私の大嫌いな綾部喜八郎 。
私が 、大嫌いだった綾部喜八郎 。
アホ八郎 、一体どこへ行ってしまったのか 。
きっと私のせいだろう_________
いや 、あれは私のせいなんかじゃなくて
ただの….事故に過ぎないのだ 。
きっと 、帰り道の道中に道に迷ってしまい
どこかの民家に住まわせてもらっている 。
…………..違うか??
だから 、私とのあの喧嘩だって
ただの一日の過程に過ぎないのだ…..そうだろう?
あぁ 、そう呼びかけても
もうお前とは二度と会えないような気がしてる
以前の私なら不格好にも飛び跳ねて喜ぶだろうが
なぜか 、今はそれができそうにない 。
それはきっと 、母上を悲しませてしまうから
…….ということにした 。
一昨年の秋の日 、アイツは消えた 。
正確に言えば 、死んだらしい 。
あの日の夜 、喜八郎は親に何も言わず
家を飛び出たらしく 、喜八郎の両親は
あの夜 、血眼になって探していたらしく
勿論 、夜分にこちらにも来たみたいで
母上だって探しに行こうとしたみたいだけど
父上によってそれは叶わなかったそうで 。
私が眠っている間に
そんなことが起きていたなんて知りもしなかった
喜八郎が行方を晦まして 、だいぶ日がたった頃
村中で喜八郎のことが話題になり 、
総出での捜索を行ってはいたものの…
等々その捜索までもが打ち切りになった 。
こんなに探しても見つからないんだ 。
獣の餌食にでもなったか 、はたまた誘拐か
どっちみち 、ヤツはもう……………
この頭脳明晰の平滝夜叉丸にしても
まだ年は十歳の代なのだ 。
ユウカイもサンゾクもまだ理解が難しいのだった
かつて 、綾部喜八郎を毛嫌いしていた私 。
きっと 、アイツがまだここに居たのなら
まだ私はお前を嫌いのままだっただろうに 。
なんとも不運なことだ 。
いつしか 、母上がこんな事を言っていた 。
「滝夜叉丸 、お前が喜八郎に強くあたるのは
間違ってはいないのだよ 。春の時期だからね 、
お前だってどこか捌け口を求めていたんだろうし
不意に強がってしまうんだよね 。」
あぁ 、やはり…母上は母上だ 。
何も変わってなどいない 。
私だけの母上で 、喜八郎の母上では無いのだ 。
ずっと昔 、母上はわかっていたのだ 。
私は実に愚かだ 。なんて思っていると
さらにさらにまた釘を刺す言葉を思い出した
「ただね 、あまり調子に乗っていると
きっと呆れた神様に攫われてしまうわよ」
きっと 、この罰が下ったのだな 。
こんなに苦しい思いなど 、知りたくなかった 。
なんて思いながらも私は今日….
言うなれば今日から六年ほどだろうか 。
その母上と父上から離れて生活をすることになる
そう 、私は有言実行を果たし
無事に忍術学園に入学することが出来たのだ
きっと 、忍術学園に入れば
この思いの真相もわかるだろうし
いずれは喜八郎を忘れることも出来るはずだ 。
そう思い 、切り替えて私は
ギギギと少々古びた伝統ある扉を潜る 。
入ってそうそう 、
目の前には六人の先生方が立っていた 。
いろはと別れる組の中での
各組の教科担当 、実技担当だそうだ 。
そこで 、一番左側に位置する先生方
つまりい組の先生方によって私の部屋が決まった
どうやら 、同室はアヤベというそうだ 。
『……は?』
目上の先生に対して 、少々無礼をしたはずで
慌てて訂正をすれば先生はにこりと笑って
再度話をしてくださった 。
「綾部喜八郎と言うのだ 。
この学園に ‘’ 義理の兄 ‘’ が居てな 、
そいつと二人暮しって言うもんだから
少しの間学園長の元に置いていた子なんだが 、
アイツはどうも感情に起伏がなくてなぁ…………..」
「おまけにいつも穴を掘っては学園長に
叱られていたよ 。まぁ少々手がかかる同室だろう
けど 、これから六年間共にする相手だ 。
きっと 、喜八郎とも上手くいくよ」
そう言って御二方は私を部屋まで案内した 。
道中ずっと考えていた 。
綾部喜八郎 。紛れもない 、
死んだとされたあのバカの名前 。
なんだ 、生きてるじゃないか
そう思うと自然と足が軽くなる感じがした 。
でも 、ひとつ…またひとつと疑問が浮び上がる
はて 、アイツに義理の兄なんか居ただろうか
また 、アイツは感情の起伏がない??
何を馬鹿げたことを 、
アイツはいつもバカすぎるほどうるさかった 。
そもそも 、なぜ …. 生きているのか 。
なんてドクドクと考えていれば
ふと 、ふたつに名札がかけられてる部屋を前に
「 平 」 「 綾部 」と記されているのに気づく 。
えぇい 、男は時に根性 。
意を決して私は戸に手をかけた 。
『失礼する……….』
戸を開いた瞬間 、私は息を飲んだ 。
そう 、目の前にいる綾部喜八郎こそ 。
あの時の喜八郎に違いなかったのだ 。
のだが……..どうも様子がおかしい 。
なぜ 、そんな今にも倒れそうなほど青白く
腕も細く今にも折れてしまいそうで 、
大きくキラキラと輝いていたあの鬱陶しい
あの目でさえ少々伏し目気味であった 。
その分 、吸い込まれてしまいそうなくらい
彼の唇は赤く桃色に染まり 、儚げのある雰囲気を
纏いあの頃の喜八郎とは大違いであった 。
いまの彼は 、まるで朝顔のようだった
『…….き 、はちろうか?』
恐る恐る 、そう問うた 。
すると 、先程まで目線が下にあった目が
バチッと私とかち合って 、また心臓が痛かった
それでも 、いつまで経てど返事は返ってこない
私だって 、無視をされてはいい気はしない
『…..お前 、やっぱり喜八郎なんだな?
黙秘は肯定ととって…..( ( (
「….だったら」
『….??』
久しぶりに聞いた彼の声 、それでも幾分
掠れているような気もしていた 。
「…だったら 、なんだって言うの」
『なっ…久しぶりの再会なのにッ….』
「….僕を嫌いなのに?」
『ッ!!』
「ねぇ 、滝ちゃん 。
僕 、もうあの時の僕じゃないんだよ」
『…??』
『どういぅ…..
「あの時 、綾部喜八郎は死んだの 。」
『!?!?!!』
「だから 、滝ちゃん」
「今から 、絶対に滝ちゃんが僕を
好きになれないような話をしてあげるね」
そう上目遣いに微笑む喜八郎 。
この後起こる出来事への現実逃避も混じりてか
その笑顔は 、とても美しく見えた 。
コメント
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くそっ自分にもっと耐久力があれもっとハート押せたのに!