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新人執事 顔合わせ
新たに屋敷で働くことになった3人のための新人研修は、改めて主であるトリコについての情報を整理する良い機会であった。ベリアン達は、ファクトリーAIにトリコについての説明とそのための資料作成を依頼し、執事たち全員で話し合うために会議室を掃除し、インテリアの入れ替えも行った。
ファクトリーAIと直接話すことのできるモニターは普段主の部屋に置かれているが、今回は会議室に運ばれ、そこで説明をすることになっている。
[執事さん達に授業をするなんて・・・!
初めて尽くしで不安ですが、全力で頑張っちゃいましょう!]
気合の入ったファクトリーAIは何日も掛けて情報を整理し、資料を作った。
「いや〜、しかし、主様がこんなおチビさんとはねぇ・・・」
「お、俺、子供の相手なんてしたこと無いです・・・
どうしたら良いですか!?子育ての経験があるんですよね、ハナマルさん!」
「うん、あるにはあるんだけどぉ・・・
こんな特殊な子は初めてだし・・・」
「う〜ん、私も何度かパーティーでお話しただけですから・・・不安です・・・」
一方、新人の3人は新居となる別邸への引っ越しが落ち着いたため、研修の準備が終わるまで主と遊んでいるように言われていた。
先輩の執事たちは子育ての経験があるハナマルがいるので大丈夫だろう、と思っているのだろうが、ハナマルはキノコが生えた子供なんて見たことがないし、主はあまり話せないし、お供のロボットが威嚇してくるし、テディとユーハンは子供と遊んだ経験が無いし・・・とにかく、問題しか無いのだ。
ユーハンは話題を必死に探して独り言を言い続けていて、テディは一定の距離をあけて主の様子を伺っている。
畳の縁をなぞって遊んでいるちいちゃな主に一番に近づかなくてはいけないと悟ったハナマルは、飴玉を持って畳に座った。
「・・・よぉ、おチビさん。ちょっといいか?」
『?』
「飴ちゃんあげるからさ、おじちゃんとちょっとお話しようよ、ね?」
『!いぃよぉ』
トリコが飴に釣られてハナマルに近づこうとした瞬間、ロボがトリコの手を掴んで引き止めた。
ロボは振り返ったトリコに首を振って見せ、ハナマルに殴りかかる。
「うおっ危ねぇっ!」
すんでのところで躱したハナマルはロボに文句をつける。
「ちょっとぉ・・・俺達一応主様と遊ぶのが仕事なんですけどぉ」
〈怒る〉
「・・・う〜ん、何言ってんのか分かんねぇ・・・」
頭を抱えるハナマルにユーハンの冷静な声が飛んでくる。
「さっきの台詞が誘拐犯そのものだったせいじゃないですか?」
〈頷く〉
「ほら、品のない言葉遣いをしているからでしょう。執事としての自覚を持つよう言われたばかりだと言うのに・・・」
ロボに肯定されたユーハンはここぞとばかりに説教を始めた。
「・・・あの、じゃぁ、ちゃんと執事らしくいていれば、主様に近づいていいの?」
テディはロボにユーハンの言ったことが正しいのか確認をした。
ロボは少し考える仕草をして、頷いた。
「そ、そういうことかぁ・・・
俺、頑張ってみるから、主様とお話しても良いかな・・・?」
少し緊張が解けてきたテディはロボに許可をもらって、幼い主にそっと近づいていく。
「あ、あの、俺、テディ・ブラウンといいいます!
えっと、主様のお名前は、トリコ様、でいいんですよね?」
『ぁ、あい・・・』
「え、え〜っと・・・」
張り切って話しかけたものの、話題がない。テディは早速どうしたら良いか分からなくなってしまった。
『・・・てりぃ・・・くましゃ?』
「え?」
トリコはテディの顔を真剣に見つめ、髪の毛に手を突っ込んだ。
『・・・?あれぇ?』
「あぇ、な、何ですか!?」
トリコはテディの髪を掻き分けて何かを探しているようだ。
『・・・ない・・・』
「な、なにがでしょうか!?」
『くましゃ、みみ、ないの・・・?』
「耳?・・・耳ちゃんと付いてますよ、ほら・・・」
耳が無いと言われたテディは、よく分からないまま自身の耳を見せてやる。
『・・・みみ・・・』
「はい、耳です」
『くましゃ、じゃ、ないのぉ?』
「?人間ですけど・・・」
『・・・そっかぁ・・・』
トリコは残念そうにテディから離れ、お揃いの衣装を着たくまのぬいぐるみを抱き上げた。
『くましゃ、おっきくならない・・・?』
どうやらテディという名前から、テディベアが大きくなったら人間のようになると思ったらしい。
くまを揺すったり軽く叩いたりして大きくならないのを確認したトリコは、しょんぼりと座り込んでしまった。
テディがどう声を掛けようか考えていると、ユーハンがトリコの頭を撫で始めた。
『・・・ゆぅは・・・?』
「はい、ユーハンですよ」
トリコはぬいぐるみを放りだし、正座しているユーハンの膝に上半身を乗せるようにして腰に抱きついた。
「あ、あらら・・・どうしましょう・・・」
ユーハンは戸惑いながらもトリコの頭や背中を撫でてあやす。
『・・・くましゃ、おっきくなぁないの?』
震えた声でトリコがそう尋ねる。
「・・・そうですね、大きくならないでしょうね」
『・・・てりぃみたいに、ならないの?』
「・・・はい、残念ですが・・・」
『・・・ぅ、ふえっ・・・』
「!あ、主様!?え、どうすれば・・・」
主に嘘をつけなかったユーハンの回答に、トリコは泣き出してしまった。
ユーハンは自分が主を泣かせてしまったことでパニックになってしまう。
『ぅええぇぇっ、ひっく、ぇええぇぇ・・・』
本格的に泣き出したトリコをハナマルがヒョイッと抱き上げる。
「よしよし・・・主様〜そんなに泣いたらお目々が溶けちゃうぞ〜」
『ふぇ!?』
トリコはハナマルの言葉にびっくりして一瞬で泣き止んだ。
『・・・おめめ、とけちゃうの?』
「ぁ、あ〜、いっぱい泣いたら溶けちゃうかもな〜・・・?」
『・・・』(きゅっ)
トリコは目に力を入れ、涙が落ちないように頑張り始めた。
「んふふ・・・まぁ、そんなに頑張らなくても大丈夫だぞ?」
『でも・・・おめめ、とけちゃう・・・』
「そんなにすぐ溶けないって!1日中泣いてたら危ないかもってくらいだから!」
ハナマルは適当に言った嘘を信じてしまったトリコに必死で大丈夫だと言い聞かせ、ロボとユーハンから放たれる殺気を何とか抑えることができた。
泣き止んだトリコを畳に下ろし、これから何をしようかと考えているとロボとトリコが持っている「オセワッチ」という機械から本邸に来るように連絡が入ったので、ユーハンがトリコを抱っこ係、テディがドア係、ハナマルが荷物係、ロボが案内係になり会議室まで向かった。