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とある小さな村にある些細な噂から始まったものだった。
村は山に囲まれており、トンネルを潜らなければ外へ出ることはほぼ不可能だという。
村へ出たっきり帰ってくる人は誰一人として居ない。そんなことが何百年も前から続いていた。
いつしかそのトンネルを魔の通路と呼ばれるようになり誰も近づかないようになった。
ただ一人を除いて…
「なぁ魔の通路の先には本当に何も無いと思う?」
ずっと気になっていたことを同じ中学校の同級生に言ってみた。かといってこの村には人口も少なく老年の方々しか居ない。中学生は全員で5人だけ、世界は狭かった。
「何もないに決まってんだろ、誰も帰っては来ないんだ。地獄にでも連れてかれたんだ。まひろ、いい加減にその話はよしてくれ、俺だって分からないんだから」
そうやっていつも答えるのが千春だった。
「でも…気になるし…」
「お前ってほんと探究心旺盛だよな、なんでも気になったことは分かるまで何度も質問したり調べたりしてさ」
「本当に何もないのか?…」
あのトンネルを知らない村の人間なんて居ないだろう。子供の頃、耳にタコができるまで聞かされたものだ。どの家庭でもそうらしい。絶対にトンネルに行かせないためだから。
でも俺は禁忌を犯してしまったのかもしれない。
その日の夜はセミがジリジリ鳴いていた。静かな場所なんてどこにも無いはずなのに、トンネル付近に着くと一瞬で音が遮断されたようにフッと消えた。その無音が自分の心に直接何かが侵食してくるような感触がしたのでブルっと身体が震えた。
村には所々街灯があるけれどここには灯りも建物も人も何もない。ただ真っ直ぐな暗闇が永遠と続いている。恐る恐る右足を1歩前へ踏み込んだ途端周辺に止まっていたであろうセミが 「ミ”ッ」
っと鳴いたのを聞いて3歩後ろへ後退りしてしまったと同時に片手に持っていたガラス製のランタンを落として割ってしまった。母さんに怒られるよりも、この世のものとは思えない空間にいることの恐怖で家へ猛ダッシュしてしまった。
その日はあまり眠れなかった。何か聞こえてくるようだった。
次の日先生から呼び出しを食らった。
職員室に入って先生と対面の状況になり、先生がゆっくりと口を開けて俺に質問してきた。
「まひろ…あのトンネルに入ったか…?」
誰かに見られたのか、誰にも見られ無かったのかは知らないが、先生に知られてしまうとは。
「えーっと..入ってないです。いや…入ってはないです…」
「つまり…トンネルを見ただけだな?そういう事でいいんだな?」
先生が真剣な表情でこちらを見てくるのでこれはただ事ではないのは伝わってくるのだが、何故であろうか。
「見るだけでもダメなんですか…?」
「ダメとまでは行かないが、もしあのトンネルにでも入ってしまったら…」
そのまま無言の時間が1分程流れた。
「…とにかく、まひろが無事でよかったよ。もう教室に戻っていいぞ。」
「ってことがあってさ、絶対魔の通路には何かあるってことだけは分かった。」
「はぁ…お前行ったのかよ…」
「夜は滅茶苦茶怖いからまだ日が昇ってる時に行くことにした。」
「諦めてもないんだな…別に俺はお前がどうなっても知ったこっちゃないけど、他人には迷惑かけるなよ?」
「速攻で破るけどさ…ランタン貸してくんない?壊しちゃって…」
「お前…」
千春から借りたランタンを持ってまたトンネルへと近づいた。今は暗くなく、怖いという感情は1ミリもない訳では無いが安心はできる。太陽が俺の見方をしてくれるようで有難いが、トンネルに入った瞬間に太陽が見えなくなった。
トンネルの中では自分の足音と、水がポチャンとトンネル全体を響かせる音があった。無音よりもこっちの方が落ち着くようだ。
そのまま何歩も何十歩も進んで行き、暗闇に包まれた。前は何も見えない、後ろは分からないが振り向きたくないと思ってしまう。見えるのは左手に持つランタンの灯火だけであった。
その内心が段々不安になっていき、歩幅が小さく、早歩きになり、最後には息が切れるまで走り続けていた。
出口はまだか、光はまだか、太陽はまだか、
そう願っていると何かが見える、葉っぱの葉緑体のような色がトンネル出口全体を埋め尽くしていた。
トンネルから出てやることはまずこれ、新鮮な外の空気をいっぱい吸って吐くこと、そうすることで体の中に入っていた変な物質のようなものが抜けていくように感じる。
深呼吸を終えてからふと気がついた。
怖くて後ろを振り向なかったが、振り向いてみるとそこにはただ断崖絶壁の山があるだけだった。
「俺、何してたんだっけ。」
その後、森深くへと歩き出した。