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夏目萌*優しい彼~コミカライズ
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西原衣都
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猫塚ルイ

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うわあ、これは…。希海くんが幼稚園で「なんでママがいないの」って聞かれたシーン、胸がギュッと締め付けられました。子どもなりに感じてしまうその問い、乙哉さんの優しいけどどこか曖昧な答え方も気になる…。そして最後の「血縁関係はありません」が衝撃的すぎます。羽衣子さんの気持ちに気づきながらも抑えようとする姿も不器用で切ない。次が気になりすぎます…!
扉が閉まる音が聞こえた瞬間、羽衣子は勢いよく目を開けた。
「…………」
異性に抱き上げられ、運ばれるという経験をこれまで一度もしたことが無かった羽衣子にとって、先程の出来事を思い返しただけで顔が熱くなる。
ただでさえ昴は少しの変化にもすぐ気付き、無理をすれば心配して自然に気遣ってくれる。
そんな優しさに触れるたび、胸の奥が落ち着かなくなっていた。
(……駄目)
そう思いながら、ぎゅっと布団を握り締めた。
羽衣子は気付いていた。
自分が昴に惹かれていることに。
けれど、彼には希海がいて、そして今はどうしているのか分からないけれど、奥さんがいるはずなのだ。
それを思うと胸の奥が複雑にざわついていく。
それに、自分はあくまで借金の代わりに雇われている家政婦兼シッター。
それ以上でも、それ以下でもない。
だからこそ、この気持ちは抑えるべき――そう自分へ言い聞かせながら羽衣子は熱を持った頬を隠すように布団へ顔を埋めるのだった。
自分の気持ちに気付いてしまってからというもの、羽衣子は以前よりも昴を意識してしまうようになっていた。
目が合うだけで鼓動が跳ね、近くに来られるだけで落ち着かなくなって、少し優しくされただけで胸の奥が熱くなる。
そんな自分を悟られないよう、羽衣子は必死に平静を装っていた。
普段なら些細な変化にもすぐ気付く昴は、そんな羽衣子の様子には気付いていないようで、羽衣子の中でどこか複雑な感情が残り続けていた。
そんなある日のこと、いつものように乙哉と一緒に希海を幼稚園へ迎えに行った帰り道。
車内には希海の楽しそうな声が響いていた。
「きょうね、ブロックでおしろつくったの!」
「へえ、すごいな」
「あとね、おえかきして、パパとういちゃんとおとくんかいた!」
「そうなの? 後で見せて欲しいな」
羽衣子が笑顔でそう返すと、希海は嬉しそうに「うん!」と頷いた。
終始ご機嫌だった希海だったが、不意にその声が途切れ、そして、小さな声でぽつりと呟いた。
「……ぼくのママ、どこ?」
「……え?」
突然の問いに、羽衣子は思わず目を見開く。
それと同時に乙哉も僅かに表情を変えた。
「どうしたの、急に」
「おえかきしたとき、たかしくんが、“なんでのぞみくんのえにはママがいないの”って……」
きっと、その“たかしくん”という子に悪気はなかったのだろう。
ただ純粋に、不思議に思って尋ねただけ。
けれど、その何気ない一言は、幼い希海の胸に引っ掛かったのだ。
すると、乙哉が静かに口を開いた。
「希海、パパから聞いてるよな?」
バックミラー越しに希海を見ながら、穏やかな声で続けていく。
「ママは空から希海を見守ってるって」
「……うん、きいたけど、おそらのどこにいるの?」
「それは俺にも分からねぇんだよ」
苦笑混じりにそう言ってから、乙哉は優しく言葉を重ねた。
「でも、会えなくても希海のことはいつも見守ってくれてる。分かるだろ?」
「……うん」
理解しているかは分からないが、希海は小さく頷いた。
そのやり取りを聞きながら、羽衣子の胸は妙にざわついていた。
今の言い方では、まるで希海の母親が既に亡くなっているようにも聞こえる。
けれど、どこか曖昧だった。
本当に亡くなっているのか、それとも別の理由で会えないだけなのか判断がつかなかった。
その後、希海が母親について聞くことはなく、車はマンションへ到着した。
そしていつも通り部屋の前まで送った乙哉が、不意に羽衣子を呼び止める。
「羽衣子ちゃん」
「……はい」
「羽衣子ちゃんはまだ、昴さんから希海の母親について、聞いてないんだよね?」
「はい……」
「もしかしたら、また希海が母親のこと聞いてくるかもしれない」
「…………」
「その時は、さっき俺が言ったみたいに答えておいて」
「……分かりました」
それだけ告げると、乙哉は「じゃあまた」と軽く手を上げ、そのまま帰っていった。
羽衣子は曖昧に頷いたものの、胸の中のもやもやは消えなかった。
その夜、仕事で帰りが遅くなった昴の為に夕食を温め直しながら、羽衣子は今日あった出来事を話した。
幼稚園でのこと。
希海が母親について尋ねてきたこと。
そして、乙哉が答えた内容を。
「……そうですか」
全てを聞いた昴は静かにそう返したけれど、それ以上は何も言わず、どこか考え込むように視線を落とすとその話題はそこで終わってしまった。
昴が食事を終え、後片付けを済ませた羽衣子が自室へ戻ろうとした、その時だった。
「……吾妻さん」
「はい?」
昴はソファーに腰掛けたまま羽衣子を呼び止め、真っ直ぐに彼女を見つめている。
その表情はいつになく真剣で、まるで何かを覚悟したようにも見える。
「話しておきたいことがあります」
その言葉に羽衣子は自然と背筋を伸ばした。
「……はい」
「こちらへ」
促されるまま向かい側へ腰を下ろすと、昴は数秒ほど沈黙した後に、静かに口を開く。
「今日のことを踏まえると、貴方には話しておいた方がいいと思ったので、何故、私がシングルになったのか――それについて順を追ってお話しします」
「…………」
「…………まず初めに――私と希海の間に、血縁関係はありません」
「え……?」
そして、昴が最初に告げたのは羽衣子が予想もしていない事実だった。