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「これ、配達完了時間16時30分ってなってるけど。立花、いつもは昼以降の配達分でも、受け取るのもう少し早くない?」
「……え?」
「入力のタイムラグにしちゃ、数時間だもんなぁ」
坪井に差し出されたFAXを見ると、確かに配達完了の時刻は彼が言ったものになっている。
「えっと、う、うん……。そうだね、お昼からも荷物があれば、いつも2時頃までには。ただ今日は11時頃に持ってきてくれた分だけ、だったと思うけど」
真衣香が答えると、顎に手をやり何度か軽く頷いた。
「うーん。うんうん了解、わかった。ちなみに立花、今、印鑑持ってるの?」
突然話が飛んだので驚きながらも、いつも印鑑を入れているベストのポケットの中を探った。
「持ってるよ……って、あれ? な、ない、上に置いてきたのかな、見に行って……」
階段の方を振り返ろうとした真衣香の動きを、手首を掴んで、やんわり阻止する。
「あ、いいよいいよ、必要になればで」
「え? わ、わかった」
『必要になればで』の意味が真衣香にはわからず、曖昧に返事をしてしまう。
その様子を眺める川口は、床をダン!と踏みつけながら再び声を荒げた。
「おい!お前自分の仕事じゃねーからって随分余裕だよなぁ? 部長に目かけてもらってるからって調子乗りやがって」
「いやいや、乗ってませんよ。余裕があるわけでもなくて、とりあえず疑わしい順に追ってくしかないでしょ」
「だからなぁ!疑ってんだろが!お前が後ろに隠してる女!」
鋭い視線に、自然と指先が震える。
誤魔化すように、制服のスカートの裾を思い切り掴んだ。
すると。
「ちょっと、なになに、川口さん何怒鳴ってるの?」
「も〜、冬の倉庫とか寒くて最悪なのに。怒鳴り声まで聞こえて更に最悪なんですけど」
フロアの奥から小野原と森野が顔を出した。
見知った人物たちの、続々の登場に。真衣香は少しだけ力が抜けていくのがわかった。
一方、坪井は特に小野原たちの登場には反応を見せず、川口に視線を向けたままだ。
「ねえ、川口さん。怒鳴ってるだけじゃ解決しないですって。さっき聞こえてきてましたけど、立花受け取ってないって言ってるんですよね? 川口さん宛の荷物を」
坪井の問いに、舌打ちをしながらダルそうに答える。
「ああ。でも覚えてないだけだろ、他は揃ってんのによ」
「いや、それはないですよ。繁忙期の荷物が多いのも、伝票に個人名が記載された荷物の中身が、大事なものだっていうのも。立花は知ってますよ。適当に扱いませんから」
続けて「とりあえず大前提それなんで。疑わしいとこから潰しましょう」と。
やけに自身たっぷり言い切った坪井。
スマホを取り出し真衣香の方を向いて、目線を合わせる為なのか。少し屈んだ。
「立花、あっちにぶら下がってるのって、うちに集配来てくれてるドライバーの番号?」
坪井が指したのは、ハイカウンターの内側に吊るしてあるラミネートされたA4の用紙だ。
「う、うん……。このあたり担当してる人の携帯で、日曜と月曜以外はいつも大体同じ人につながるよ」
「おっけー、ありがと」
真衣香に短く礼を言いながら坪井はスマホをタップし、電話をかけ始めた。
小野原がその様子を心配そうに眺めて「ごめんね、大丈夫だった?ちょっと去年の伝票確認したくて……探しに倉庫行ってたの」と。真衣香の元に近付いて、川口から遠ざけるように肩に触れる。
ふるふると首を横に振りながら応えて。
ハイカウンターに肘をつき、にこやかに通話を始めた坪井を、訳がわからないまま見つめた。