「夜会?」
久しぶりに仕事の為登城した、午後の休憩中。シルヴィから三日後にエルディー家主催で夜会を開くとの話を聞いた。
「そうなのよ。最近は全然エルディー家では開いてなかったのだけど、父様がそろそろ兄さんや私の結婚相手探しに本腰を入れる! と息巻いててね。本当、困るわ……」
心底嫌そうにシルヴィは言い終えると、まだ熱いであろうお茶を一気に飲み干す。
「熱っ⁉︎」
「大丈夫⁉︎ お、お水っ」
類は友を呼ぶと言うが、こういう時自分と似ているなぁとリディアは思い苦笑した。
「勿論、リディアちゃんも参加してくれるでしょう?」
テーブル越しに両手を力強く握られ、期待に満ちた眼差しを向けらる。全く気乗りはしないが、これは断れないやつだ……。
「う、うん」
「良かった! リディアちゃんなら絶対にそう言ってくれるって思っていたの。絶対兄さんも泣いて喜ぶわ」
何故、自分が参加するだけでリュシアンが泣いて喜ぶのか大袈裟過ぎる……それって一体どういう状態なのだろうか……。
リディアは怪訝そうな顔をするが、余り詮索しない方がいい気がして聞き流した。
「余り気乗りはしないけど、リディアちゃんが来てくれるなら寧ろ愉しみだわ」
嬉々とするシルヴィを見ながら、リディアはお茶請けの菓子を口に入れた。夜会に参加するのはかなり久々だ。婚約する前までは必要最低限それなりに参加はしていたが、元々ああいった場所は得意ではなかった。故にシルヴィから誘われても、断る事もままあった。だが、今回エルディー家主催となると流石に断れない……。リディアは内心ため息を吐き、諦めた。
その夜、リディアは自室のクローゼットと睨めっこしていた。
「リディア様、こちらなど如何ですか?」
ハンナは次から次にドレスを出しては、リディアへ広げて見せる。
「う~ん……」
かれこれ一時は同じ事をしているが、中々決まらない。大切な友人家主催の夜会だ。いつも以上に気合いは入る反面、やはり乗り気はしない。
「へぇ……随分と気合い入れてるね。そんなに、夜会が愉しみなんだ」
「⁉︎」
いつの間にかディオンが扉に背を預け、こちらを見ていた。愉しそうに笑みを浮かべている。その口振りからして、リディアが夜会に行く事は既に知っているのだろう。
「勝手に入らないでよ」
「声は掛けたけど? でも随分と熱心に選んでるからさ。気付かなかったお前が悪い」
(どんな言い分よ……)
ディオンの言葉にハンナを見遣ると、苦笑いをしていた。どうやらハンナは気付いていたらしい……。
「あ、そう。……で何の用? 私忙しいんだけど」
喧嘩してから顔を合わすのは初めてだ。気まずい。だがディオンは何でもない様に振る舞ってくる。それが余計に腹立たしい。気にして悩んでいたのは自分だけの様で物凄く悔しい。
「あ、ちょっと!」
そんな事を考えている間に、ディオンはずかずかと中まで入って来ると徐にクローゼットの中にあった、ある一着のドレスを掴んだ。そしてそれをハンナに強引に手渡す。
「これにしなよ」
ハンナは戸惑いながらも、受け取ったドレスをリディアに広げて見せた。
「……なんで、これ」
リディアは無意識に口元が引き攣る。
(なんて言うか……地味、地味過ぎる。こんな地味なドレスある?……て思う程地味。そもそもこんなドレス持ってたかしら……)
飾りっけもないし、色も薄暗い澱んだ黄土色。別にこのドレスに対して文句はないが、未婚で年頃の娘が夜会に来て行く様な代物では、断じて無い!
「絶対に、い・や・に、決まってるでしょう⁉︎ 流石に、地味すぎるわよ!」
「じゃあ、夜会には参加出来ないね。明日、登城したらシルヴィ嬢に謝っておいで」
にっこりと笑みを浮かべながら、圧をかけて来る。
「なんでディオンの言う事聞かないといけないのよ……」
言葉と裏腹に、段々弱気になる。
「お兄様の言う事聞きたくないなら、それでも構わないよ。……勝手にしなさい」