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それから私たちは他愛もない話をした。くだらない話。

こんな風に彼と話をしたのは記憶の中では初めてだった。懐かしさではない、何かが私の中に積もっていくような感覚。

そうしてどのくらいの間話していたのだろう。空はすっかり明るさを無くしていたが、私はそう長くは感じなかった。部活動帰りの生徒たちがまばらに見えるようになっていた。

「じゃ、またな。話せてよかった。」

「うん。また。」

達は自転車のハンドルを握り直し、勢いよくペダルを踏んだ。その背中がたくましかった。1度くらい振り返ることを期待している私がいた。その場で立ち止まって彼の背中を見つめ続けたけれどついに彼が振り返る事は無かった。たくましさの残る背中のまま、彼は見えなくなった。

好きなんだ。

やっと気づいた。何故か分からないけれど、涙がこぼれそうになった。

私は人を好きになったことが1度もなかった。きっと今まで恋愛沙汰に興味がなかったのもそのせいだ。自分の経験なしに他人のことなど分かるはずもない。単純な事、だけれど私にとっては複雑だった。

ふと我に返り、歩き始めようと前を向いた時、後ろから誰かにグイッと肩を掴まれた。

「ねえ。」

声を聞いてハッとした。一気に現実に引きずり込まれたみたいに。

「一花…」

バチン!

鈍い音が生ぬるい春の空気に染み込んだ。

頬がジンと痛む。しかし撫でることすら出来ず、彼女の目を見つめた。

彼女の顔は引きつっていた。

「嘘つき!!」

「嘘…?」

「とぼけないでよ!藤井くんと仲良良くないって…言ってたじゃない!!」

「違う、違うの。これには事情があるの。あのね…」

私は一花の手を取ろうとした。しかし彼女はその手を振り払ってまるで昆虫か何かを見るような目つきで睨んだ。

「ご、ごめん。あのね…」

「もう嘘は聞きたくない。私見てたから。横取り女。」

「横取り…」

なんの事だかさっぱり分からない…訳ではなかった。由紀の声が蘇る。

(「ほかの女の子に取られたくないじゃん?」)

「相談しなきゃ良かった。私、あんたなんかに負けないから。」

そう残して一花は私を後に、スタスタと歩き出した。昼間とはまるで別人のような顔付きだった。しばらく私はそこから動くことも出来ず、立ちすくんだ。

乾いた目が再び潤む。涙でぼやける視界の先には一花が小さく写っている。それもだんだん遠くなって、ついには見えなくなってしまった。

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