魔道車を飛ばしておよそ30分、ついに俺の探知魔法にもドラゴンの存在がはっきりと確認できる距離まで近づくことに成功した。
「オルタナさん!これって…」
どうやらルナもドラゴンの存在を探知できたようだ。存在を確認した瞬間、彼女の身体が少し震えていたのだが大きく深呼吸をすることで彼女は自力でその震えを抑え込んでいた。
「もうすぐドラゴンと対峙する。ルナ、心の準備はいいか?」
「……頑張ります」
大丈夫、と虚勢を張らないということはそれだけ自分自身の気持ちとちゃんと向き合えているということなのだろう。
彼女は強くなろうとしている。
俺は今の彼女からそのことを強く感じた。
「ん…?ドラゴンの反応がこちらに来ている…?」
すると突然、先ほどまで俺たちとは全く違う方向へと進んでいたドラゴンたちの反応がいきなり進行方向をこちらへと変えてきたのだ。
俺たちの気配に気づいたのだとしても、どうしてわざわざこちらに来ようとするんだ?敵対行動をした訳でもないし、たった二人だけの気配にわざわざ反応するなんて…
その時、俺はレガノ村で見た資料の内容とこれまで得た情報が頭の中に流れていく。襲われた村、二度の生息域を出たドラゴンの出現、僅かな人に反応するドラゴンたち。
そこからある一つの仮説が浮かび上がってきた。
「ルナ、しっかり掴まっていろ!」
「は、はいっ!!」
俺はすぐにブレーキを踏み込んで魔道車のスピードを勢いよく減速させた。そしてすぐに真下にある広大な平原へと着陸させる。
「き、急にどうしたんですか?!」
着陸直後、すぐに魔道車から降りた俺を追うようにしてルナも降りて俺に問いかける。俺はルナが降りたのを確認してすぐに魔道車を異空間へと収納する。
「ルナ、奴らをここで迎え撃つぞ。魔法の準備をするんだ」
「わ、分かりました!」
そう告げるとルナはすぐに支援魔法の発動に取り掛かった。二人に数々の魔法を付与し、戦闘態勢が整った直後、遠くの空に何かの集団がこちらへと向かってくる姿が見えてきた。
そのスピードは尋常ではなく、すぐに俺たちの元へとやってきて勢いよく地面に着地した。
5頭分の着地による衝撃で辺り一帯が地震が発生したかの如く大きく揺れ動く。着地の衝撃で周囲の地面はバキバキにひび割れてしまった。
「「「「「ギャオオオオオォォ!!」」」」」
ドラゴンたちの強烈な咆哮が衝撃波のように周囲に伝播する。ルナは堪らず手で耳を抑えて塞ぎ込む。
俺は今の身体では鼓膜などがないため周囲の音量を調節することで対処した。
「おい、お前たちの中に人の言葉を理解できるやつはいるか?」
俺は地上へと降り立ったドラゴンたちに問いかける。これでまともに話を聞いてくれるのであれば話し合い、無理であれば討伐。そういうプランだ。
「グルルルル」
先頭にいるドラゴンが強烈なプレッシャーを放ちながらこちらを覗き込む。並みの冒険者なら一瞬で意識が飛んでいるであろう圧が辺り一帯の空気を重くする。
「お、オルタナ…さん」
ルナは辛うじて意識を保ってはいたがかなり厳しそうな表情で膝をついていた。このままだとルナが危ないと判断し、俺も魔力を開放してドラゴンの圧を中和しつつやつらにプレッシャーをかける。
「グオォッ!」
ドラゴンたちは俺の放った魔力に気圧され少し声を発しながら半歩後ろへと下がる。それでもなお、やつらは俺たちのことを睨み続けていた。
「やはり話せるやつはいないか…」
「…討伐、ですか?」
「ああ、それしかないようだ」
俺は異空間から愛剣を取り出した。
鞘から刀身を抜いてドラゴンたちの方へと向けて構える。
「ルナ、援護を頼むぞ」
「はい!任せてください!!」
俺がルナに話しかけた直後、目の前のドラゴンたちが一斉にこちらへと超高温の火球を放ってきた。俺はすぐさま魔法障壁を展開し、全ての火球を防ぎきる。だが、火球が通った後の地面は黒く焦げて一部マグマ化した状態のところまであった。
するとドラゴンたちが急にうめき声を上げたと思いきやこちらを先ほどよりも強い目つきで睨み始めた。
「攻撃力低下、防御力低下、移動速度低下のデバフ完了です!」
「よくやった」
俺はルナの報告を聞き、一気に攻めに転じる。俺はルナの強化魔法に合わせて魔法でさらに加速し、一瞬にして一番近いドラゴンを剣の間合い内まで接近した。
「ふんっ!」
ドラゴンが反応するよりも先に俺はまず一頭目のドラゴンの頭を跳ね飛ばした。普通の剣ならばドラゴンの強固な鱗に弾かれて傷をつけることすらできない。
だが俺の愛剣は魔力との親和性が段違いの鉱石『オリハルコン』で造られている。オリハルコン製の剣は魔力を流し込むことによって切れ味が変わるという特殊な性質を持っているため、流し込む魔力量によってはドラゴンの鱗すら切断できるほどになるのだ。
「ギャオオオオオ!!!!!」
仲間がやられたことに気づいた他のドラゴンたちが次々と俺の攻撃を仕掛けてくる。強烈な鉤爪や強靭な尻尾、巨大な体躯による突進など一撃一撃が必殺ともいえる威力を誇る攻撃が嵐のように繰り出される。
その巨大な図体とは裏腹に物凄い素早さで俺を追撃してくる。
「グルルァァァ!!!!!」
「これで、2頭目!」
だが奴らの素早さよりも俺の方が余裕で上回っており、全ての攻撃を回避しつくしていた。そうして隙を突いて、2頭目のドラゴンの頭を跳ね飛ばした。
その後も怒り狂ったドラゴンの攻撃を躱し、防御し続けて3頭目4頭目と順調に頭を斬っていった。そして辺りに4頭ものドラゴンの屍が転がったところで最後の個体に向けて通告する。
「さあお前がラストだ。話せるのであれば話し合う最後のチャンスだが、どうする?」
「グルルルル…」
最後に残ったドラゴンはこちらを最大限に警戒しながら出方を伺っていた。どうやらようやく俺たちの間にある力の差を理解したようだ。
やはりまだまだ若いドラゴンなのだろうな。
「グアアアアアアア!!!!!!!!!!!」
すると突然大きな声で叫んだかと思いきや、ドラゴンは尋常じゃないレベルの魔力量を口内の一点に集中し始めた。肌がピりつくほどのエネルギーがドラゴンの元へと集まってきているのを感じる。
「お、オルタナさん!あれは…?!」
「どうやら自身の全魔力と周囲の魔力を圧縮した魔力砲を撃つ気らしい」
「そ、そんなのが放たれたら辺り一帯が消し飛んじゃいますよ!!!」
「ああ、だがここまで魔力が一点に集中した状態のものを下手に刺激すれば暴発して逆に被害が広まるかもしれない」
「それじゃあどうすれば…?!?!」
刻々と膨大な魔力が集まっていくのを見て慌てふためくルナの頭を優しく撫でながら「俺に任せておけ」とたった一言伝えて、ゆっくりとドラゴンに近づいていく。
俺はルナから少し離れた位置で立ち止まると、ドラゴンの方へと右手を伸ばして魔力を解放する。
「多重構造魔法、構築開始!」
オレの右手の先に多数の魔法陣が出現し始める。それらの構造はより複雑になっていき、最終的に何層もの複雑な魔法陣が連なった一つの大きな魔法陣へとなっていた。
「グアアアアアアア!!!!!!!!」
俺の展開した魔法陣が完成した数秒後、ついにドラゴンの超魔力砲がこちらに向かって放たれた。
その威力は凄まじく地面は何十メートルもの深さまで抉られ、空気中を突き進むことで発生する衝撃波で辺りに暴風が吹き荒れる。
そんな攻撃がついに俺の展開した魔法陣に直撃したその瞬間、辺りにはより一層強い衝撃波が広がった。
「きゃああああああ!!!」
物凄い衝撃波による暴風が吹き荒れ、俺の後ろにいるルナは暴風から顔を両腕で守りながら薄目で何とか戦況を見守ろうと頑張っていた。
俺はドラゴンの超魔力砲を魔法で受け止めながらその手応えを実感し、その威力や魔力量が想定範囲内であることに安心する。さて、ここからがこの魔法の真価だ。
すると多重構造となっている魔法陣が光出したかと思ったら、ドラゴンの超魔力砲を直接受け止めている第一層から少しずつ第二層第三層へと超魔力砲の魔力が通過していた。
防御魔法が破られたようにも見えるが、実はいくつもの折り重なった魔法陣によって受けた魔力を少しずつ抽出しながら吸収していくという効果を持っているのだ。つまり相手の攻撃を吸収できる魔力へと分解して無効化し、逆に自分の魔力として吸収するというものである。
だがこの魔法の欠点としては構築に少し時間がかかってしまうという点と、複雑に構築された魔法にはあまり対処できないという点だ。魔力を使って複雑な構築を要した魔法、主に中級以上の魔法はその魔法専用に構築を分析して構築を崩すための魔法構造をさらに追加しないといけない。
そうなると理論上は可能でも実践では使い物にならないのだ。だから逆に今回のような単なる魔力の塊を放つだけのシンプルな攻撃に関しては最大の反撃魔法ともいえる。
という訳でドラゴンから放たれた超魔力砲の魔力を全て抽出し切り、その全てを効率よくこの身体の動力源へと変換していった。攻撃も無力化出来て
全ての魔力を使い切ったドラゴンは息を荒げながら力なくその場に倒れ込む。例えドラゴンといえど、自身の魔力を全て使い切れば立てなくなるほどの消耗具合になる。
それにこの巨体を制御するにも魔力を使っているのでしばらくは翅一つ動かすことは出来ないだろう。
俺はそんなドラゴンにゆっくりと近づいていき、優しくそして力強く剣で命を刈り取った。せめてもの情けで痛みを感じる間もなく討伐する。
「ふぅ、これで討伐は完了だ」
俺は一息つきながら剣を鞘に戻しながらルナの元へと歩いて行く。ルナは辺りの光景を見つめながらあまり実感が湧いてないような感じで呟いた。
「ご、5頭のドラゴンに勝つなんて…」
「何人事みたいに言っているんだ?ルナと俺でドラゴンに勝ったんだ」
「で、でも……いや、そうですね。オルタナさん、私もお役に立てましたか?」
「ああ、勿論だとも」
「お役に立てたのなら良かったです!」
そう言ってルナは満面の笑みを見せてくれた。
どうやらもう心配する必要はなさそうだ。
そうして俺はすぐに辺りに散らばっているドラゴンの死体を収納魔法で保管していく。これで俺たちの出来ることはあと一つだけとなった。
「オルタナさん、生息域を出て暴れ回っていたドラゴンは全て討伐しましたけどこれから同しましょう?原因も分からないままですし…もう一度レガノ村に戻ってみますか?」
「いや、もう原因を直接聞いてみようと思う」
俺がそう伝えると、ルナはまさか…と俺の方を少し怯えた表情で見ていた。
「ルナの想像通り、ドラゴンの生息域に直接乗り込む」
「え、ええええええええええ!!!!!!」
辺りにはルナの困惑した声が響き渡っていった。
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