テラーノベル
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「今日はこれを着ろ」
ナチスが差し出した服は、動きやすく、日帝の好みの服だ。
実用的で、合理的だ。拒否する理由はもうない。
日帝は一瞬考え、受け取った。
「お前の好みか?」
「俺なりの“最適解”だ」
ナチスは穏やかに満足そうに言う。
「お前は、余計な自己主張をしない方が美しい」
日帝はその言葉を訂正しなかった。いや、もう訂正できなかった。
反論は感情を伴う。今の環境では、最もコストが高い行為だった。
逃げるのに失敗したあの日から削られたのは、日帝の「選択肢」だった。
「それは考えなくていい」
「それは俺が判断する」
「お前が悩む必要はない」
ナチスは命令形を使わない。
すべて提案の形で、すべてが“日帝のため”だった。
結果、日帝は気づいてしまった。
――考えない方が、楽だ。
失敗しない。怒られない。消耗しない。
ナチスの理想に沿っていれば、すべてがスムーズに流れる。
「……最近、静かだな」
ある日、ナチスがそう言った。
日帝は本を閉じ、視線を上げる。
「必要なことは、お前が全部言ってくれるから」
それは事実だった。まぎれもない事実。
ナチスの目が、ゆっくりと細まる。まるで作品が完成しそうなときのような嬉しさを感じている
食事の量、睡眠時間、喋り方。
ナチスは少しずつ、日帝が気づかないぐらい少しずつ調整していく。
「その喋り方、落ち着いてていいな」
「今の間、ちょうどいい」
「その表情、俺は好きだ」
好き、という単語だけが、異様に私的だった。
日帝はナチスの理想に近づけるよう努力している。
――ナチスが見ている。
それだけで十分だった。
「……私は、ナチの理想に近づいてるか?」
ある夜、日帝がそう尋ねた。
確認だ。
ナチスは少し驚いたように目を見開き、それから、深く、満足そうに息を吐いた。
「ああ」
即答。
「ほぼ完成だ」
ナチスは日帝の前に膝をつき、視線を合わせる。
「無理をしない。
自己犠牲を美徳にしない。
俺の許可なしに、危険に近づかない」
ナチスの手が日帝の顔に触れる。
「そして、俺の前では嘘をつかない」
日帝は逃げなかった。
考えもしなかった。
「……それが、ナチの理想?」
「そうだ」
ナチスは微笑む。
「俺だけを基準にして生きる日帝」
それは完成形だった。
自由を失い、選択を失い、
それでも以前より安定して、静かで、美しい。
日帝はゆっくりと目を閉じる。
「ナチは今の私が好きか?」
「あぁ、前よりもずっと」
ナチの声は優しかった。
「これからもこのままでいてくれよ?」
日帝はもう、抵抗しない。
ナチスの理想に合わせて削られ、整えられ、
**“ナチスにとって最も素晴らしい日帝”**として、完成しつつあった。
そしてナチスの理想になろうとしている日帝はナチスに依存し始めていることに気づいていなかった。
コメント
2件
え……😍😍 最高👍