テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
ゆゆゆゆ
16
ゆゆゆゆ
76
29
事件は昼頃に発生した。
正確には。
スペクターのうっかりミスである。
執務室。
スペクターは山積みの書類と戦っていた。
謎の儀式申請書。
謎の予算報告書。
謎の「館内で帽子を20個紛失しました」報告書。
全部意味が分からない。
「……忙しい」
珍しく本気で忙しい。
一方その頃。
執務室の隅。
ノスフェラトゥが椅子に座っていた。
膝の上には輸血パック。
吸血鬼用おやつ。
問題は。
まだ食べていないことだった。
なぜか。
それは数日前。
スペクターが何気なく言った一言が原因だった。
「勝手に飢えると倒れるからね」
「食べる時はちゃんと確認すること」
それ以来。
ノスフェラトゥは律儀に守っていた。
律儀すぎるほどに。
現在。
輸血パックを握りしめて二時間経過。
ぷるぷる。
震えている。
三時間経過。
ガタガタガタガタ。
震えが激しくなった。
四時間経過。
「……」
目が据わってきた。
五時間経過。
目がバキバキ。
ホスフォラスが見つけた。
「うわ」
怖い。
輸血パックを抱えたまま。
一点を見つめている。
「何してんの」
「……待っている」
「何を」
「許可を」
ホスフォラス沈黙。
理解した。
「まだ食べてないの!?」
「許可されていない」
「いや食べろよ!」
「許可されていない」
「食べろって!」
「許可されていない」
壊れたNPCみたいになっていた。
アズールも来た。
状況を聞いた。
爆笑した。
「いやいやいや!」
「五時間!?」
「許可されていない」
「だから食べろ!」
「許可されていない」
「だめだこいつ!」
ノスフェラトゥは震える手で輸血パックを持ち上げる。
あと数センチ。
口元まで来る。
しかし。
止まる。
「……ッ」
吸いたい。
めちゃくちゃ吸いたい。
でも。
許可がない。
「主様……」
ホスフォラス。
「重症だ」
アズール。
「重症だね」
その頃。
スペクター。
普通に仕事中。
完全に忘れていた。
「……終わらない」
書類。
書類。
書類。
すると。
執務室の扉が開く。
アズール乱入。
「スペクター様」
「ん?」
「ノスフェラトゥ死にそう」
「え?」
数秒後。
スペクターは執務室の隅を見た。
ノスフェラトゥ。
輸血パックを抱えている。
目がバキバキ。
唇が震えている。
今にも倒れそう。
「……何してるの?」
「待っている」
「何を?」
「主様の許可を」
スペクター。
五秒沈黙。
状況を理解した。
そして。
顔を覆った。
「いや食べてよ」
「許可されていない」
「今する」
「本当か」
「本当」
ノスフェラトゥの瞳が輝いた。
スペクターはため息をつく。
そして。
「よし」
シュバッ!!
一瞬だった。
輸血パック消失。
飲み干された。
0.8秒。
館最速記録更新。
ホスフォラス。
「速っ!」
アズール。
「競技だったら優勝してる」
ノスフェラトゥ。
空になったパックを抱きしめながら。
「生き返った……」
スペクター。
「次からは普通に食べなさい」
「了解した」
翌日。
ノスフェラトゥ。
また許可待ちしていた。
誰も学習していなかった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!