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junp
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「その時のことがフラッシュバックするんです」
「しゅ…しゅんと町に出かけたときに、元カレ…っ、は、浜崎くんと似たような顔の人を何人か見かけたんです」
言葉が途切れ途切れになる。
脳裏に、あの時の光景が鮮明に蘇る。
人ごみの中で、ふと目が合った男性の顔が、一瞬
あの男の顔と重なって見えたのだ。
心臓が跳ね上がり、呼吸が止まる。
「その浜崎という方と似た人に会ったというのは、似ているだけで、本人ではありませんでしたか?」
「か、顔が似てるだけなんです…身長も服装も、髪型も違う。なのにそんな人を3人ぐらい見かけて…幻覚だって思うのに、怖くて、足がすくんで動けなくなって…」
言っているうちに声が震え、最後はほとんど消え入りそうになった。
視界がぼやける。
目の奥が熱くなり、涙が滲む。
膝に置いた拳が、無意識にぎゅっと強張るのが分かる。
爪が手のひらに食い込む痛みで、なんとか現実と繋ぎ止められているような気がした。
先生は、僕の言葉を遮らず、ただ静かに耳を傾けてくれた。
僕が話し終えると、先生はゆっくりとペンを置き
僕の目を見て穏やかに言った。
その声は、僕の心をそっと撫でるようだった。
「宏樹さん、つらい経験を思い出させてしまって、申し訳ありません」
「でも、話してくれてありがとうございます。今お話しいただいた症状は、全てPTSDの典型的なものです」
「幻覚ではなく、フラッシュバックという症状ですね。似たような顔の人を見ただけで、過去のつらい記憶が鮮明に蘇ってしまうんです。脳が危険信号を発している状態と言えます」
先生はそう言って、僕の震える手元に視線を落とした。
敦が僕の手を握りしめる力が、少し強くなった。
その温もりが、僕の心にじんわりと染み渡る。
「宏樹さんの場合、身体的な症状が強く出ているので、まずは睡眠を助け、不安を和らげるお薬を処方しましょう」
「これはあくまで症状を緩和するためのもので、根本的な治療ではありません。並行して、専門のカウンセリングを受けていただくことをお勧めします」
「カウンセリングでは、つらい記憶と向き合い、それを乗り越えるための方法を一緒に探していきます」
僕は黙って頷いた。
薬とカウンセリング。
具体的な治療法が示されたことに、漠然とした不安と同時に、少しだけ光が見えた気がした。
暗闇の中に、小さな灯りが灯ったような感覚だ。
「カウンセリングは、当院の臨床心理士が担当します。まずは週に一度、様子を見ながら進めていきましょう。来週の同じ曜日、同じ時間で予約を取りましょうか?」
先生の問いかけに、はいと頷くと
敦が「お願いします」と答える。
彼の存在が、僕の心の重荷を半分以上引き受けてくれているようだった。
「太齋さん」
先生は穏やかな声で敦に視線を向けた。
敦は、僕の手を握ったまま
先生のほうへ顔を向け、わずかに頷く。
「宏樹さんの治療を進める上で、パートナーである太齋さんの協力は不可欠です。PTSDの症状は、周囲の人から見ると理解しにくい部分も多いかと思います」
先生の言葉に、敦は真剣な表情で耳を傾けている。
「宏樹さんのPTSDは、彼にとって非常に辛い状態です。特に、DVによるトラウマのフラッシュバックや悪夢は、彼が過去の出来事を今も体験しているかのような感覚に陥らせます」
「宏樹さんの心の傷は深く、回復には時間と、何よりも周囲の理解とサポートが不可欠です」
敦は真剣な表情で、先生の言葉に耳を傾けている。
僕も隣で、先生の話に耳を傾けていた。
「太齋さんにも過去にあったDVのことについては断片的には話をしていたようなので大丈夫かと思いますが、今一度、トリガーについて理解してあげてください」
「宏樹さんの場合、元パートナーに似た人を見る、特定の音や匂い、場所などが引き金になる可能性があります」
「そうした状況に遭遇した際、宏樹さんは急に不安になったり、動悸がしたり、その場から逃げ出したくなるかもしれません」
「それは彼の意思ではなく、脳が危険信号を発している状態です。もし宏樹さんがそのような状態になったら、まずは安全な場所へ移動させてあげることを優先してください」
「無理に話を聞き出そうとせず、ただそばにいて、落ち着くまで待ってあげてください」
先生は、僕の震える手元に視線を落とし、再び敦に目を向けた。
「そして、最も大切なのは、宏樹さんの話を、彼が話したい時に、ただ聞いてあげることです」
「無理に『話してみて』と促す必要はありません。彼が話す準備ができた時、あなたはただ、批判せず、評価せず、ただ共感的に耳を傾けてあげてください」
「彼の感情を受け止めることが、何よりも彼の安心に繋がります」
敦は深く頷き、「はい、分かりました」と答えた。
その声には、強い決意が込められているように感じた。
「また、睡眠障害も大きな課題です」
「処方した薬は一時的な助けですが、夜中にうなされたり、目が覚めてしまったときは、優しく声をかけ、安心させてあげてください」