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「え、どうして?」
「シャンディが年に1回の舞踏会でも、そのうち俺以外の他の男に出会ってしまうんじゃないかと焦るからだよ」
わたしの理解が追いつかない。
クリス殿下はアドニス様のことが好きだったはず。
なのに、いまの発言はまるでわたしのことが好きみたいだ。
「あの…クリス殿下が隣国マッキノンに表向きは留学として実質は人質として行かれたのは、クリス殿下がアドニス様のことを愛されているから、アドニス様の幸せを願ってされたことだと思っていました」
クリス殿下は真剣な表情でわたしの話しを聞いてくれる。
そして、わたしもクリス殿下を真っ直ぐに見る。
「アドニス様がクリス殿下の帰国を何年も待たれて、婚期を逃さないようにという表向きの配慮と、本当のところはクリス殿下が身をひいて、円満に婚約解消ということになったアドニス様がペイトン様とみんなから祝福される結婚をして、お腹の子のために3人で暮らしていけるようにというクリス殿下の配慮ですよね」
クリス殿下が深く深呼吸をして、その真剣な眼差しをわたしに返す。
「もちろんそうだよ。表向きはプレイス夫人のためだ」
ハッ、とする。
クリス殿下がいま、アドニス様のことを「プレイス夫人」と呼んだ。
そういうことなのね。
クリス殿下の中では、もうすでに過去のこととして、気持ちの整理ができていたんだ。
初めて気づく。
「表向きってことは、本当のところはなになんですか?」
少し間をとってから、クリス殿下は綺麗な青い目を細めて、わたしに優しく微笑んだ。
「誰にも明かしていない。それはシャンディのためだ」
「わたしの?」
「シャンディのためだ。シャンディが平和に笑って過ごせるためにだ」
わたしの手を握っているクリス殿下の手がより強く握られる。
「植物園で最後にふたりで会話をしたよね。あの時に俺は初めて自分の気持ちに気づいたんだ。俺はシャンディに惹かれていたことに」
わたしは息を呑む。
そして、クリス殿下に握られた手がより一層、熱を持つ。
「俺はシャンディと初めて出会った夜から、無意識にシャンディに惹かれていたんだ。それに気づいたのが、すべてが終わった時だった。もちろん、あの当時アドニス嬢の心を掴もうと必死になっていたことに偽りはないよ」
それが偽りでないことはわたしもよくわかっている。
「シャンディは俺に「能動的」に発信していかないと伝わらないと言ってくれたよね。あれから俺はその言葉をとても大事にして今日まで生きてきた。だから、俺は以前と違って、自分から様々なことに働きかけるようになったよ」
その熱い眼差しを逸らすことができない。
頷くことしかできない。
「シャンディ、今はまだペイトン殿のことを思って恋に前向きになれないかも知れない。でも、俺のことを見て欲しいんだ。君の瞳に俺を映して欲しい。俺はシャンディに「能動的」にこれから働きかけるよ。覚悟しておいて」
クリス殿下がそれはそれは、とろけそうなほど甘い笑顔をわたしに向けた。
「あ、あの」
言いかけたところで、扉をノックする音がした。
「お嬢様、クリス様。お話し中にすみません」
ソノラが申し訳なさそうに入ってきて、1通の手紙をクリス殿下に大事そうに手渡す。
「…カーディナルからだ」