テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
昔、この国にはひとりの奏者がいたらしい。その奏者は「音の王」と呼ばれる存在を打ち砕き、世界に一時の平穏をもたらした。
「……でもさ、本当に不思議だよな」
子どものころから何度も聞いた話なのに、どうしても腑に落ちない点がある。
普通の物語なら、響き渡る“音”が正義なんじゃないか?
その疑問を彼女に話すと、彼女はコーヒーを混ぜながら苦笑した。
「そういうのは“勝ったほうが正義”に書き換えられるだけよ。あとで偉そうに名乗ったほうが“音の王”にも“正義”にもなるの」
彼女の言う通りだった。
音は強い。強く響くし、世界を揺らすこともできる。
でも、音は続けるのにエネルギーがいる。
一方、静寂は——何もしなくてもそこにある。
部屋の電源を全部落とせば、勝手に静かになるように。
誰も手を加えなくても静寂の支配だ。
「だからね、“音の王”を倒せたのは、静寂のほうが本質的に強いから。
長く続くのは、いつだって音じゃなくて静けさなの」
なるほど、と俺はようやく腑に落ちた。
世界を支配するのは派手な音じゃなく、“何もしなくても続くほう”。
そう思いながら、つけっぱなしだったゲーム機の電源をそっと落とす。
カチッ。
部屋から音が消えた瞬間、この世界の本当の王はどちらなのか、よく分かった。
けれど、同時に退屈と戦うことになった。