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「へっ?」


な、なんで私、藤嗣寺にいるの!?

手を見ると、また鷹也の手になっていて、どんぐり飴の瓶を持っていた。

そして口の中には多分マスカット味のどんぐり飴が。


「信じられない……鷹也がここでどんぐり飴を食べたってこと?」


そんな偶然ってあるの?

最近馴染みのあるこの藤嗣寺に、鷹也が来てどんぐり飴を食べる?


ハッ! それどころじゃない。

私、今公園でひなを待ってたのに!

今日はゴールデンウィーク初日で、大輝からお誘いがあったのだ。

お付き合いしている千鶴ちゃんと二人で、ひなを天王寺動物園へ連れて行ってくれると。

その間、私は自分の時間が持てるから、二つ返事でお願いすることにした。

朝、動物園までひなを送り届け、それから美容室へ行った。

ひなを産む前はずっと腰まであるロングヘアだったが、出産を機にバッサリ切る事にした。

でもロングヘアの時はあまり思わなかったのに、ショートは保つことが難しい。少し伸ばすつもりで、今日は毛先だけ揃えてもらった。

美容室の後は私とひなの服を見たりして、ショッピングを楽しんだ。


そして今まさに動物園の前の公園でひなが出てくるのを待っていたところ……だったのに、私は鷹也になってしまって藤嗣寺にいる。

ということは、今あっちでひなを待っているのは、私の姿かたちをした鷹也だ。


どうしよう!

鷹也がひなに変な態度をとったら?

ママが変になったとひなが思ったら?


鷹也のやつ、なんでどんぐり飴なんか食べたのよ!

過去2回とも入れ替わりの時にどんぐり飴を食べていたのに、これが怪しいって気づかなかったのかしら!

ダメだ。よし、こうなったら――。


私は立ち上がり、パタパタと体を探り、ジャケットの右ポケットからスマホを取り出した。

鷹也と話さなきゃ!

自分の携帯番号を入力する。

すると、5回のコールの後、私が出た。


「そこ、動かないでよ!」


私は久しぶりに話す鷹也に厳命し、地下鉄の階段を駆け下りた。

頭の中は元いた場所へ戻ることしか考えていなかった。

……冷静になって考えてみれば、私が(鷹也が)行く必要はなかったのだ。

今までの入れ替わりはだいたい10分前後で元に戻っていたのだから。

でも気が動転していた私は、ひなの傍へ駆けつけることしか頭になかった。


地下鉄に飛び乗ったあと、口の中のどんぐり飴の存在を思い出した。


(鷹也は何故あんな場所でどんぐり飴を食べていたの……?)


しかもお参りをしているわけでなく、ブランコに座っていた。

いい大人が、境内にあるあの一つしかないブランコに座るのはかなり敷居が高い。

長岡さんと一緒に子供たちを見ていた私でさえ、あのブランコに座るのは気が引けた。

あそこは寺の人の許可を得て、子供だけが座れる特別な場所のような気がしたからだ。

それに、今日は1の付く日ではない。

屋台も出ていなかったのに、何故どんぐり飴を持っていたのだろう……。


そんなことを考えていたら、あっという間に公園の最寄り駅に着いた。

ひなはもう動物園から出てきただろうか。


地下鉄の階段を駆け上がり、さっきまでいた場所へ走って行く。


いた!

ひなが私に抱きついてる!?


「ひな!」


思わず声を出してしまった。


◇ ◇ ◇


「ひな!」


ひなを呼ぶ俺の声が聞こえた。

声の方向を見ると、息を切らしながら走ってきた俺がいる。


足元に抱きついてたひなが、俺を見た。


「……だれ? ママ、あのおじちゃん、ひなのことよんだ?」

「い、や……呼んだかな?」

「杏子、あいつ誰だ?」

「……」


杏子、どう収拾するんだよ!

旦那が不審に思っているぞ!

それに、なぜまだ入れ替わりが解けない?

普通、飴が小さくなったら噛むだろう!

そこへ新たな声が――。


「おまたせー! レジが混んでいて遅くなっちゃった」


振り返ると、そこに俺の妹の千鶴がいた。


「ち、千鶴!? どうしてお前が――」

「え? 杏子ちゃん……? どうしたの?」

「あ、いやっ……」

マズイ。今の俺は杏子だった。

でもなぜ千鶴がここに……?

さっきのちーちゃんって、千鶴の事だったのか?

「ちーちゃんそれなに?」

「あっ、はい。これひなちゃんに」

「あー! ホウちゃんだ! これ、ひなの?」

「うん。だだからプレゼントなんだって」

「わー! だだ、ありがとうー!」

「あ、ああ……ホッキョクグマ可愛かったな。ひなとママみたいだったな……」


ひながシロクマと思われる小さなぬいぐるみを抱きしめてスリスリしている。


「可愛い……」


ハッ……!

スリスリしているひなが可愛いくて思わず呟いてしまった。


旦那は相変わらず、走ってきた俺の事を睨んでいる。かなり不審に思っているようだ。

旦那の視線の先が気になったのだろう。千鶴が俺(杏子)の存在に気づいた。

「お兄ちゃん!! どうしてお兄ちゃんがここにいるの……?」

「お、お兄ちゃん?」

「……? ちーちゃんのおにいちゃん?」


入れ替わりだけでもどう収拾するかと思っていたところに、なぜ千鶴まで。

なぜ旦那と千鶴がひなと動物園に?

……カオスだ。


――――――そう思った瞬間、意識が霞んだ。


◇ ◇ ◇


ああ……私ったら、なんでわざわざここまで来ちゃったのかしら。

10分すれば元に戻るのに、ひなが心配でここまで来てしまった。

しかも「ひな!」って呼んじゃった。

ひなも大輝も不審に思っているわ。

どうしよう……。と思っていたら、千鶴ちゃんが動物園の方から走ってきた。

そして私を見て「お兄ちゃん!」って……。

どういうこと? 千鶴ちゃんは鷹也の妹だったの!?

そう言えば、千鶴ちゃんの名字聞いてなかったかも。


カオスなんですけど……。

――――――そう思った瞬間、意識が霞んだ。

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