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『これが彼女の裏アカです。いやあ、怖いですね。こんな真面目な女子高生が、パパ活している世の中なんですから』 音霧さんを挑発するように、そんな言葉を放つ主催者。それを聞いたからか、教室には張り上げた声が響く。
「違う! こんなの知らない! 大体、これが私とは限らないじゃない!」
スマホに向けた視線を俺達の方にやり、睨み付けてくる。顔面は紅潮し、はぁはぁと息を切らせていた。
「……確かに、この内容だけでは言い切れない。これを証拠とするなら、密告した者勝ちになる! 主催者はそんな抜けのあるゲームをして良いのですか?」
取り乱した音霧さんの両肩を、北条くんは宥めるようにトントンと叩く。その表情も声も、穏やかで。冷静に、ゲームの穴を指摘していた。
確かに。こんなのが罷り通ってしまったら、何でもありになってしまう。だから、こんなのは証拠としてならな──。
『勿論、これだけのことで暴露なんてしません。本命はこちらです』
抑えきれない嬉々とした声に、内蔵より競り上がってくるものを抑える。
口元を手の平で覆い、不本意ながらに覗いたスマホ。そこに映し出されたのは、先程と同じSNSのスクショだった。
『今日は、えみちゃん。清楚系JK』
その投稿文と共に添付された画像には、音霧さんからは想像もつかない露わな姿があった。
スマホを机に置いたような、ガタッとした音があちこちで響く。それは俺も同様で、何をしているか分かる。
スマホを反対向けて、見ないようにしているのだろう。
『おやおや、すみません。未成年の皆さんには刺激が強すぎましたね。抜けがあるゲームと指摘されて、ムキになってしまいました。まあ加工だと言われたらそこまでですが、事実無根なら本人が理論的に否定するでしょう? 頭の良い、秀才なんですから」
顔を上げれば、両腕を使い体のラインを隠す音霧さんの姿。
もしかして、この画像のこと知らなかったのか? 盗撮なのか?
言葉を失い、俯くその姿に。音霧さんの友達や、さすがの凛も、どう声をかけて良いのか分からないようだった。
「……爽太、お願い助けて! 私がパパ活していたのは……!」
「いいよ」
北条くんは変わらない。スマホをポケットに入れ、柔らかな笑顔を浮かべ。しがみついてきた音霧さんを、大きな手で優しく支えていた。
「ありがとう。本当に……」
「手、出して」
北条くんは音霧さんからそっと離れて、跪き。その白くて細い手指を手に取る。そして同じく細長い指を伸ばし、ドクロの指輪に手をかける。
絵になる二人に、ゴツイ指輪は全くの不相応。彼女を愛し、寛大な心で許した北条くんの手により、それは今外されようとしている。
『だから、待ってくださいって。暴露は二つと言いましたよ?』
ククッと笑う声は、どこまでも冷酷で。どこまでも俺達を狂わせていく。
「……え? 今、二つ出しましたよね?」
先程までの落ち着きはなくなり、ポケットから取り出したスマホに呼びかけている北条くんの声は震えていた。
どうやら、何か知られたくない秘密があるようだ。
『いえ、証拠品ではなく暴露が二つと言いました。お願いですから、主催者の話を聞いてくださいよ。もう一つは北条爽太さん。あなたの暴露ですよ?』
そう宣告された北条くんは、ピクピクと眉を動かす。
「……やめてくれないか?」
『無理です』
「勘弁してくれ! 頼む!」
スマホを地面に叩き落とす勢いで置き、両手両膝を床に付ける。頭さえも床に擦り付け、スマホに土下座している状態。
それは明らかに異様な光景で、空調が効いた教室内がより冷えていった。
「爽太。私、平気だよ」
張り付いた空気を解き放ってくれたのは、音霧さんだった。
「紗栄子?」
「だって、私の過ちを許してくれたんだもの。何を聞いても、私は受け入れるから」
ガタガタと震わせる北条くんの手を、そっと握る音霧さん。その表情はどこか清々しくて、何かを吹っ切ったようで。そんな二人を、眩しすぎる太陽が照らしてくれているみたいだった。
「……あ、うん」
しかしどこまでも歯切れが悪い北条くんは、引き攣った表情をただ見せていた。
よほどのことなのか?
視界がぐらついたような気がした俺は、二人から目を逸らす。ドクンドクンと嫌な音を鳴らす心臓。それを抑えようと大きく深呼吸をした。
だけど訪れる、崩壊の時。それは一瞬だった。
『北条爽太は音霧紗栄子のパパ活を知っており、金を受け取っていた』
「……え?」
あまりにも突拍子もない暴露に、教室に居た全員が息を呑んだように静まり返る。
二人を見ていられなかった俺は、両隣に座る小春と凛に順番に目を向ける。
小春は顔を歪めており、莉奈にいたっては鋭い眼差しで北条くんを睨み付けている。どちらにも共通するのは、同じ女として許せないという不快感だろう。
「いや、待ってくれよ! 彼女のパパ活止めない彼氏なんて、いるわけないだろ!」
いつもなら賛同が湧く北条くんの言葉に、同調する者はいない。両隣の圧に、俺はただ俯くことしか出来なかった。