小学校に入って、声を出さなかったら友達ができた。八声 衣舞(やつせ えま)だ。歌が大好きで、喋るのも大好きで、将来の夢は声優だと言う。だから、喋らない私を喋らすんだって言って、離れなかった。私は文字で確認をとった。
“私がどんな声でも絶対にはなれないでくれる?”
すると、その子は『勿論!』と、元気に頷いた。
安心して、数年ぶりに出したその声は掠れていた。勇気を振り絞ってお茶を飲んで何回か『あー、あー、』と声を出し、あの忌まわしい自分の声を出した。
その子は私の声を聴いて『わぁ…綺麗…可愛い…不思議な声…』と言った。少し、小さい声で歌った。折角声が出たのだから歌いたい。
『千本桜 夜ニ紛レ 君ノ声モ 届カナイヨ』
私は、数年振りに、本気で笑っていた。やっぱり私は、『らる』だ。
一抹の不安が脳裏をよぎる。『離れ、ない?』
『こんな素敵ならなおさららるちゃんと離れる訳ないじゃん!ってかなんで声出してなかったの?』
『仲間はずれに、されるからだよ。』
『こんな素敵で不思議で可愛くて、それでいて透き通ってて綺麗なのに?』
『だって、私の声…高いでしょ…』
『高くて、それで可愛いよ!だから素敵なんじゃん』
『高くて、変に可愛子ぶってるらしいよ私の声。』
『らしいよ、ってことは自分ではそうしてないんだ。』
『そうだよ』
『私、らるちゃんの声を変って言った人、その人こそ変だと思う。』
『そっか。ありがとう…!』
『人の声は、それぞれだもん!まるっきりおんなじ声の人なんて居ないよ!らるちゃんはらるちゃんで良いんだよ!』
『うん、ありがとう』小学校ではいじめられなかった。
中学生になった。いじめられないように私立を受験した。そして受かった。だけど、幼稚園の時と同じ理由でいじめられた。トラウマがフラッシュバックして、でもなんとか耐えていた。衣舞は同じ学校に入学して一緒にいたけど、やっぱり周りからの冷たい視線は耐え難いものだ。
衣舞とは家が隣だった。私は一年生の7月の真ん中あたりで学校に来なくなった。でも衣舞はそれでもいいって言ってくれた。また私の声が出なくなっちゃう方が嫌だって。小学生の頃は大声で毎日歌っていたのでどんだけ歌っても大丈夫だ。だから私は家でとにかく歌った。
『プリントー!届けにきたよー!』
『うん!今行く!』
『はいこれ』
『衣舞、いつもごめんね』
『大丈夫、友達だし当然のことだよ!』
それから3年生になるまで学校には一度も行っていない。リモートでずっとミュートして授業を聞いているが。
『ねぇ、試しに歌を歌ってネットにあげてみたら?』
『どうせ皆嗤うだけ。』
『あいつらがおかしいだけ。虜になるよ皆!新しい時代の波を起こすのだー!』
『ふふっ 考えとく』
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