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次の瞬間、私は鷹也を見ていた。
「あ」
「あ」
鷹也も元の体に戻ったことがわかったのだろう。
私たちはお互い目を合わせ、小さくホッとため息を吐いた。
しかし状況は良くない。
良くないどころか、自らこのカオスを招いてしまったような気がする。
「千鶴……あの人は千鶴のお兄さんなのか?」
「あ、うん! ちょっとお兄ちゃんこっちに来て!」
千鶴ちゃんが少し離れた位置にいた鷹也を呼びつけた。
どうしよう。本当にまずい。
背中をダラダラと汗が伝う。
「私の兄の森勢鷹也です」
「お兄さん……? 奥田大輝と言います。千鶴さんの同僚で、お付き合いさせていただいています」
「へ?」
そこで鷹也が私を見た。
やはり鷹也は大輝のことを私の夫だと思っていたのだろう。
顔には「どういうことだ?」と書かれている。
私の顔をたらりと汗が伝う。
「お兄さん、さっき姪のことを『ひな』って呼びましたよね? ひなをご存じなんですか?」
「えぇっ……姪⁉」
ああ、もうこれ完全に疑っているな。
大輝は昔から聡い子で、1を聞けば10を知るような子だった。
「お兄さんって、ずっと留学されていたんですよね?」
「あ、ああ……アメリカに4年いて、帰国したところだ」
「4年……」
「大輝? どうしたの……?」
千鶴ちゃんが困惑している。
そんな彼女を無視して、大輝が私を見た。
「杏子、お兄さんと知り合い……だよな?」
…………はぁ。バレたな。
「あー……えっと……高校と大学の同級生……」
「えぇっ? お兄ちゃんと杏子ちゃん、同級生だったの?」
「お兄さん、ただの同級生なんですか?」
「い、や…………も、元カレです……」
大輝の圧に鷹也がタジタジになっている。
いつもは俺様な鷹也だけど、たしかに今の大輝はかなり怖い。
例えるなら閻魔様のような……。鷹也は完全に負けている。
「えぇっ⁉ お兄ちゃんが元カレ⁉」
「ママ? もとかれってなにー?」
ひなが「だっこだっこ」と手を上げながら私に聞いてくる。
その姿の全てが可愛いのだけれど、ママにはどう答えたらいいのやら……。
「あっ! ち、千鶴の彼氏の従姉ってたしかシングルマザー……」
「お、お兄ちゃん!? 何言ってるの……!」
千鶴ちゃんが慌てて鷹也の口を塞ごうとしている。
兄妹で私の話をしていたの?
「じゃあ、杏子が……?」
絶体絶命の大ピンチって、こういうことかな。
「ハハハ……」
もう笑うしかない。
「杏子、笑い事じゃないぞ。ここで説明しろとは言わないが」
チラッとひなを見て大輝が言う。
「……後でちゃんと聞かせてもらうから」
ひぃぃ……。