走るトラゾーを途中で見失って、探しながらLINEや電話をたくさんかけたりした。
既読もつかないし、電話も全く繋がらない。
なかなか広いうちの学校の教室の中から特定の1人を探すのには骨が折れる。
あの時、トラゾーはすごく傷付いた顔をしていた。
そして泣いていた。
泣かせたのは勿論、自分だってことも分かってる。
「っ、くそ…」
ピロン、と通知音がしてもしかしてと思って画面を見た。
差出人は確かにトラゾーだった。
通知が2件。
一つは写真。
もう一つは、
──泣かせるなら俺が貰うよ?
というメッセージ。
「は?」
写真を開くとトラゾーに重なるようにして写る見覚えのありすぎる青髪。
「な…」
そして、どう見てもキスをしてるような画角。
「……ここは」
吹奏楽部の助っ人をすることがある。
そこはよく練習で俺が使っている今いる上の階の空き教室だと気付き、いろんな感情を押し殺してそこへ急いだ。
教室の戸を乱暴に開けると、帽子の取れて涙で泣き腫らした顔のトラゾーとその隣に座るらっだぁさんがいた。
「……トラゾー」
「、!」
できるだけ、優しく言ったつもりだった。
けれど、隠すことができない黒い感情は自分の声に乗っていた。
「ほら、行っておいで」
らっだぁさんに肩を叩かれてそう言われるトラゾーは困惑していた。
「らっだぁさん…」
弱々しい、縋るような声だった。
よりにもよって俺じゃなくて、隣の人に。
ちっ、と無意識に舌打ちが出てしまい、トラゾーを強引に立たせた。
「とりあえず、トラゾーは引き取ります。あとでどういうつもりか聞くので覚悟しといてください」
「えー?俺は可愛いトラゾーの為に悪役になっただけだよ」
「そうだとしても、許せません」
困った顔のトラゾーと笑顔のらっだぁさん。
「そんなに大事なら、隠して縛っておけば?まぁ、そんなことしなくても俺ならたくさん甘やかしてあげるのに。…ね?トラゾー」
「ぅえ…?」
トラゾーに、にこりと優しく笑いかけた後、俺のことを真顔で見つめる。
どういうつもりなのかと。
「大事だからこそ、大切にしたいんですよ」
「ふぅん?当の本人には全く伝わってないよ?疎いんだからちゃんと言ってあげんと」
「それはこれから教えます、」
離さないようぎゅっと抱きしめたが微かに抵抗された。
「ゃ、やです。離してください…」
震える弱い声。
「ダメ。絶対に離さない」
力はトラゾーの方がある。
けど、ここで離すと終わってしまうから。
自身の腕力と握力で押さえつける。
「トラゾー、これだけは言っとくな」
「え?」
「男はみんな狼なんだよ」
子供の頃、なんか聞いたことのあるフレーズに眉を顰めた。
「まぁ、ノアは狼より猫だけど……ま、とりあえず嫌なことはちゃんと嫌って言うこと」
嫌な言い方だった。
「…ご忠告どうも。それも全部俺が教えるので結構です」
「クロノアさん…え?どういうこと?らっだぁさん?」
わけが分からなくて交互に俺らを見る。
「普段、怒らない人が怒ると怖いよねって話」
トラゾーに帽子を被せさりげなく頭を撫でたらっだぁさんは教室から出ていった。
「……」
「……」
教室は静寂に包まれる。
「クロノアさん、あの…」
胸に手を当てられ逃げようとしている。
「離したら逃げるでしょ」
「ゔ…」
「俺の足じゃトラゾー捕まえられないから、離さないよ」
ぎゅっと手首を掴む。
弓道をやっててよかった。
「……場所を変えよう。俺の家に行って話しよ」
「…はい、わかりました」
諦めたのか素直に頷いたトラゾーの手を引きながら帰路についた。
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