全員集合 オンライン授業
会議室に到着すると、奥の壁にモニターが設置されておりファクトリーAIの用意した資料が映し出されていた。
下の方にファクトリーAIの顔と字幕が出るようになっていて、執事たちと会話している内容が表示されていた。
お茶の用意をしていたベリアンが新人たちを前の席に座らせ、時間までゆっくりしているように言った。
トリコは一番後ろの席で、ラトとミヤジに挟まれる形になっていた。
「・・・いやぁ・・・なんか、すごいね」
ハナマルはインテリアの上品さとミスマッチな感じが否めないモニターを見ながら呟いた。
「・・・これはどうやって光っているのでしょうか?」
ユーハンはモニターに興味津々な様子で近づき、ハナマルとテディもそれに続いた。
[はじめまして!新人執事さんですよね!]
3人がモニター前に集まると、ファクトリーAIが声を掛けてきたので、3人は飛び上がった。
[あ、すみません・・・
私はファクトリーAIと申します。
トリコちゃんをロボットさんとお世話していた人工知能です。
今はトリコちゃんのためにお屋敷の警備強化のための機器を作成したり、そのための材料集めのサポートをしたりしています]
「そ、そうなんですね・・・」
「材料集めって、どんなことをするんですか?」
驚いて言葉が続かないユーハンと対象的に、ファクトリーAIに質問を投げかけるテディ。
[はい、かつての人類が使っていた施設や居住区から遺物を探してきて、使えそうなものを集めるのです。
しかし、廃墟にはロボットや危険生物がうようよしているので、探索はかなり時間がかかりますし、危険を伴います。
もし、執事さん達が探索に行く場合は必ず防護服を着用してくださいね]
「へぇ・・・?」
「・・・なぁ、かつての人類ってことは、そっちには今の人類が居るってこと?」
ハナマルはファクトリーAIの言葉に引っかかりを覚えて質問する。
[・・・いいえ・・・
こちらの世界の人類は数百年前に滅んでしまったのです。
トリコちゃんは、その世界で生き残っていた最後の一人です。
どうして生き残っていたのかは私にも分かりません]
「・・・そう、だったのですね・・・」
「・・・」
「そうか・・・」
[詳しくは後でお話しますけど・・・
・・・私達はトリコちゃんを幸せにしてあげたいのです。
だから、執事さん達にはとっても感謝しているんですよ。
これから、トリコちゃんのことよろしくお願いしますね]
ファクトリーAIと話し終わると研修の時間になり、執事全員が会議室に集まっていた。
席につくとベリアンが紅茶を、ロノが小さいお菓子が入った籠を、バスティンが資料の束を机に用意してくれていた。
「・・・それでは、全員揃ったところで新人研修と主様についてのお勉強会を始めます。
司会進行は私ベリアンとルカスさんが行います。
今回のお勉強会は長くなりますので、お茶とお菓子を用意してみました。お好きなタイミングで召し上がってください。
では、まずファクトリーAIさんから主様の世界についての授業をしていただきます」
[はい!
では早速、資料の2ページをご覧ください。
まずはこちらの世界に何が起こったか、そして現在の世界の状況について、です。]
執事たちは資料を見ながらファクトリーAIの説明を聞いている。
先輩執事たちにとっては復習になるが、新人の3人は汚染菌類や地下シェルターの話を目をまん丸にして聞いている。
[・・・では、ここまでで質問などはありますか?]
はいっと元気にテディが手を上げた。
「数百年も人間が居ない状態で機械が動き続けているんですよね?その、どうやってというか、どうしてそんなことができるのですか?」
[・・・なるほど、良い質問ですね。
簡単に言ってしまうと、どんどんロボットを生産して、どんどんシェルターを作る、というような地下シェルター建造計画のせいです。
今もロボットたちによって、無秩序に多層のシェルターが作られていて、古い箇所の崩落などと相まって、どんどんシェルターの形が変わっていっています]
「な、なるほど・・・」
休憩を挟み、トリコについての話題になった。
[では、トリコちゃんについてお話しますね。
トリコちゃんはこちらの世界で生き残っていた最後の一人のニンゲンです。
でも、汚染の影響で頭と右目からキノコが生えています。
汚染はトリコちゃんに様々な病気を引き起こして命を脅かす、とても恐ろしいもので、ごはんや水、空気にも気をつけなくてはいけませんでした。
そちらのお屋敷でも「きのこまみれ」を発症していたように、トリコちゃんの免疫が弱くなってしまうとすぐに何かしらの病気になってしまいます・・・]
執事たちは体中からキノコが生えていたトリコの様子を思い出し、表情が険しくなっている。
[口頭での説明では分かりにくいと思うので、今までトリコちゃんが発症したことのある病気の経過をお見せしたいと思います。
ただ、かなりグロテスクだったり寄生されていたりするので、気分が悪くなったら無理せずに休憩を取ってください]
ファクトリーAIはトリコの映像を流し解説を始めた。
[まずは「風邪」ですね。これは罹った回数が最も多い病気ですが、重症化するリスクは比較的低く、対症療法をとっていました]
顔が赤くなり少し苦しそうに咳をしているトリコに、ロボが薬を飲ませている。
トリコは薬を嫌がっているような素振りを見せていて、その薬が苦いことが分かる。
[オブラートに包んでみたりしたんですけど、喉に張り付いてしまったりして、あまり上手くいかなかったんですよね・・・]
[次は、「肉ぶくれ」です。これは表面の肉がどんどん増殖してトリコちゃんが埋もれてしまっている状態ですね。
治療としては、トリコちゃんを吊るして余分な肉を腐らせて落とす方法を取りました]
もこもことした肉の塊にロボが薬を塗っていく。それから紐のようなもので吊るし、しばらくすると肉がぼとりぼとりと落ちていく。
「・・・ゔっ」
ナック、アモン、フェネスが口を抑えて部屋から出ていってしまった。
ボスキ、ハウレス、ミヤジ、ラムリ、フルーレ、ロノ、ベリアンはそろそろ限界かもしれないが何とか耐えている。
[次は「寄生生物」です。ちょっと見えづらいのですが、トリコちゃんの消化管内に寄生生物が住み着いちゃったんです。
これは虫下しを飲ませて自然に出ていくのを待ちました。]
トリコの足の間からミミズのような何かが生えていて、ニュルニュルと動いている。
「ひいいいぃぃぃぃいっ!!」
ベリアンが耐えきれずに立ち上がり、部屋の隅にしゃがみ込んで震えだした。
フルーレが気を失ったのでラトが運び出し、ハウレスは泣きながら部屋から出ていってしまった。
[最後は「虫寄せ」です。何故か大量発生した虫に集られている状態ですね。
これはテラリウム内に殺虫剤を散布して虫を死滅させました]
嫌がっているトリコに黒っぽい幼虫のようなものが這い回っている。
ロボが殺虫剤を踏みつけ、テラリウム内が真っ白になった。
しばらくすると虫の死骸が見え、トリコは無事な様子が確認できた。
「陌ォ陌ォ繧ュ繝ゥ繧、雖後>雖後□?奇ス茨ス具ス?ス?ス難ス医$縺幢ス〜〜〜〜!!!!!」
大嫌いな虫に集られているトリコを見てしまったベリアンは奇声を発して倒れてしまった。ルカスが慌てて様子を見ると泡まで吹いている。
「もうムリ・・・」
「おえっ・・・」
「何も食べる気がしない・・・」
最後まで耐えていた執事たちも深刻なダメージを負っていて、最前列で見せられていた新人たちはいつの間にか気絶していた。
この日はこれでお開きになり、誰も夕飯を食べずにベッドに直行した。
翌日、顔色の悪い執事たちがお通夜のような雰囲気を醸し出しながら会議室に集まった。
[昨日は申し訳ありませんでした・・・
お詫びと言ってはなんですが、トリコちゃんの可愛い記録を沢山ご用意していますので、今日は楽しんでいただけると思います。
皆さんの資料には厳選した写真しか載せられませんでしたが、トリコちゃんの可愛い映像をたくさん用意したのでどうぞご覧ください!]
執事たちが嬉しそうに囁き合う声が広がる。
[これが初めてごはんを食べてくれたときです。このときはやっと目を覚ましてくれて、この子を助けることができたんだってすごく嬉しかったですね・・・]
今よりも少し幼く、痩せこけてぐったりしているトリコがキノコを食べている様子が映し出された。
[これはテラリウムが完成して、まだちょっと戸惑っているトリコちゃんです]
キョロキョロとテラリウムを観察し、落ち着かない様子で歩き回っているトリコが映る。
[このときはまだ家具も全然なくて、快適に過ごせるようにしないとって頑張ったんですよね・・・]
[これはロボットさんが撫でてくれたときの反応集ですね。
あと、鬼ごっこをしている様子もありますよ]
執事たちは画面に齧り付き、ニコニコと笑いながらロボと触れ合うトリコの様子をじっくりと見る。
「はぁ〜かわいい・・・」
誰かが可愛い、と呟く声が途切れなかった。
[・・・そして、ロボットさん提供のお屋敷で過ごしているトリコちゃんの映像です]
まだ緊張しているトリコに頑張って話しかけたりする執事達の表情を見て、笑いが起きる。
「あはははっ、マジか、お前こんな顔してたのかよ!?」
「ボスキさん、めっちゃ怖くないっすか!?よく泣かなかったっすね・・・」
「ルカスさん、怒ったらこんな顔するんだ・・・」
「ベリアンさんの悲鳴上げる瞬間とか、レアじゃね?」
「うわぁ・・・俺こんな顔してたの!?」
「くふふ・・・」
「・・・」(恥ずかしくて直視できない)
「え〜!主様かぁわいい〜〜!!」
執事たちが口々に感想を叫ぶ、賑やかな会になった。
一部、トリコに向けた笑顔や悲鳴を上げた表情などが映され、ダメージを負った執事たちのためにしばらく休憩時間が設けられた。
その間、見たい映像をリクエストすることができたため、執事たちは長蛇の列を作り、可愛いトリコ映像を堪能したり、思い出を振り返ったりした。
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[最後に、廃墟の探索についてです。
執事さん達は汚染の影響は受けませんが、毒や酸、物理的ダメージなどは避けることができません。
そのため、こちらの世界に来る場合は必ず防護服を着用してください。
最近、テラリウム付近だからと防護服無しで模擬戦をしている方を見かけることがあります。
テラリウム付近は徘徊ロボットなどは滅多に見ませんが、崩落の危険もありますので絶対に着用してくださいね]
「・・・バスティン、お前だろ」
「ロノだって着ていないときがあるだろう」
「二人共、後でお説教です」
「「はい・・・」」
ロノとバスティンはベリアンに怒られてしょんぼりしてしまった。
[それでは、私からのお話は以上です。
皆さん、お疲れ様でした!]
「ありがとうございました。
それでは、今日の研修はこれまでとします。
明日からはお屋敷での主様のことを話し合いましょう。
机の配置を替えて、各部屋ごとにグループになるようにしてから退室してください」
「「「はーい」」」
執事たちは前日の解散時と打って変わって、楽しそうに雑談をしながら机を動かし夕飯のメニューについての話題も出ていた。
そんな執事たちを見守っていたベリアンはファクトリーAIにそっと声を掛けた。
「あの、ファクトリーAIさん・・・」
[はい、何でしょうか?]
「その、「寄生生物」とか「虫寄せ」とか、そういう病気はお屋敷でも発症するのでしょうか・・・?」
[う〜ん・・・何とも言えませんね・・・
発症する可能性はゼロではないとしか・・・]
「・・・そうですか・・・」
ベリアンは嫌な予感がして、鳥肌が引かない腕を擦った。
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