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前書き
魔理霖も霖魔理も好き……
この作品群に時系列なんてものは無いので安心して読み飛ばしたり適当に読んで下さい。たまにあるかもしれないけどそこまで関連付ける気はありません。基本的に単発で読めるプロレフィードを目指しております
私の好きなシリーズ、秘封霖倶楽部の新作が投稿されたのでもし良ければ読者の皆様も見ていただければ幸いです(唐突な布教)
「よお、まだ空いているか」
いつも通り、私は香霖にガラクタを押し付けに来た。
「空いてるよ。おやおや、今日は随分と収穫が多いじゃないか」
「今日は豊作だ。たんまり頂くぜ」
「はいはい」
他愛のないやり取りをして、報酬の金を幾らか貰う。小遣いとしてはかなり良い値段だ。
「この後暇なんだ。少し寛がせて貰うぞ」
「珍しいね。普段は暇だろうがそうでなかろうが何処か他の所に行くけど今日は違うのかい?」
「ああ。暫くここでのんびりしていたいだけだ」
カウンターの向こう側に入って薬缶に入れた水を沸かしながら棚から茶葉を取り出す。前に一緒に飲んだ時から
1回も使われていなかった様だ。
「他に茶葉でも買ったのか?」
「いや、最近は珈琲をよく飲んでいてね」
「そうか……変なこと聞いて悪かったな」
そんなつまらない話をしていたら丁度薬缶の笛の音が鳴った。気まずかったので助かった。
「じゃあさ、香霖も一緒に飲まないか?」
「そうするよ。ありがとう」
テーブルの急須に茶葉と湯を入れ、食器棚から二人の湯呑みを用意してそこにお茶を淹れる。
「今度一緒に飲むときは茶菓子を持ってくるぜ。何か食べたいものを言ってくれたらそれにする」
「落雁を頼んで良いかな。ある程度長持ちするからね」
「分かった。じゃ、それで」
椅子に座り、互いに茶を飲みながら見つめあった。
「……その調子じゃ、何かに思い詰めてる様に見えるけど」
先に口を開けたのは香霖。図星だ。長年の付き合いだとどうも細かな所作から内心を当てられてしまう。
「ははは……やっぱり香霖には敵わないな」
「古くからの誼だ。相談なら受け付けているよ」
「ありがとう。じゃあ相談させて貰うぞ」
軽く呼吸を整え、己が内にあった言葉を外界に吐き出す。
「香霖にとってどんなに努力しても追いつけない人って居るか?」
暫し沈黙が流れた後、香霖が眼鏡の位置を直した。恐らく結論が定まったのだろう。
「……そうだね、何人か居るけどその中でも君にとって役に立ちそうな例を話すとしようか」
「意外だな。香霖のことだし『無いよ。そもそも他人と比較する事自体良い事が無い』とでも言うと思ってたぜ」
「事実そうだけど、今の君にとって求めているものでは無いだろう?」
何時も通りの胡散臭い笑みを浮かべながら話す香霖だが、声色からは真剣さが伝わる。こいつなりに本気で考えているのだろう。
「君は誰かに『追い付かなければいけない』とでも思っているんだろう。それを原動力として動いている状態で『それは馬鹿げたことだから辞めろ』と言うのはデリカシーに欠けるし僕としても言いたくないからね」
「そりゃ有難いな。じゃ、遠慮無く聞かせてくれ」
「まずは博麗の巫女たち。特に霊夢だな」
意外だ。まさか香霖も霊夢に対してこんな思いを抱いているなんて。
「彼女は人で在りながら人でなく、神で在りながら神でもない。巫女だからってのもあるけど……振るう力も人の身には為せぬ業ってのもあるだろう」
あの力は常人が真似できるものではない。私だって魔法使いだが人間である以上限度というものがある。霊夢と肩を並べられるのは人で在りながら人から逸脱した者。紅魔の従者や半霊の剣士、現人神が良い例だ。
「何よりも”追いつけない”と思った理由だけど、まず博麗の巫女全般に言える事だけどルールとして組み込まれている事により強固な信頼関係を人間と構築している所だね」
「と言うと」
「彼女は常に一人で異変解決を行っている訳だけど、それ相応の力を持っているからこそ出来る芸当であって、普通の人間が同じようにやったところで上手くいくかどうか怪しいところさ」
確かに霊夢は昔から強い。今まで私が見て来た限りでも危なげない方法で眼前の障害を排除し、異変を解決してきた。
「そしてこれは霊夢個人の話だけど、他の巫女たちには持ちえない”魅力”を持っている。これが彼女にとって一番の強みであり、僕にとっての憧れだね。」
理由は何であれ、人妖を問わず惹き付ける一種のカリスマにも似た才能。今までの博麗の巫女は名前を知られる事が殆ど無かったが、霊夢は違う。
「霊夢に対しての言及はこれくらいにしておこうか。他にも居るからね」
「ああ。次は誰だい?」
「魔理沙。君とて僕はある種『敵わない』と思っているよ」
「……は?」
コイツ、今何を?私が「敵わない」だって?
「まぁ最後まで聞いてくれ。別に君の事を軽んじている訳ではないから安心してくれ」
まだ少し混乱しているが、とりあえず黙って聞く事にした。
「ちょっと待ってくれ。私はお前からしたら只の商売相手に過ぎないんだぞ?」
「それでもだよ。君は僕が今まで出会った人物の中で最も努力家だ。何に対しても真っ直ぐで妥協しない姿勢、探究心の強さ、知識欲の旺盛さ。どれを取っても素晴らしいよ」
まさか私が。ただの人である私が香霖に「最も努力家だ」なんて言われるなんて。
「勿論。君は努力を惜しまない。努力をすれば必ず報われるとは言わないが、少なくともその努力は無駄にはならないよ」
香霖の顔を見ると、いつもの様に胡散臭く微笑んでいた。それがどうも本音なのか嘘なのか分からなかった。
「そうか……ありがとうな」
「例を挙げるのはこれくらいにしておこうか。君の悩み事の本質はこれではないだろうからね。」
「どうしてそんな……」
香霖が私の言葉を遮るように口を挟んだ。
「僕が霊夢に対して言及した時、確かに君は動揺していた」
どこまで私を見ていたんだこいつは。いっその事この前霊夢に頭を割られた易者の後釜にでもなった方が儲かるんじゃないのか?
「魔理沙、君は霊夢に劣等感を抱いているのかい?」
その通りだ。だがそんな事を言ったとて現状は何も変わらない
「……そうだな。香霖の言うとおりだ。霊夢との差がどんどん広がっていく。あいつに追いつくどころか、差が広がるばかりだ」
「なら、どうする?」
「……どうするったって……どうすりゃ良いんだよ」
思わず本音が漏れた。この現状を打破するには今やっている事では不足だ。しかし他に何をすれば良いのか分からない。
「じゃあ、君にアドバイスをしよう」
「霊夢は君の事を待っている」
は?
「他と比較して卓越した能力を持っている個体というのは得てして孤独なものだよ」
茶を飲み干し、静かに湯呑みを置く。
「じゃあ香霖もそうだって言いたいのか?」
「半分正解、だね。人の社会という枠組みから見れば、確かに僕は孤独なのだろう。でもこの幻想郷はただの人間以外にも知性体は存在する」
軽い笑みを向けてきた。ここに来る客達の事を言っているのだろうか。
「それでもね、僕は霊夢の事が孤独に見えてしまうんだ」
笑みを浮かべながらも、数秒前とは違って目を伏せている。
「当人の持つ陰陽玉の系譜は勿論、博麗の巫女としての力……命名決闘と言う制約はあれ、この幻想郷の中でも頂点に位置する力を持っている」
事実、私も死力を尽くして霊夢にようやく渡り合えるかギリギリの実力だ。
「だからこそ、同じ目線で物を見れる人ってのは限られてくる。積極的に関わる事ができる存在となれば更に少なくなる」
現時点だと誰が同じ目線を持っているのだろうか。賢者か、或いはそれに類する存在か。彼女らも霊夢と積極的に関わる意思はあまり感じられない。
「だから、霊夢は君の事を待っているのさ。同じ目線を共有できる者になる時を」
私の瞳を見据えてくる。普段の胡乱な香霖とは全く違う雰囲気だ。
「とまあ、長話をしたけどその質問に対する答えはね」
「『そのままでいい』んだ。誰よりも努力家で上に登ろうとする意思こそが、霊夢に追いつく為に一番大事な事だ」
話は分かるが何か丸め込まれた気がする。喫緊を要する問題でも無いから現状維持は選択肢としてはまあ妥当なものであるが、それで本当にいいのだろうか
「ありがとな。少しはスッキリした」
緩くなった茶を飲み干し、店を出る
「それは良かった。じゃあ最後に一つ注意だけしておくよ」
「できる事をするのはいい事だ。でも極端な選択肢だけは取らない方が良い」
扉を閉め、家路に着く。
やれる事をやる。それで本当に追いつく事が、追い越す事が出来るのだろうか。
しかしまあ、やらずに考えるのも癪なものだ。帰ったら一つ一つ取り組むことにしよう。
それで新たにやれる事が見つかったら、それをするだけだ。