テラーノベル
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ここは感情じゃなく、理屈が折れる音を描く。
第六話。
愛知side
愛知は、無駄が嫌いだった。
曖昧な表現。
感覚的な判断。
「たぶん」「なんとなく」
そういう言葉は、工程表から真っ先に削る。
「再現性がない」
それが、口癖だった。
だから今回の件も、
最初は単なる入力ミスだと思った。
公式文書。
都道府県数の再確認。
複数の回答に、ズレがある。
「人為的エラー」
愛知はそう結論づけた。
人は間違える。
数字も、名前も。
だから検証する。
修正する。
それで終わる話だ。
……終わる、はずだった。
愛知は端末を立ち上げ、
過去十年分の公式データを呼び出す。
都道府県数。
47。
問題なし。
次。
二十年前。
47。
三十年前。
……47。
「一貫してる」
当然だ。
だが、愛知は気づいた。
“47”という数字しか存在していない。
内訳がない。
変更履歴がない。
修正ログが、異常に綺麗だ。
「……ログが、ない?」
本来なら、ある。
更新日時。
担当者。
理由。
それが、どこにもない。
最初から、
「47であること」だけが記録されている。
「固定値……?」
嫌な汗が、背中を伝った。
愛知は、別の角度から検証する。
流通。
予算配分。
人員配置。
すべて、47を前提に最適化されている。
なのに。
「……余剰が出てる」
一県分。
使われていない予算。
割り当てられていない人員。
宙に浮いた責任。
「存在しないのに、割り当てられてる……?」
画面を睨む。
数字は嘘をつかない。
嘘をつくのは、解釈だ。
「……いや」
愛知は、息を整えた。
「数字が嘘をつくこともある」
それは、
前提が壊れているときだ。
愛知は、手書きの紙を引っ張り出した。
自分で書く。
自分で数える。
「北海道、青森、岩手……」
途中までは順調だった。
だが、
ある地点で、ペンが止まる。
「……ここ」
確かに存在する。
存在していた。
物流拠点。
工業地帯。
何度もやり取りした。
なのに、名前が書けない。
ペン先が、震える。
「……おかしい」
愛知は、初めて声を荒げた。
「合理的じゃない!」
その瞬間、
背後で、低い音がした。
機械が停止する音。
振り返る。
工場の模型。
ベルトコンベアが、止まっている。
ラインの途中が、
ごっそり抜け落ちている。
「……部品が、ない?」
いや。
正確には。
最初から、存在しない扱いになっている。
「こんなの、成立するわけが……」
声が途切れた。
成立している。
動いていた。
問題なく。
ただし、
欠けたままで。
「……これが、現実か」
そのとき、
愛知の端末に通知が入った。
差出人:不明
件名:合理的判断のお願い
本文。
欠損を
異常と判断しますか
許容と判断しますか
※選択によりシステム挙動が変化します
愛知は、画面を見つめた。
異常。
許容。
合理的なのは、どちらだ。
異常とすれば、
全体が止まる。
許容すれば、
欠けたまま動き続ける。
「……」
愛知は、歯を食いしばった。
この問いに、
正解はない。
あるのは、
犠牲の量だけだ。
指が、動く。
――許容。
送信。
その瞬間、
世界が一拍、静止した。
そして、
何事もなかったように、動き出す。
欠けたまま。
愛知は、椅子に深く座り込んだ。
「……これが、最適解かよ」
その呟きは、
誰にも記録されなかった。
ただ一つ、
愛知の胸に残った感覚だけが真実だった。
合理は、救わない。
ただ、壊れ方を選ばせるだけだ。
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コメント
2件
誰か理解力くださぃぃぃい…