なんとなく差を感じた…乱数も成長してると実感して、子を持った親みたいな……そんな嬉しさがあったようで、寂しさもあった。
僕……舞城華灯は久しぶりに会った友達のことを考えている。まさかあそこまで人気者になるとは思っても見なかった。それはとても喜ばしいことのはず、だが何か胸にチクッと刺さる感覚が乱数を見て止まらなくなった。
そして乱数と会って言ってはダメなこと……というより言わない方が良かったのではないかと思ったことを小さな声で発してしまった。
(後悔しかなーい───!)
『何が”なーんだ、もう僕いらないじゃん”だよ!万が一に乱数が聞こえてたらどーすんの!心配かけちゃうじゃん!!』
彼に心配だけはかけたくなかった。せっかく”オリジナル”になれたのだから。
(あの笑った顔、すごく良かったな)
第二回DRB優勝時、その顔はやってやったぞと言わんばかりに笑ってF.Pの2人を見てくしゃっとはにかんだ。本当にあの笑顔が忘れられない、とても可愛くて、どこか男らしくて。
作り笑いなんかと全然違う。とても好きだ。
逆にそれに嫉妬してしまう僕が、どこかそこにいる。でも懐かしい話とかしてあんなに楽しかったのに、どこに嫉妬するというのだろうか?
(今日は行かないって決心したじゃん!!)
今すぐにでもホテルから出て乱数の事務所に行きたくなる。またあの笑顔を見たい、服を作ってる時の真剣な顔が見たい、昨日のことを聞いたりしてないかとか、考えれば考えるほど気になってしまう。
だがあの3人の邪魔をしてはダメと決意したのは僕なのだ、ならばその決意通り大人しくしているのが筋なんじゃないか?なんて考えても何も出来ない……すぐにこの時間が過ぎて帰らなければいけない時が来る。
なら後悔しないように、いやもう後悔しているのだが……悔いのなくするため乱数の事務所に行こうか?なんて決意を無駄にする考えをしてまた頭を抱える。
あと嫉妬してしまう僕がいたようだが、何に対しての嫉妬なのだろう、何に対して差を感じたのだろう。そんな不思議な考えで疲れてまたホテルのベッドに倒れ込む。
SNSのタイムラインを見ればどーでもいいことや美味しそうなご飯、好きなものへの愛、なんてものがいつも通り出てくる。
(ブランド用のアカウントなのになぁ)
なんとなくだけど自分自身で作り上げた唯一無二の作品、それを誰かが評価する。それが嬉しい時もあれば苦しい時もあった。
何気に乱数の名前を入れてSNSを見ると明らかに盗撮のものの写真を載せながらどこどこに居た〜とか単純に乱数への愛とか……そんなあからさまに乱数が”人気者です”感が溢れかえるような、実際人気者だけど…でも少しだけ羨ましかった。色んな人に評価されていて、それと同じくファンに思った。
(乱数の何を知ってんだろ……)
彼の低い声は知っているのか?彼の本当の眼差しを知っているのか?彼の本心を知っているのか?彼の昔は知っているのか?
昔はあんな風ではなかったと、知っているのか?なんて独占的なことが頭に過り我ながら鳥肌が立った。
『何考えてんだ、僕…………』
自分だけがそれを知っているかのような衝動に駆られ優越感に浸る。それと同時に自分が何を考えているかを思い出し正気に戻った。
訳が分からない……そんな気持ちと自分が少し気持ち悪かったように感じてモヤモヤが収まらない。
本当に何に対しての嫉妬だろうか……その思いを確かめたくてFlingPosseの写真に目をやった。
『うっ』
その画像を見た瞬間思いもよらぬほど胸が痛くなったように感じた。
嫉妬の原因……それはFlingPosseの2人、夢野幻太郎と有栖川帝統だろう。
誰よりも乱数を知っていたつもりでもその2人に乱数の両隣を奪われてしまった。
『乱数があの2人を信用できるから仲間なんだ……そうだよ』
独り言で納得しようにもやはり嫉妬してしまう僕がどこかそこにいる。そんな黒い感情でまみれた僕が乱数に会いに行っていいわけが無い……なら収まるまでの辛抱だ、と心の中で二度目の決心をした。
✕
『はぁぁぁ』
(来るの遅くない??)
ボク、飴村乱数は懐かしい友達を待っている。僕がデザインした服のモデルになってもらうためだ。
そのために徹夜だってしたわけなのに全く来ない舞城華灯に呆れを切らしていた。
(連絡先だって教えてもらってないのに……)
努力家だった華灯を応援するべくここのアトリエを継いだ、でもそれを見てだいぶ替えたね〜だとか笑えるようになったんだね〜とかそんなどうでもいいような話ばかりだった。
それはそうださすがにシンプル過ぎて嫌なのもあって色々決めてアトリエを変えた。だとしても反応がうすすぎた。
(そーだ!華灯の服でも見てやろ!)
少しだけ、ほんのちょっとだけ嫌味を言いたかった、華灯が来るのが遅すぎるのが悪いのだ。そう思い公式のSNSアカウントを探して見てみた。
そこに広がる色とりどりの服は僕にはとてもじゃないが真似なんてできなかった。『初めは真似からすればいい』なんてそんなことできなくさせるようなくらい”オリジナル”で溢れていた。
(あーあ、嫌味なんて言えるわけないじゃん)
そうやって1番古いものから見てみると着てみたい、とかこのデザインの仕方は考えたこともなかっただとか、尊敬できる部分が多くて変わらないな、としか思わなかった。
『あっ!SNSあるじゃん!』
連絡手段を忘れていた、これが使えるではないか!
✕
ピロン
そうやってSNSの通知音が物静かな部屋に響いた、正気見る気力も湧いてこなかったが、一応確認することにした。
『……え?』
それは明らかに”元”僕のブランド名だ、それを見る限り乱数だということは分かる。考えもしなかったSNSで繋がろうとするだなんて……
びっくりして通知を見るとDMが来ていた。そこには乱数の個人のアカウントのIDが貼られておりそこをタップした。
そこにはFlingPosseの日常の様なものがあり色々な写真が載せられていたがどの乱数も偽りのない笑顔だった。
(嫉妬……って)
僕は友達と言えるのが乱数くらいしかいなかった、だからこそ離れた時は思った以上に寂しかった。だからこそ戻ってきた時に自分以外の仲間がいて羨ましく感じたんだろう。
なんだか馬鹿らしく感じてきた。
(差を感じた部分がそこだなんて……おかしいな)
乱数の笑顔を見るとデザイナーの血が騒いだ。
『よーしっ!』
何故かとても捗った。考えれば考えるほど楽しくてデザインする手が止まらない、少し斬新にしてみたり新しく服の構造を変えてみたり。
時間をかけて描く、まだ時間はあるんだ、明日だってここきらきらヒカルみんなの谷……渋谷にいる。
投稿したそのデザイン、まだ服にしていないけれど悔いは無い、明日は明日で間に合う。何もかも間に合う、自分がそう……信じていれば。
○
そのデザインはあるブランドのSNSアカウントに投稿された。
題『明るい笑顔』
それをイメージに描かれたデザインは明るく何もかもを照らすかのように光り輝いて見えた。
✕
『……』
待っても待っても返事は来ないが華灯のSNSは動いていた。
(明るい笑顔……か)
それをイメージされたデザインは凝っていた本当に輝いて見えるかのようにまだ服にされていないのに期待できる。
今日もまた笑う、新しい仲間と共に
高め合う個性と共に時間は過ぎる。笑う理由は楽しむためと楽しいと表すため。
怪しさを隠すためにやっていた昔とは違う。今は心の底から笑いとある友人を安心させるためでもある。
_𝐞𝐧𝐝_