来た彼に強引に立たされる。
「とりあえず、トラゾーは引き取ります。あとでどういうつもりか聞くので覚悟しといてください」
「えー?俺は可愛いトラゾーの為に悪役になっただけだよ」
「そうだとしても、許せません」
怒った顔のクロノアさんと笑顔のらっだぁさん。
「そんなに大事なら、隠して縛っておけば?まぁ、そんなことしなくても俺ならたくさん甘やかしてあげるのに。…ね?トラゾー」
「ぅえ…?」
にこりと優しく笑ったかと思うとらっだぁさんはクロノアさんを真顔で見つめる。
「大事だからこそ、大切にしたいんですよ」
「ふぅん?当の本人には全く伝わってないよ?疎いんだからちゃんと言ってあげんと」
「それはこれから教えます、」
ぎゅっと抱きしめられて、思わず身を委ねそうになったがあの言葉を思い出して微かに抵抗する。
「ゃ、やです。離してください…」
「ダメ。絶対に離さない」
強い力で抱きしめられて動けない。
弓道部だから腕の力が強い。
「トラゾー、これだけは言っとくな」
「え?」
「男はみんな狼なんだよ」
子供の頃、なんか聞いたことのあるフレーズに首を傾げる。
「まぁ、ノアは狼より猫だけど……ま、とりあえず嫌なことはちゃんと嫌って言うこと」
「…ご忠告どうも。それも全部俺が教えるので結構です」
「クロノアさん…え?どういうこと?らっだぁさん?」
わけが分からなくて交互に2人を見る。
「普段、怒らない人が怒ると怖いよねって話」
俺に帽子を被せ頭を撫でたらっだぁさんは教室から出ていった。
「……」
「……」
教室は再び静寂に包まれる。
「クロノアさん、あの…」
「離したら逃げるでしょ」
「ゔ…」
「俺の足じゃトラゾー捕まえられないから、離さないよ」
ぎゅっと手首を掴まれる。
この人握力もあるんだった。
「……場所を変えよう。俺の家に行って話しよ」
「…はい、わかりました」
素直に頷く。
手を引かれながら俺たちは帰路についた。